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 NOB1960@ Re[1]:無理矢理持ち上げた結果が…(^^ゞ(10/11) Dr. Sさんへ どもども(^^ゞ パフォーマン…

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2006年04月16日
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「優雅な舞(その14)」

三月上旬、奏の遣士・趙駱は趨虞に乗って隣国才の国都・揖寧に向かった。とはいえ、高岫付近や赤海沿岸は妖魔が跋扈しており、趨虞でも抜けられそうにもないので、一旦漣の東端まで行き、そこから改めて才に向い、揖寧の琉毅の家についたのは夕刻だった。騎獣を厩に入れ、起居に顔を出すと、琉毅が吃驚した顔をした。

「趙駱さん、今日はどうしたんですか?高岫も赤海も通れないでしょうに」
「漣の方を廻ってきた。お蔭で一泊二日になってしまった。不便だな。どうにかして欲しいが」
「…そのために来たんですか?」
「それもある、と行っておこう。金波宮から呼び出しがあってね。大慌てで行って来たんだが… 地図はあるか?」
「あ、はい、ここに」

琉毅は卓子の上に地図を広げた。趙駱は柳の東の海上から緩く弧を描くように指を動かしてみせた。

「二月末にだな、ここ、柳の東の方からぐるりと雁の沿岸をなめるようにして東に蝕が抜けていった。こんな風にだな。その時運悪く戴から玉を満載した船が三隻ほど柳を目指していて、もろに横っ腹から襲われて転覆して沈んだ。誰も助からなかった。この船には戴の王師の空行兵五騎が護衛についていたが、このうちの二騎が避けきれずに巻き込まれ、行方知れずになった。妖魔を懼れてまとまって航海したのが裏目に出て、三隻あわせておよそ一月分の玉が虚海に沈んだことになる。一方、雁の方では主に光州の東側で田圃が潮に覆われ、今年の収獲が難しくなったようだ。被害はおよそ一郡五万戸に及ぶ。雪解け水と長雨による洪水の方が二郡十万戸で、それ以降は天候が穏やかに推移していただけに衝撃は大きい。これに加え、柳側の高岫付近にも妖魔が出没し始め、徐々に廬や里に被害が出てきている。春分以降は減っているようだが、雁から逃げ出そうという民は増えてきている。この二月でおよそ十五万人、うち慶に七万人、巧に四万人、柳が三万人、恭に一万人、といったところだ。この秋までの天候如何ではもっと増えるかもしれない、というような話を聞かされた」
「蝕の影響が出る前で十五万人ですよね?光州で被害が多かったということは柳のほうに逃げ出す人が増えるのでしょう?光州以外でも被害は出ているんですか?」
「南の方でも五千戸くらいは潮の被害を受けたようだ。酷いところでは里祠が倒壊し、里木が根こそぎ飛ばされたらしい」
「…蓬莱に卵果が?」
「その中に次の王がいたら堪らないだろうな。そうでないことを祈るしかない」
「今回の蝕で慶と柳、巧も荒民が増えて余所の面倒を見る余裕がなくなるということと、範がいよいよ、ですか?」
「その可能性がでてきた。戴の玉泉も年内はどうにか採掘ができそうだ、と見做されていたが、どうも怪しいらしい。湧水量が極端に減り始めているそうだ。下手をすると夏頃には涸れるかもしれない。その折角取れた玉が沈んだ。範にはまだ在庫があるらしいが、一月分の玉が沈んだのは痛い。今回は蝕だから仕方がないが、もし妖魔に襲われたら、戴と柳の航路が閉鎖されかねない。つまり、範の工芸が壊滅する惧れがある。冬官になっているものたちはまだいいだろう。しかし、市中の匠たちはどうか?不満が爆発した時、その捌け口になるのは何か?」
