Mr. Cats' Gardenのブログ　あるいはニャンスケの生活と意見

2022/4/23     Wolfgang Amadeus Mozart 魔笛 Die Zauberfloete：ドイツ語上演、日本語および英語字幕2021/2022シーズンオペラ、 新国立劇場   

指揮：オレグ・カエターニ、演出：ウィリアム・ケントリッジ、美術：ウィリアム・ケントリッジ、　ザビーネ・トイニッセン、再演演出：澤田康子、東京フィルハーモニー交響楽団、新国立劇場合唱団、
    ザラストロ：河野鉄平、タミーノ：鈴木准、夜の女王：安井陽子、パミーナ：砂川涼子、パパゲーナ：三宅理恵、パパゲーノ：近藤圭、弁者・僧侶Ⅰ・武士Ⅱ：町英和、僧侶Ⅱ・武士Ⅰ：秋谷直之、侍女Ⅰ：増田のり子、侍女Ⅱ：小泉詠子、侍女Ⅲ：山下牧子、童子Ⅰ：前川依子、童女Ⅱ：野田千恵子、童女Ⅲ：花房英里子、モノスタトス：弁島唯博、
           
　2019年8月23日、Salzburgから羽田への帰路、Lufthansaの機中で、2018年にSalzburgで上演されたLydia Steiner演出のMagic fluteを見て、衝撃を受けたのは記憶に新しい。然るに、今回William Kentridge演出（初演は2005年）のMagic Fluteをみて、そして、唖然と言うべき衝撃を感じ、ニャンスケの脳裏に描いているMagic Flute上演史はあっさり改訂されてしまった。　


　今回の舞台は様々な形状にアレンジしたLED素子をコンピューター制御で操作することでダイナミックな幾何形状の動きを演出し、それに抽象的なト書きの役割を担わしている。Magic Fluteの特徴は、Operaの基本形と離れた冒頭から出て来る平台詞とmusicalの様な進行であった。Kentridge演出では、その冒頭の部分がダイナミックな電子制御グラフィック模様の乱舞に置き換わっていた。演者は普通のオペラのように、歌曲からスタートする。

　遠目に見た舞台の雰囲気は結構18世紀風である。しかし、コーラスとその場で主役的な役割をする演者との関係はギリシャ演劇風である。つまり主役的な人物は動きがあるが、舞台上の他の人物は直立不動的。そして、舞台の構造は写実ではなく抽象的である。オリジナルの意図からずれて再構成されたこの舞台をAmadeus Mozart が見たら何と言うであろうか？　

　Magic fluteは制作者を痛く刺激する凄まじい魅力を持ったoperaなのであろう。　何れにせよ、今回の舞台は何度見ても飽きないような深く大きな刺激を持っている。　今回の公演では出演した歌い手は、名前から察するに、全て日本国籍あるいは日系の方の様である。人種や母国語により差が感じられたのは無瑕疵の話で、今は、善し悪しは別として、演じられる舞台の質には人種由来母国語由来の差はない。今回も原語演奏で、英訳と和訳の字幕が場内の左右の壁に映写される。原語があまり判らなくても、理解はそれなりにスムーズである。　

　然るに、舞台がエンディングにかうところで、和訳字幕には、「イシス神とオシリス神に感謝、神々に栄光あれ」というような言葉が流れたように記憶している。今回の字幕では繰り返しイシス神オシリス神が出てきたので、強く印象づけられてしまう。ところが、そのときの英訳字幕には、「神々に感謝し、神の栄光を称えよう」と流れていた。　複数と単数の使い分けで邪教の諸々の神々と主なる神が見事に峻別されている。ヨーロッパでは、エジプト・ギリシャ。ローマの神話の神々の物語は深く根付いている。同時に、イエスキリストの父なる唯一の神が深く信仰されている。Mozartは言うまでも無くキリスト教信者であり、終幕は唯一の神の栄光の賛美である。神々は、天使達とある意味で似た存在で、戯れて神の栄光を称える装飾となる。

　和訳字幕に頼って居る人に、このMagic Fluteのendingの趣旨が正しく理解頂けたのであろうか。　最後の和訳字幕が上演された舞台の言いたかったことをぼかして仕舞ったのではないか？何だか一寸不安と疑問を抱えながら、、、という一寸した陰りが、この素晴らしいオペラの思い出に残されてしまった。

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