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 NOB1960@ Re[1]:無理矢理持ち上げた結果が…(^^ゞ(10/11) Dr. Sさんへ どもども(^^ゞ パフォーマン…

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2006年04月13日
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「優雅な舞(その11)」

梅香は揖寧から白海を渡って乾城を経て芝草に戻り、智照の起居に報告しに行くと、智照と補佐の柴耀が書卓を挟んで話をしていた。

「遅参いたしました」
「どうだった?」
「連檣では玉拓さんが来ていました。往復の手間を考えてだと思いますが、桃香さんが手配したようです」
「妥当な判断だな。博耀が往復する間に詳報が来るから、玉拓は一日速く詳報に接する。桃香にしても範の様子を見るのに人手は必要だしな。印象はどうだった?」
「玉拓さんは範だけでなく、恭や柳も危ういと見てる気がしました。雁の変化次第と言っていましたが他にも考えているようで」
「他にも?誰かの意志とか言うことか?」
「はい。使令が麒麟に背くことの理由が怪しいと」
「関弓で蘭桂も言っていたが… 玉拓なら考えそうだな。桃香のほうは?」
「はぐらかされた気がします。玉拓さんに眼が行きましたので」
「玉拓を煙幕に使ったか。あそこの主従も気になるのだが… 何かあれば言ってくるだろう」
「紫陽では氾王君がいらして、香が移っていることも考え、翌日揖寧に向かわずに重嶺に行ってから回りました」
「朱楓にしてやられた気もするが、氾王が思惑通りに動くわけもないし、止むを得ないだろう。揖寧にすぐに行かなかったのは正解だ。妖魔の出没するところでは騎獣も神経が高ぶるから下手に匂いを纏っていたらおかしくなる」
「重嶺への第一報も揖寧から出ていますし、玉蘭さんを動かしたくないのかと。それから気になることがありました。『西陽楼』に氾台輔がいらして、報告の前にお帰り願いましたが、氾王君はどうも第一報を疑っていたような」
「あの御仁らしいが… 我らのことを探っていたのだろう。あの御仁を誑かすなどありえないが、どこまで本気で範のことを考えているのかを見定めたのだろう。下手な追従で誤魔化したらそっぽを向かれる。ある程度は拒んでみせたのだろう?」
「冷や汗をかきました。氾王君がいらしていると聞いてすぐに揖寧から重嶺への変更を考えましたが、口にはせずに範を後回しにするくらいのことは言いました。後々のことを考えれば安易な譲歩はつけ込まれるだけだと思いましたので」
「それで良い。適度なところで朱楓も助け舟を出すだろうし。実際そうだったのだろう?」
「はい。氾台輔にお帰り頂き、房の中の香を散らすくらいで妥協していただきました。本来なら私などが口答えできませんから」
「感触はどうだった?」
「白圭宮のことよりも玉のことが気にかかるようでした。済んだことを気にかけている暇がないのかもしれませんが」
「範にしてみれば才の荒民の負担があり、販路の雁を失い、慶は雁の負担で四苦八苦。巧や奏も懐具合が渋い。その上、玉の産地の戴が斃れた。雁が斃れた時にかなりの職人が他国に渡ったが、今後はどうなるか、頭を痛めているだろう。柳と戴の航路の監視云々に食いついてきたか?」
「はい。継続して監視する旨を伝えましたら、多少空気が和らぎました」
「梅香に察せられるとは相当だな。台輔を連れてきたのもその辺りを隠す意味があったのかもしれない。戴のことなど気にしていない振り。その割には『西陽楼』まで出てくるのだから、キツイのだろう」
「では?」
「玉の流れ次第では一気に傾くかもしれない。玉は妖魔を惹きつけるからな。王の加護がないと…」
「輸送する船が襲われると?」
「玉泉も無事とはいえない。一度襲われたらそこでの生産は王が玉座に戻るまで無理だろう。それくらい危うい」
