北赤羽の侘しい駅前呑み屋街で呑む その3
何棟もの高層マンションが林立する北赤羽でありますが、数多くの住民がこの町に暮らしているはずなのに町行く人の姿は疎らです。民家の立ち並ぶ住宅街では住民の密集度が低いから住民との遭遇率が低めになるのも無理からぬことですが、巨大集合住宅が数多く建っているこの界隈で人通りが少ないというのは非常に不思議な気がするのです。埼京線が開通し、ここ北赤羽駅が開業したのが1985年とのこと、建物の状態を眺める限りではまだまだ老朽化とは程遠いから駅周辺の宅地開発はそれ以降であったと思われます。だとすると住民の高齢化もさほどではないはずです。この辺は都心へのアクセスも良くてそれなりに人気のある宅地なんだろうから空室が多いなんてことはなさそうに思えます。2022年の1日平均乗車人員は17,091人と最盛期の2017年の19,161人と比較すると減少しているけれど、これはコロナ禍の余波が影響しているということだろうから2023年はさらに盛り返してくることが予想されます。まあそもそも乗車人員が17,091人というのが多いのか少ないのかよく分からない。ということで公開されている最新と思われる「東京都統計年鑑(平成31年・令和元年)」のJRの駅別乗車人員を調べてみました。北赤羽のこの年度の乗車人員が6,983千人でした。これに近いのがあらら、横浜線の成瀬駅の6,989千人、多少範囲を広げても同じく横浜線の八王子みなみ野駅の6,842千人という結果でした。これは何というか無礼を承知で申し上げますが、相当少ないんじゃないか。でもこのデータ、つぶさに眺めてみると上中里や尾久の極端に少ないことは想像が付いたけれど三河島や南千住までもが北赤羽以下ってことになるんだなあ。ってことは北赤羽が特段、寂しい町ってことはないんでしょうけど、実感としては三河島や南千住よりは相当うらびれた感じを受けます。 そんな寂しい町だからだろうか、先の「日本料理 まる八」もそうでしたが界隈の酒場は単なる呑み屋というよりは、もっとご近所さんが集うための溜まり場のような位置付けに思えたのでした。3軒目の「酒処 蔵八」もまたそんな顔見知りばかりの集う溜まり場系酒場です。一般的な傾向として独酌に相応しい酒場というのは酒場らしい風貌を備えている場合が多く、逆に溜まり場系の酒場というのは酒場らしい意匠を整えることよりも集いやすさを前面に打ち出す酒場になりがちです。ぼくとしては圧倒的に前者を支持する者でありますが、将来、孤独を埋めるために酒場を訪れるようになったら後者に対する認識を容易に改めることになりそうです。分かり易い特徴としては多人数が寄り合える大きなテーブルが設置されているところでありまして、こちらも一人また一人とメンバーが加わってどんどん集団が拡大していきます。予め待合せての大人数はウザイ気もするけれど、自然発生的に人数が増えるのは悪くないと思うのです。でもそれが酒場を飛び出してゴルフコンペを開催したり,有志で旅行に出掛けるなんてことになると途端に面倒な気がし出してしまうのです。例外もあるかもしれないけれど、所詮酒場で知り合っただけのいつ切れてもおかしくない程度のヤワな関係である以上、酒場の重力圏から逸脱したら途端に反目するのはありがちな話です。ぼくの身近でもほぼ毎晩のように顔を突き合わせていた人たちが勢い余って休日にキャンプなんぞに出掛けてしまいそこで喧嘩に至ってしまい、一方が常連から離脱するなんて例は日常茶飯事のことであるけれど、余り愉快なことではないのです。何にせよ家じゃ邪魔者扱いされる男たちがこうした酒場で肩を寄せ合い少年の頃のようにお友達ごっこをするのを見ると、男というのはいくつになっても子供だなあということです。酒場によってはジャイアンのようなガキ大将がいる場合もあるからそこまでいくと微笑ましいというのでは済まなくなりますが。ともあれここでは皆さん、あまり肴もオーダーせず(きっと自宅で夕食を済ませてからここに遊びに来てるんですよ)酒ばかり食らっています。われわれもそれに倣ってポテトフライやチーズサラミなどの手軽な一品づつで済ますことにします。