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 NOB1960@ Re[1]:無理矢理持ち上げた結果が…(^^ゞ(10/11) Dr. Sさんへ どもども(^^ゞ パフォーマン…

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2006年04月21日
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「翼の翻る時(その1)」

『氾王崩御』と鳳が啼いてから一月が経った。あと半月ほどで新しい年を迎えるというのに、才国首都揖寧に明るさはなかった。凌雲山の頂にある長閑宮の王や麒麟の不在はまだ三年なので、里祠に麒麟旗が揚るのも先のことである。氾王が斃れる前から範の浮民との諍いが激しかった才の荒民は、冬器を持った王師や州師に追い立てられるように才に戻りつつあった。範の浮民たちに収獲を奪われ、それを取り戻すための戦いなどで傷つき、住む場所を追われ、糊口を雪ぐものとてなく、範に逃れた時よりも疲弊しきった姿で故国に戻ろうとした荒民たちを高岫付近で待ち受けていたのは血に餓えた妖魔であった。多くの犠牲者が出たのに気付いた範の王師や州師が才の荒民を追う手を緩めたので、およそ半数が範側に残った。才の州師が慌てて救出に向かい、多くの民を屠って満足した妖魔たちが一休みしている間に荒民たちを迎え入れたが、その数は範に逃れていたものの十分の一にも満たない数であった。これが長閑宮の仮朝が何もなさなかった結果である。二十万人以上の民が故国に戻れずに朽ちたのであり、それとほぼ同数の荒民が妖魔と範の王師や州師に取り囲まれる形で飢えと寒さに凍えていたが、才にはなすすべがなかった。この結果を知らされた冢宰の呀孟は己の責任を痛感し、辞意を表明したが、呀孟に替わって仮朝の長となるものもなく、結局辞意を撤回せざるを得なかった。呀孟にとって冢宰の椅子は針の筵であった。そんな時、巧から高王が表敬訪問するという連絡が来た。前采王は高王がまだ慶の官だった時から何かと頼りにしてたと聞く。呀孟は縋るような気持ちで高王を出迎えた。微行の際には殆んど供をつれない高王だが、五人ほど連れがいた。慶の遣士の制度は高王が慶の官だった時に作ったものなので、呀孟は遣士の琉毅を呼んでそばにいて貰うことにしていた。微行だからということで、呀孟の執務室で会談が行われることになり、才の側は呀孟の他は太宰と大司冦の二人だけだった。高王の連れのうち、高王と並んで卓子についたのは一人だけで、残りはその後ろに控えた。

「高王君には遠路揖寧までお越し頂き、真に申し訳なく思っております。前采王も高王君にはお世話になったとか。こちらから挨拶に行くべきところですが、あいにく…」
「いやいや、気にしないで欲しい。範が斃れ何かと大変だろうと思ってね。少しでも手助けができればと思って、いうなればお節介というもの。迷惑かもしれないが」
「迷惑などとんでもない。私どもの不明のせいでイロイロございまして…」
「ああ、範に逃れていた荒民のことだね。それについては慶の遣士のものたちに知らせてもらっている。今日も何か参考になることを言ってくれぬかと二人ほど連れてきている。傲霜にいる春陽と隆洽にいる趙駱だ。そこにいる琉毅の同輩になる。まぁ、私が慶の官だった頃からの知り合いだから何かと手伝ってくれたりする」
「春陽と申します」
「趙駱と申します」

高王の後ろに控えていた春陽と趙駱が挨拶をする。呀孟たちは隆洽と聞いて目を見開き、思わず顔を見交わしてしまった。巧だけではなく、奏の遣士が来ている。その遣士が後ろに控えているのに、高王の横に座っているのは、まさか… 高王はわざと気がつかなかったような振りをして、他のものも紹介する。

「春陽の両脇にいるのが少麓と昭媛、翠篁宮の冢宰府で働いて貰っている。で、私の隣だが、その昭媛の兄で秀絡という」
「秀絡です」

呀孟は高王の横に座るものが巧の官の兄だと言う紹介にホッとした表情をみせた。でも、何をしているものか?そのことに頭が向いた時に高王がつけたしのように言った。

「かつてはこの昭媛らとともに翠篁宮に仕えてくれていたが、何もそこまで私の真似をしなくてもよいのに、今では一国の王となり、奏国宗王と呼ばれている」
「え?そ、宗王…君?」
「かつての主上が才を訪問するというのでついてきてしまいました。なにとぞ、よしなに」
「……」