「二年くらいは大丈夫かと思っていましたが…」
「それをあの御仁に言ったか?」
「いえ、琉毅さんに話しただけです。範は五年が勝負だろうと言ったら甘いといわれました」
「そりゃそうだろう。琉毅は揖寧で頑張っている。目の前で国が斃れるのを見てるしな。玉が止まれば、一二年と見てるだろう。その玉も年内持つかどうか怪しい。下手すると年内だ」
「そんなに厳しいのですか?」
「それくらいに見ているということだ。あの御仁次第では才の王が立つまで大丈夫かもしれないが、そんな楽観は前提にしない。範が斃れたら荒民が逆流しかねない。奏との関係改善に頭が痛いだろうな」
「そういえば、玄載さんも琉毅さんも王宮に伝える情報を最低限に抑えているようでした」
「廉王は比較的苦労知らずだから、考えに甘いところがある。だから玄載の方で調節しないと暴走しかねない。才の方は仮朝だから遠く離れた戴のことなど関心が薄い。それよりも範がどうなるかに神経を尖らせている。多分漣も奏との関係改善に頭を痛めているだろう。大口の輸出先の範が危ういんだからな」
「では、揖寧や重嶺にいるよりも紫陽にいる方が勉強になるというのは…」
「国が斃れる現場はそう見られるものじゃない。できれば見ないで過ごしたい。しかし、眼を逸らすわけには行かない。一方で、斃れかかった国が持ちこたえる様を見るのも後々の参考になる。もちろん役に立つ日が来ない方がいいがな」
「あまり経験したくはないですね」
「そりゃ誰だってそうだ。が、万が一の時には役に立つ。ことを未然に防げるかもしれない。まぁ、気休めだがな」
「勉強でも妖魔に遭遇すれば命懸けですからね。…そういえば、翠蘭さんのことは?」
「うちの大将にか?一応は訊いてみたが首をかしげていた。蘭桂が太師から貰ったお守りの話をしてたよな?翠蘭が戴に行くことになって挨拶に行ったら小さな玉の入った皮袋を常に首からかけて置くように、と太師に渡されたとか。そんなものに効果があるのかわからないが、蘭桂はそれを思い出したらしい。翠蘭は太師に可愛がられていたからね。大将に妖魔を避ける呪府や護符があるかどうか訊ねたら、四門の廟堂に犬狼真君の護符が置かれているが気休めだと言われた。犬狼真君その人ならどんな妖魔も逃げ出すだろうし、真君所縁のものなら効果があるかもしれないが、犬狼真君といえば皮甲に玉の披巾くらいしか思い浮かばないとか言っていた」
「皮甲に玉の披巾ですか?まさかそれで…」
「私もそう思ったので大将に言ったら大笑いされた。犬狼真君は黄海の外には出ない。黄海でもめったに人に遭わないし、会っても施しなどしない。だから太師が犬狼真君に会うことはありえないし、もし奇跡的に出会って施しを受けても他人に披瀝するはずがないし、ましてや他人に譲り渡すこともないだろうってね」
「黄朱の民だった劉王君が言うのでしたらそうなんでしょう。第一、玉は妖魔を惹きつけますから、護符にはなりません。そういう話ができたということは劉王君のご機嫌は?」
「どうにかな。妖魔についてあれこれ話をした。大将も黄朱の民だったとは言え、妖魔のすべてを知ってるわけじゃないし、使令が麒麟に絶対服従してるのがおかしいって思っていたらしい。で、台輔に折伏について話してもらって、漸く納得したようだ。黄朱の民が妖獣を捕えるのだって命懸けなのに、血が流れるのがダメで闘えない麒麟が折伏してるのは、基本的には呪の力で、折伏に失敗した麒麟もいるんだってね。呪で縛り付け、更に死んだら遺骸を喰わすという契約があるから絶対に麒麟に背くことはない。台輔がいなくなってからはもう少し生臭い言い方もしたけどね。それで落ち着いたようだ」
「それを聞いてホッとしました。先日は説明が拙いばかりに…」
「十人十色というように付き合い方もイロイロだ。その辺りを見極めるのも勉強だな」
「はい」
「とりあえず情報は共有した。問題はこの情報をどう捉えているかだな。当面は範の動向を見るのが主になるだろうが、その鍵がここにある。柴耀、さっきの話を」
「はい」

