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2006年04月22日
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「翼の翻る時(その2)」

赤楽二百二年正月十五日。慶国首都堯天・金波宮では上元を祝う式典が昨年より幾分簡素に行われた。昨年は上元に鳳が『泰王崩御』と啼き、冬至の翌日にも『氾王崩御』と啼く、あまりにも暗い年となった。上元は前の年が悪ければ悪いほどそれを撥ね返すべく派手な催しにするが、雁から流れ込んでくる荒民の負担やら、高級品の産地である範の工芸が瓦解したことで、派手な宝飾品などの入手も難しく、自然とジミになった。金波宮では範の匠などを受け入れていたので、ちょっとした工夫を凝らし、景王の召し物は艶やかに見えた。来賓としては高王・楽俊が来ていた。午過ぎまでの式典を終え、陽が西に傾く頃には蘭邸の花庁に金波宮の首脳や高王らの顔が揃った。

「範についてだが、緋媛、朱楓は今日はいないようだが?」
「はい。諸般の都合で参れないと連絡がありました。まず、才の荒民ですが、昨年の秋頃から範の浮民との間で争いが絶えず、これが氾台輔失道の引き金となったと見られ、氾台輔の快癒を願って一時期は沈静化していましたが、氾台輔が登霞なさると激しさを取り戻し、王師や州師の一部が氾台輔の仇と攻め立てたりして、多くの死者がでました。氾王君が遺勅で浮民を下がらせ、荒民を才に戻すように定めたので、戦闘は止み、荒民が戻り始めましたが、才との高岫付近に多くの妖魔が出没し、荒民を襲いました。範の王師などは列の後ろにいたので、荒民たちが妖魔に襲われ、逃げ惑い、将棋倒しになったりして騒ぎが大きくなるまで気付かず、退却を始めた時には列の前半分はほぼ壊滅だったようです。範側からの通告で出迎えに出ていた才の州師が救出に向かいましたが、重軽傷者も含めて生存者は僅かで、範の浮民との争いや妖魔の襲撃でおおよそ二十万人が犠牲になったと見られます。この骸が惹き付けたのか、妖魔は主に才との高岫付近から紫陽以南の白海沿岸に集中しております。範側に取り残されたおよそ二十万人の荒民が高岫を通って才に戻れないので、範、才、漣、奏、巧の五国で協議し、虚海を船で運ぶことになりました。他方、北部諸州のほうは平穏で荒民として他国に逃れるものは少なく、紫陽以南に浮民が溢れているようです。この浮民が荒民となる場合も漣の船で運ぶことになっていますが、荒民もまだ二三万人しか運べていないようです」
「やはり一日に千人程度なのか?」
「はい。漣の船は穀物を漣から運び、範でこれを降ろして荒民を乗せて永湊まで運び、漣に戻りますので、一回りするのに十日以上かかります。範と永湊との往復に専従する船もありますが、それでも十日近くかかります。船に乗っている間の糧食なども必要ですし、船の数も限られます。才の荒民だけでも夏一杯はかかると思われます。高岫が通れればもっと多くの荒民を帰還させられますが、まだ安全が確保できていないもようです」
「春分くらいから夏至にかけて高岫が通れればかなり違うだろう?」
「才の方は高岫を越えてくるもののために州師を高岫付近に派遣していますが、範の方は荒民と浮民が接触しないように分離しており、結果として荒民を高岫に追いやる形になっています。かなり多くの民が屠られていますので、味をしめたのか妖魔が減る気配がないどころか、毎日のように被害が出ているようです」
「では、細々と船で運ぶしかないのか…」
「今でも費用は馬鹿にならない。穀物を運んだついでという名目でかなり安く抑えてもらっているが、その費用でさえ雨潦宮の持ち出しになっている。範も穀物の代金が精一杯だし、才にはまるきりだ。それとも金波宮が持つか?」