呀孟たちは眼を白黒させて、言葉が出てこない。呀孟は自分の後ろに控える遣士の琉毅を振り返り、問い質す。

「これは一体どういうことなんだ?」
「はぁ、範に取り残された荒民のことなどを高王君にご相談していたら、いつの間にかこのように」
「いつの間にか?そういうことなのか?」
「実際にそうなので」
「……」

呀孟が琉毅にかわされて止むを得ず高王に向き直ると、高王は少し困ったような顔で言った。

「才が奏と仲違いしてるのは知っている。が、才と巧の間にいる奏の頭ごなしに話を進めるとイロイロ不都合があってね。先日斃れた範のことも考えるならば、奏にも協力してもらわないとことが進まない。一応、漣や範とも交渉しているが、私としても才が孤立するのは避けたいからね」
「才が孤立?」
「そうだ。此度のことで才は範との関係が悪化しているだろう?奏とはもともと仲が悪い。漣は範との繋がりが深い。巧としては才の肩を持ちたいが、それによって奏や漣、範と仲違いする訳にも行かない。八方美人と批難されるかもしれないが、どの国とも仲良くやって行きたいのだ。本来各国は相互不干渉が建前だが、王が斃れたあとは助け合わないとどうしようもない。水に流せとは言わないが、王が践祚するまでの間くらいは我慢できないだろうか?」
「我慢と申しますと?」
「範にはまだ二十万人もの才の荒民が残されている。府第に拘束されたものも数千人、これも処分よりは国外退去させたいようだ。が、高岫は妖魔が居座り、容易に越えることはできない。そこで漣に協力を求め、漣の船で永湊まで運んでもらおうと思っている。一方、範から逃れようと言う荒民もまた運んでもらおうと思っているが、漣としては永湊までなら良いらしいのだ。できれば奏の没庫まで運んでもらいたいが、そこまではできないらしい。何分何万、何十万という人を運ぶんだからね。できるだけ短い距離を何度も往復するのでないと困るそうだ。今のところは虚海側は妖魔が出ていないので、出る前に終わらせたい。そこで、永湊から奏との高岫である奉賀まで荒民たちが通過するのを見逃してもらいたいのだ」
「永湊から奉賀までですか?」
「そうだ。範からの荒民が一気に恭に流れ込むと、今度は恭が傾きかねないので、奏や巧でも引き受けようと言うことだ。無論、才の荒民も希望するなら受け入れるつもりだ」
「それは巧が、ですか?」
「巧と奏の両者でだが、できれば奏に行ってもらいたい。何分巧には雁からも荒民が入ってきているからな。余裕がない。逆に奏の方は西部諸州の民が少なく、そこを耕作してくれるものを求めている。基本的に範の荒民を受け入れるつもりだが、才の荒民でも問題はない」
「…永湊に送るというのはそういう意味なのですか?」
「才としても二十万人もの荒民が帰還しても揖寧から北では受け入れる余地はあるまい。揖寧から東のこれまで妖魔の跋扈していた土地なら妖魔が姿を消しているなら十分受け入れることができるだろう。ただ、長年耕作をしていなかったせいですぐには収獲も望めまい。まぁ、それでも才に留まるというのも、高岫を越えていくのも民に判断を任せればよかろう。好きにさせればよい。これは範の荒民にも言えることで、高岫を越えるのが厭だというものは才で面倒を見てもらいたい」
「範の荒民をですか?それは難しいともいますが?」
「無論、範の荒民たちもそれは十分判っていると思うから、才に留まるものは少ないと思う。単に強制をしたくないだけだ。荒民でどこで苦しむかくらいは自分で判断させたいというだけだ」
「では、当人が巧が良いといえば巧で受け入れてもらえるのですか?」
「できればそうしたいが、受け入れには限度もある。さっきも言ったように巧には雁からも荒民が流れ込んできている。今年だけで十万人は流れ込んできており、今後も増える可能性が高い。ここに才や範の荒民を受け入れるのは容易ではない。巧としては、もし可能であるならば、才の東部諸州に留まって欲しいくらいだ。奏は違うようだが」