柴耀は智照に言われて書卓に拡げた地図の一点を指し示した。

「雁の虚海沿岸での妖魔の出没は慶との高岫付近から徐々に広がっていますが、上元の時には光州はまだ平穏でした。しかし、一昨日、柳との高岫付近の虚海沿岸で翼を持つ妖魔の姿が見られています。これが南側と同じように広がりをみせたら、戴との間の航路は途絶しかねないと思います。北路付近はまだ妖魔の姿が見られていませんが、時間の問題かと」
「あれからまだ十日も経っていないのに…」
「さっきも言っただろう?妖魔は玉に酔う。玉に惹きつけられ易い。そんな玉を満載した船が近くにいたら?」
「その船を襲いますね。でも、いくつかの玉を投げ捨てれば命は助かるかもしれません」
「今のところは襲われた船はない。が、これも時間の問題だろう。戴の方でも雁に近いほうから徐々に出てきているようだ。玉泉も安泰ではなくなってきている。これから陽の気も強まってくるから、問題は秋分以降だろう。冬の時期を乗り越えられればどうにかなるだろうが、この時期からこれでは厳しくなりそうだ」
「光州の虚海沿岸に妖魔が出没し始めたなら関弓からの監視が難しくなりますが?」
「柴耀、それはまだ急がなくても良い。秋分から冬至にかけての様子を見てからにする。雁は黒海や青海沿岸のことも気になる。下手をすると金波宮との連絡が途絶するかもしれない。そちらに注力してもらわないと。艮海門は通れないし、虚海の方も通り抜けが難しくなるだろうから、慶や舜などとの通商も途絶しかねない。西廻りの方も坤海門がダメだからな。虚海廻りはどうにかまだ大丈夫だが、これもどうなることやら… 余所だけでなく、柳自身もケッコウきつくなりそうなのに、雁から荒民が流れ込んできたらひとたまりもなさそうだな」
「智照さん、他人事みたいに…」
「熱くなっても致し方あるまい?冷静にどう対処するかだ。去年は良かったが、今年も雁の天候が良いとは限らない。兆候とかはありそうか?」
「今のところはまだ。ただ、高岫付近の雪融けが遅いようです。確認のため明日にでも藍旋を関弓に遣るつもりです」
「そうだな。義倉も去年よりは積み増しているが、高が知れている。早めに調べておく必要がありそうだな」
「高岫付近の妖魔については紫陽へは?」
「これは鴻基の様子も合わせて調べた方がよさそうだな。玉泉の様子とか… こちらから直接は無理だからこれも関弓か。藍旋で大丈夫かな?」
「私が行きましょうか?」
「そうだな… 梅香ならついでに金波宮まで行ってもらおうか。藍旋は高岫付近に遣って…」
「慶の方から高岫付近がどうかなどの情報を貰ってきますか?」
「一応こっちの高岫付近に妖魔が出始めてることを知らせて、向うの変化と照らし合わせよう。それにそろそろ単独での移動の見直しも考えないといけない。これについては緋媛に耳打ちしておいてくれ」
「黒海と青海次第でですね」
「それもあるが、範のこともある。あそこが傾くと白海も怪しくなり、漣や才との連絡が厳しくなる。奏の方から行って貰うしかなくなる。その辺りを金波宮がどう思っているかも知りたいな」
「…範のその後、と言うことですか?」
「抜かりはないと思う。実際、琉毅や玄載はそれを見越して動いているだろうが、範が斃れたらどっちが面倒見るかだ。金波宮の方で見てくれると助かるんだがな。こっちもそれどころじゃなくなるかもしれない」
「芬華宮の方は?」
「悲観的な材料も耳に入れている。上元を迎えてほっとしたところに戴が斃れ、範も危うい。雁もきな臭い。大将は腹を括ったのか変わりなかったが、悌薛は青い顔してたな。冢宰だけに騒ぎ立てはしなかったが」
「では雁次第では…」
「範よりもこっちが先になるかもな。だから小さな変化でも見逃すわけには行かない。とはいえ、雁で動くのは危険だ。そのことも考えた上でないと配置替えもできない。物騒な奴が出没し始めたら単独で飛び回るのは無理になる。ある程度まで行ったら金波宮に引き上げざるを得ないだろう。その見極めも必要になる」
「その辺りは感触をそれとなく窺う程度ですね?」
「間違っても言葉にはするなよ。精々が単独行動の見直し、高岫付近までの冬器の携帯くらいだろうな」
「わかりました」

梅香は沈んだ気持ちを隠すように頭を下げた。翌朝、梅香は関弓へと発っていった。






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最終更新日  2006年04月13日 13時23分07秒
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