キャリア官僚の退職増加と菅首相
コロナ前、文科系新卒の人気企業に旅行代理店が入っていた。 人気と比例するかのように、比較的短期の退職者も多かった。 良かれと思って就職先を選定して、働いてみて失望するといった定期採用者の行動はいまに始まったことではない。 アホな政治家の国会答弁書づくりや政策作りにうんざりして、政治家に転じるキャリア官僚は昔から多数いた。 なぜ真逆の動き?退職4倍増の若手官僚と、49.6%が公務員を目指す大学生=鈴木傾城2020年11月28日 MONEY VOICE …(略)…若いエリート官僚の退職者、この6年で4倍へ 2020年11月18日、河野太郎国家公務員制度担当相が明らかにしたところによると、20代の国家公務員総合職の退職者数が6年前の21人から「4倍超の増加」となっていることが分かった。 20代の総合職の自己都合退職者数を実際の数字で見てみると、以下の通りとなっている。2013年度:21人2014年度:31人2015年度:34人2016年度:41人2017年度:38人2018年度:64人2019年度:87人 さらに河野太郎氏がブログで指摘しているのは、国家公務員採用試験の総合職の申込者数も減少していることだ。 河野氏が自身のブログで述べたところによると、『国家公務員採用試験の総合職の申込者数はピーク時の1996年に45,254人だったものが2019年は過去最低の20,208人と半数以下になりました』とあり、申込者数も半数以下になっている。※参考:危機に直面する霞ヶ関 | 衆議院議員 河野太郎公式サイト(2020年11月18日配信) そして、これ以外にも東大生の官僚離れも進んでいて、2015年度の東大出身の合格者数は459名だったのに、2020年度には249名だった。 エリートたちが国家公務員という職に見切りをつけている 河野太郎国家公務員制度担当相は『危機に直面する霞ヶ関』と述べている通り、ここで取り上げている国家公務員総合職というのは、1府12省庁で働く職員を指しており、すなわち私たちが「官僚」「キャリア」と呼んでいる人たちである。 国家公務員総合職(官僚・キャリア)と言えばエリート中のエリートであり、一般の国民から見ると紛うことなく「上級国民」なのだが、実際のエリートたちは、すでに「中央省庁の国家公務員」という職に見切りをつけている。 30歳未満の国家公務員の中で「辞める準備をしている」「1年以内に辞めたい」「3年程度のうちに辞めたい」とした人が、男性で約15%、女性で約10%であることも分かっているので、仕事に生き甲斐も感じていないのが見える。 「大学生の49.6%が公務員になりたい」という結果の意味 ところで、官僚・キャリア組等の国家公務員総合職を目指すエリートは減っているのだが、これとは別に面白い傾向もあることは以前に指摘した。 2020年3月卒業予定の大学3年生に「就職したい企業・業種」を調査したら、以下のような結果が出てきたというものだ。1位:地方公務員 31.6%2位:国家公務員 18.0% 端的に言うと、国家公務員総合職(官僚・キャリア)を目指すエリートは減っているのだが、ごく普通の若者は逆に「公務員になりたい」と思っているということだ。 若者が地方公務員を目指すというのは、その理由に「日本経済の停滞を見越して安定志向を強めている」ことにある。 日本は少子高齢化を放置して、イノベーションを生み出す民間企業よりも、高齢者の介護やら老人ホームの運営が成長産業になるような国であり、正社員もどんどんリストラされて非正規雇用者が増え、非正規雇用者をピンハネする人材派遣会社が幅を利かせるような社会になっている。 さらに企業はコストを下げるために、途上国から若者を「留学生・実習生・単純労働者」のような形で連れてきて低賃金で働かせてコストを下げるような搾取構造を作り上げている。 若者でなくても「こんな国では先が見えている」と惨憺たる思いになる。 だから、今の若者は日本経済の停滞を見越して、いったん潜り込んだらクビにならない公務員で人生をやり過ごそうと思うようになっている。 その結果が「大学生の49.6%が公務員になりたい」という回答なのである。 しかし、エリート中のエリートは、もう公務員になりたいと思っていない。 つまり、国家公務員総合職(官僚・キャリア)に就いて、国を作り上げたいとは思っていない。 そこに魅力を感じていない。 「もっと自己成長できる魅力的な仕事に就きたい」 30歳未満の国家公務員の中で「辞める準備をしている」「1年以内に辞めたい」「3年程度のうちに辞めたい」とした人が男性で約15%、女性で約10%である。※参考:国家公務員の女性活躍とワークライフバランス推進に関する 職員アンケート結果 内閣官房 退職理由で最も多いのは「もっと自己成長できる魅力的な仕事に就きたい」という回答で、男性の49%、女性の44%がこの回答理由だった。 1府12省庁で働く官僚・キャリア組と言えば、国の財政や外交や防衛や国会の各機関で「政策」を企画立案し、政治家と共に「国を作っていく」壮大な仕事に就いている人たちである。 ― 引用終り ― 自民党は与党復帰後、官僚の人事での縛りをきつくし、官僚を意のままに操った。 菅首相は、官房長官時代に官僚人事を悪化させた主犯格。 一方、自民党内は党推薦という名簿で異論を封じた。 キャリア官僚は役人を続けることにも、国政の政治家に転じることにも自己実現する希望を見いだせなくなった。 菅首相が官房長官時代からすすめた統制の強化が生んだ結果が、優秀で自立心のあるものが辞めていく組織ということだ。 「寄らば大樹と縋りつく者たち」はまだまだ尽きないだろうが、上司や先輩の哀れな姿をみて、優秀で自立心のある者は次々とスピンアウトしていく。 優秀なノンキャリアの不足ははるか以前から問題視されているので、長年続いた日本のキャリアシステムは崩壊しつつある、ということになりそうだ。 米国はトップが変われば、役人のトップも変わる猟官方式(スポイルズ・システム)であることは有名だ。 だが日本の企業の多くが年功序列制が色濃く残っている。 米国と同様の仕組みを取るのは、相当に難しい。 自民党は期せずして、政治を支えてきた役人の力を削いで失敗した民主党内閣の轍を踏むのかもしれない。 その後に残るのは、「創価学会系のキャリア官僚の天下」ということも考えられる。 「どうもトップの器ではないらしい」との評判が立っている菅首相は方向転換できるだろうか?