「…才から流れ込んでいる荒民ですか?」
「そうだ。範の南部諸州にはおよそ五十万人の荒民が逃れて行っているらしい。これは東部諸州からなのかな?」
「はい。揖寧から東は以前の十分の一も民がすんでいません。それくらい妖魔が酷いんです」
「なのに東隣の奏ではなく、北隣の範に逃げたわけだ」
「はい。宗王の践祚して高岫の向こう側は多少良くなったようですが、その分、こちら側に来たような感じですから。とてもではないですが、歩いて越えられる感じじゃないですね」
「それはいえるな。私も高岫付近は趨虞でも通れなかった。が、そうも言っていられなくなるかもしれない」
「範に逃げた荒民たちが迫害されると?」
「可能性は低くない。完全な逆恨みだろうが、下手にこれを抑えると今度は氾王が民を迫害したことになりかねない。もしそれで氾王が斃れたら範の民の歯止めがなくなる。どちらかといえば斃れた後のことが心配だな」
「そうですね。氾王がいらっしゃる間は大丈夫ですが、それ以降は範も荒れるでしょうし… 才に引き上げるか、新たな場所に避難するかですね。それが奏になると?」
「すべてが漣に渡るのは難しいし、恭に行くのも容易ではない。才に引き上げてここに留まるか、奏か巧に逃げ込むかだ。巧は雁からの荒民もいるので、そう多くは受け入れられないはずだ。となると場所は限られる」
「…そのように仮朝に働きかけろと?」
「判断するのは我々じゃない。我々は正確な情報を迅速に届けているだけだ。彼らが動かないのは我々の責任ではない」
「的確な判断を下せるだけの情報を提供するだけですよね。情報がなければ判断のしようがない」
「それから範が斃れた後のことだが、智照さんからこっちに投げられた」
「え?」
「もちろん、範の斃れ方、妖魔の出没具合によって変更もありうるが、才と漣は私のほうから見る可能性もある。今、康燕や史義は紫陽に常駐しているが、揖寧か重嶺か隆洽に移ってもらうかもしれない。その時の状況に応じてだ」
「そのことは朱楓さんには?」
「これから言いに行く。その後をどうするかのキメを入れる。だから私がこっちに来ているんだ。智照さんが出張ればいいのに、こっちにマル投げだからな。連檣については向うでやってくれるようだが…」
「お疲れ様です」
「まあな。ところで、紫陽辺りの情報はあるか?」
「春分の頃に戴の妖魔の話が来ましたが、その後、薫彩宮から長閑宮に『荒民をどうにかできないか?』と打診がありました。おそらくは先ほどと同じ流れだと思います。重嶺には穀物の輸出量を増やせないかと。備え始めているようです」
「うむ、ならば話は速いかもしれないな。範の方の高岫付近はどうなんだ?」
「今のところは平穏ですが?吉量だとちと不安ですが」
「一応は趨虞で来ている。帰りは重嶺廻りになると思う。紫陽に伝えることはあるか?長閑宮のこととか?」
「長閑宮は右往左往ですね。優柔不断でものごとをキッチリ決められない。ことが起きない限りは見て見ぬ振りでしょう。趙駱さんの情報もたな晒しにされそうな雰囲気です」
「まともな官はいないのか?」
「どうもこの国は官に恵まれていないようで。前王もそれで苦しんでいましたから」
「民の性質も付和雷同しやすいようだし… 次の王も楽ではなさそうだな」
「王のなり手がいればですが」
「…それも困ったものだな」

趙駱と琉毅は苦笑した。揖寧に一泊した趙駱は翌朝紫陽に向けて発った。趨虞なので多少寄り道しても夕刻に間に合うので、才と範の高岫付近を入念に見て廻ってから紫陽に向かった。紫陽についた趙駱は輸出卸の厩に奇獣を入れると起居に向かった。起居には朱楓と玉蘭がいた。趙駱の姿を見ても驚いた素振りも見せていない。

