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カテゴリ:ハロウィン・キャッツ
フローリングにはわずかだが切れ目が入っているのが分かる。これはそこだけはずして、床下収納やワイン倉庫のような空間へと繋がれる仕組みなのかもしれない。ケイトがそこまで調べたとき、2人の足音が聞こえてきた。 「お嬢さん、こちらです」 「パパの書斎?…」 一人は部屋に入ることを躊躇しているようだった。 「床下に何か倉庫でもあるのでしょうか。それとも、先日のブラウンさんのお部屋のように地下室でもあるのでしょうか。。」 「分からないわ。でも、入ってみるしかなさそうね」 つかつかとまっすぐに入ってきた足音を、ケイトは再び机の下で確認した。床下からの物音はさっきより弱くなっていたが、それでもとんとんとなり続けている。 ―このまま見つかってくれればいいんだけど- ケイトは心の中でそう願っていた。しかし、さっきの呼びかけに返事がなかったことや、物音の大きさから考えて、グレンでない可能性も否定できなかった。 ―人間かもしれない― 「あら?この切れ目は何かしら。」 リサがフローリングの切れ目に気づいたようだった。 「サムさんを呼びましょう。私たちだけじゃ、手の施しようがないわ」 リサはすぐさまケータイでサムを呼び出した。ケイトはそのまま息を殺して様子を伺っていた。 しばらくすると、サムがどかどかとやってきた。 「リサ、どうした?」 「床下から物音がするのよ。でも、どうしたらいいのか分からなくて…」 「床下から?!」 サムが興奮したのは、机の下にいるケイトにも分かった。サムはしゃがみこんでコンコンと小さな音を立てている床に耳を当てた。そして、そのまま回りの切れ込みを確かめて、ブラウン氏の部屋の要領でボタンを探し始めた。 「ここだっ!」 サムは飾り棚の裏手にある小さなボタンを見つけると、そっとボタンを押してみた。しかし何一つ変化がなかった。 「おかしいなぁ。。。ここの電源はどうなっているんだ?」 「このエリアは事件のあと、警察の方が電源を落としていかれたようです。別に他にここを使う人もいないので、そのままになっていたんです。あの、今電源を入れてきます」 アンはバタバタと廊下を駆けていった。そして、遠くから入れましたっと叫ぶ声が聞こえてきた。 サムは再びボタンを押してみた。すると、目の前にあった床がすーっとスライドし、床から一段下がったところに、小さく丸まった裸の男がいた。 「きゃあっ!」 リサは慌てて目を背けた。そこに戻ってきたアンが、心配してリサに駆け寄った。サムは驚きのあまり声も出なかった。 男は相当に苦しかったらしく、床が開いたというのに立ち上がることもままならなかった。 「なにか…なにか着る物を…」 その声を聞いてサムは余計に驚いた。 「タディ!! タディじゃないか!!」 サムは自分のジャケットを脱ぐのももどかしくすぐさま男に掛けてやった。そして、抱えるように男を救い出すと、すぐさま救急車を要請した。 ずきずきとうずくように頭が痛む。俺はいったいどうなってしまったんだ。朦朧とする意識の中にいても、そばに人の気配がしているのがわかった。 「ここは…?」 「タディ!気がついたのか!」 ぼんやりと目を開けると、やたらまぶしい。ゆっくりと焦点があってくると、サムとマージーがそばに座っているのがわかった。どうやらまっしろな部屋のベッドで寝かされているようだ。まぶしかったのは、この部屋の白さのせいか。 それにしても、こんな風に背中を伸ばして眠るのは久しぶりのような気がした。サムに声を掛けようとパソコンを探しながら、ふと、サムがタディと俺を呼んだことに気がついた。 そうか、俺は人間に戻ったんだ。視線を下げると人間の鼻が見える。手も足も人間のものだ、あの肉球の感触はどの指にも感じることはなかった。 「サム。俺はどうなってしまったんだ?」 「タディ…無事でよかったよ。どうしてあんなところに閉じ込められていたんだ?」 「あんなところ? すまん。今は何も思い出せないんだ」 さっきからの頭痛も手伝って、深いため息がでた。俺は人間に戻れたのだ。うれしいはずなのに、なぜか寂しく切なさすら感じられた。 「タディ。すまん…。 僕は、どうしても謝らなくちゃならないことがあるんだ。…グレンのことだ」 「グレ・ン…?」 どうしたものか。俺はサムになんと言ってやればいいのだろう。どんなに考えても言葉がみつからなかった。しかしサムは、まったく別のことを考えていたようだった。 「タディ、思い出したのか? やっぱりグレンは、グレンはもう…」 サムはグレンの綿毛が落ちていたことやそれ以来グレンの姿が発見されていない事を説明してくれた。サムは誠実だった。俺の、グレンの行方が分からなくなったこと、もしかしたら、もうこの世にはいないかもしれないことの責任は自分にあると、頭を下げてくれた。 マージーが困った表情で俺に視線を送ってきたが、俺自身が戸惑っているのを見て取ると、少し考えて、この問題に結論を下した。 「ねえ、皆でグレンのお葬式をしてあげましょう。きちんと正式なやり方で。それがなによりの供養になるはずよ。そうでしょ、サム?」 「そうだな。そうしてあげよう。」 突然ノックが聞こえて、エリックがやってきた。 「やぁ、気がつかれたようですね…。ん?」 歩み寄りながら、エリックはじっと俺の顔を見つめた。 「どうかしましたか?」 「いや、すみません。どこかで見かけたような気がして…人違いでしょうね。では、少し検査をします。今日明日の2日検査して、異常がなければ退院できますよ」 エリックは、そういいながら脈を取り始めた。マージーは必要なものを買いに行ってくると言って、サムを連れて病室を出て行った。 一通りの検査を済ませると、あとはのんびりと過ごす事が出来た。ふいにしっぽを振ってみたくなって、しっぽがないことに寂しさを覚えたり、顔を洗おうとして、長い指に違和感を覚えたりした。 ふと思い立って洗面台に向かった。鏡には無精ひげの伸びた冴えない男が立っている。やっと戻れたんだ。長い日々だった。しかし、決して辛いばかりの時間ではなかった。 あの出来事はいったいなんだったんだろう。 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
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