「奏はかつて六百万人とも言われた正丁が今は二百万人になるかならないか。三分の一ほどしかいないのです。王のいない百年余りの間に田圃は荒れ果ててしまいましたが、新たに切り拓くよりは多少容易に耕作が可能となります。気候も才に近く、なおかつ地味も良くて収獲も期待できます。問題はそれを耕す民が少なすぎるということです。残念ながら奏は雁や戴からは遠く、あちらから荒民が流れ込むことは殆んどありません。範は匠の国ですから、一人でも多く奏に来てもらいたい。無論、才からも来て頂けるなら大歓迎です。過去に様々なことがあったことは私も知っていますし、すぐに和解と言うのも難しいでしょう。だからこそこういう時に、本当に憎むべき相手かどうかを見ていただきたいのです。いかがでしょうか?」
「いかがといわれても即答は…」
「今すぐにとは秀絡も思っていないだろう。が、範に遺されている荒民たちはどうだろうか?あの地で朽ち果てるのをお望みかな?」
「そ、そんなことは決して…」
「紫陽からの連絡では範の王師や州師は荒民たちを妖魔の待ち受けている高岫に追いやることはしていないが、荒民たちに糧食を分け与えることはしていないらしい。というよりも分け与えるだけの糧食すら確保できていないようだ。一口に二十万人と言っても彼らの糊口を雪ぐだけのものをそろえるのは容易ではない。漣からの輸入で対処しようとしているが、どうも焼け石に水のようで、着の身着のままで逃れようとしていただけに次々と倒れているらしい。猶予は殆んどないそうだ。おそらく春までは耐え切れぬであろう。範と才の同意が得られれば漣の船で彼らは永湊まで戻ってくることができる。彼らのことを見捨てるか?」
「……」
「少々キツイことを言わせて貰うならば、今年の初めに戴が斃れた時点で範にいた荒民たちに引き上げるよう言っていれば、範の浮民との争いは起きていなかったかもしれないし、その後高岫付近で妖魔に襲われることもなかったかもしれない。これらのことでおよそ二十万人もの民の命が失われたと聞く。確かに大国の範が斃れるなど想像だにできなかったかも知れぬ。しかし、その範よりも長い治世を誇っていた奏でさえ斃れたのだ。一昨年にはその奏と同じくらい長い治世の雁も斃れた。奏も雁も突発的に斃れたのだが、範の場合には予兆があった。その予兆を無視し続けた結果が今日のありようだ。今後も周りで起きていることから眼を背け、民の被害を増やそうというのか?そうしたいというのならやむを得ぬが」
「そ、そういうことはございません」
「そうではない?ではどうするのだ?」
「は、はぁ…」
「今この場で合意に至るとは思っていない。とはいえ私もそう暇ではない。明日には傲霜に戻らねばならないのでな。そこで景王に相談して遣士の諸君に協力してもらうことにした。そちらの対応が決まるまでは春陽と趙駱が琉毅のところに留まり、私や秀絡の代理として交渉に当たってもらい、合意に至り次第、奏や巧だけでなく、範や漣にも連絡してもらい、船が永湊に向かうことになる。私は別に慌ててはいないが、こうしている間にも荒民が朽ちると思うとなぁ…」
「わ、わかりました。早急に検討して結論を出します。我々としても民の命を失うことは本意ではありません。民のためにも良い結論を出せるよう努力します」
「そうか?無理のないようにお願いする。春陽、趙駱、それに琉毅、手間をかけるがよろしく頼む」
「わかりました」

高王らは会談を終え、微行だからと長閑宮を辞して揖寧の街にある琉毅の家に向かった。飯堂で卓子を囲み、夕餉を摂った。趙駱が楽俊に話しかけた。

「楽俊さん、殆んど恫喝でしたね?」
「そうか?範にいる民のことを考えれば当然のことを言っただけだ。為政者の不作為は許されないことだからな」
「これで上手く行きますかね?」
「上手く行かなかったらそれだけのことだ。その時はそれなりに動くしかあるまい」
「となると才の荒民は…」
「それは長閑宮が考えればいいことだ」

楽俊の言葉は厳しかった。





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最終更新日  2006年04月21日 12時27分23秒
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