「趙駱さん、お待ちしてました」
「智照さんから連絡が入っているのか?」
「ええ、昨日梅香が来ました。蝕についての情報やらなにやら。趙駱さんがこっちに来るかもしれないってことくらい」
「私がここに来る理由は聞いていないのか?」
「正確には、聞いていません。予測はしていますが」
「じゃあ、その予測についてどう思う?」
「あら?随分な話では?キチンと説明していただきませんとお応えできませんわ」
「率直に聞くが、あとどれくらいだ?」
「さぁ、こればかりは」
「惚けなくても良い。玉の一月分が虚海に沈んだ。玉泉も湧水量が極端に減っているし、妖魔の跋扈も酷いようだ。今後一切戴からの玉が入らなくなった場合、どれくらい耐えられる?」
「玉蘭」
「はい、冬官府については年内は大丈夫です。市中の方はそろそろ底をつきそうです」
「冬官府から市中に流す予定は?」
「今のところはありません。が、此度のことで多少変わるかもしれません。ここの仕事も減りそうですし」
「金波宮からの発注は当分ないだろうな。国内消費も厳しいのではないか?」
「工芸品の需要は落ち込んでいます。しかし、漣への支払いがありますので、それで賄っているようです」
「穀物を宝飾品で買うのか。買い叩かれたりしないか?」
「それは家公の仕事ですので」
「それについては商売上の機密だから内緒だよ。経費を除いた利益の大半は隣の維持費か上に収めるようになっている。まぁ、玄載相手ではこちらが買い叩く方になってしまう」
「剛毅だね。では玄載が苦労してるのかな?」
「殆んど雨潦宮に収めているようだけど?廉王はケッコウしわいみたいだけど、官が甘いとか」
「とはいえ、慶の分まで買わせるのは…」
「無理でしょうね。恭も渋くなりそうですし。だから商売も暇に」
「ならば、家生も減らしても構わないか?」
「康燕と史義ですか?それについては状況次第ということで」
「妖魔次第ということか?才や漣との連絡が取れるほうからすれば良いが?」
「とりあえず玄載のところに預けて、状況を見極めた上で判断するのでは?」
「それで構わない。今はまだ隆洽からよりも重嶺からのほうが確実に連絡が取れる。紫陽からは揖寧にも重嶺にも行けるが、これが途絶するようならうちからということになる。あるいは連檣や芝草との連絡が取れないようならうちから重嶺経由だな」
「そうですわね。あるいは芝草が先になるやもしれませんが」
「それも頭が痛そうだな。連檣や蒲蘇については何か聞いているか?」
「桃香は脇が固いから何も。玉拓も似たようなものね」
「…少し探りを入れておいてくれ。連檣はそろそろ三百年だろう?」
「そうですけど、三百年は政務に厭いるせいでしょう?このような時期に厭いますか?」
「こういう時期だからこそじゃないのか?ここが傾けば一気に最年長だろう?」
「その次が金波宮でしたわね」
「…今で三番目か。まぁ、そういうことはないだろうな」
「…と思いたい?」
「いや、あの人に厭きると言う言葉が似合うと思うか?」
「いえ、無理ですね。でも、何もすることがなくなったらわからないわ」
「朱楓、何をいらついているんだ?」
「すみません。言葉が過ぎました。やはり気が高ぶっているのかもしれません」
「初めてのときはそういうものだろう。私のときは予兆も何もなかったが… 予兆があるのは厭だな。辛いものがある」
「そうですね。でも、こういうことに慣れるのも厭ですわ。あるいは…」
「金波宮に引き上げるか?一段落したら皆考えるんだろうな。補佐には悪いが」
「何のことでしょう」
「玉蘭は空惚けるのがうまい。紫陽にいるとみなそうなるのかな?」
「さぁ?」

玉蘭の惚けぶりに趙駱は苦笑した。とりあえずの目的は達成したからいいだろう。問題はいつどのようにして斃れるかだ。こればかりはどう転ぶかわからない。斃れなければそれに越したことはないが、楽観を前提にしてはいられない。最悪の事態に常に備え、何事もなかった振りをして、陰でホッと息を吐く。それが普通になっていくのが少し哀しいが。趙駱はそんなことをふと思い、すぐに打ち消して、会談を終わらせた。趙駱は紫陽で一泊して重嶺に向かった。






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最終更新日  2006年04月16日 12時02分14秒
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