「楽俊、それは無理だろう。うちとて雁の荒民で手一杯だ。そちらまでは手が回らない」
「ならば、その程度のこととして受け流すしかあるまい。できないことに首を突っ込んでも周りが迷惑をする」
「そうだったな。琉毅、おおよそはこんなものか?」
「はい。楽俊さんが長閑宮を揺さぶってくださったお蔭でどうにか船が永湊まで来ることになりました。それでもかなりのものです。下手をすれば範で全滅することもありえたのですから、感謝こそすれなんですが、面子を気にする輩が多いのか、あれこれ文句を言われたりしますね。まぁ、聞き流していますが」
「…次の王が大変そうだな。自分たちが何をしたかわかっていないとは…」
「仕方あるまい。そういう官もいる。金波宮にも昔はいたのだからな。貧すれば鈍す、だろうな」
「そういうものなのか?そういう官が増えないよう肝に銘ずるしかないのだろうな。恭はどうだ、桃香?」
「はい。通司からの報告にもありましたように範からの荒民はまだ数えるほどで、主に職を失った匠たちです。範との高岫付近にも妖魔が出現した形跡はまだなく、範の北部諸州の民に動揺はないようです。恭国内はこれと言って」
「供王は間も無く治世三百年だと聞くが、このような有様では祝にもいけぬ。よろしく伝えて貰えぬか?」
「わかりました」
「桃香、三百年だから、という徴候は何かあるのか?」
「楽俊さん、兆候と申しますと?」
「王にとって山がいくつかあって、最初の十年、次が三十から五十年、その次が三百年だ。王としての地位を確立できなければ十年もたずに沈む。王としての自覚を持たずに人の感覚でいれば五十年ほどで斃れる。やるべきことをやり尽くして、もはややるべきことはないと空虚になり、政事に厭きるのが三百年だと聞く。だから、三百年で斃れる時には国は大きく廃れ、多くの民が朽ち、見る影もなくなるとか。かつての雁がそうだったらしい。妖魔すらも食うものがなくて朽ちてしまうくらいの酷さだったそうだ。そうなっては困る、ということだ。今は範が斃れ大変な時期だけに政事に飽きることはないかもしれないが、心の闇というのはわからぬものだ。注視していないといけないと思うが?」
「今のところはそのようなことはないと思われます。今後も注意しておきます」
「譬え自分一人で解決できることでも必ず誰かに言付けておくことだ。それくらいはした方がいい。脇が甘いのと情報の共有は違うのだからな」
「そ、それは…」
「緋媛、智照、もう少ししっかり把握しておかないとダメだぞ。玉拓は仕方ないにしても隠し事があっては躓くだけだ」
「はい。気をつけます」
「楽俊、どういうことだ?」
「恭や芳の情報があまり入って来ないのでね。都合のいいことだけを知らせるようなことはないが、いざという時に知らなかったために酷い目に会うのは厭だからな。それにいつ何時己が襲われ、身罷るかもしれないのだからな。一人で情報を抱えていたら、その情報を他の誰かが知ることができなくなる。玉拓は芳の官だからという言い訳があるが、それでも今は遣士代行としての職務にあるのだからその辺のところは上手くやらないとな。蘭桂、どうにかなるか?」
「どうも育て方を間違ったようで。この忙しいのに二人目を授かったとか。困った奴です」
「そういえば昨年どうするかで悩んでいましたが、年が近い方がいいと若いのが言っていましたね。それで決めたのでは?」
「昨年というと泰王崩御の折か?」
「ええ、詳報を聞きに連檣に来た際に。補佐たちは大概官の子で兄弟と年が離れていませんので。仙は二人しか子が授からないのですよね?」
「どうもそうらしいな。いや、そういう話をしてたわけではない。情報共有が上手くなされていないということだったはずだ。蘭桂、話を逸らさないでくれ」
「すみません。我が子のことが最も把握できていませんので」
「緋媛、兄夫婦のことは把握できているか?」
「いえ、私も父と似たようなものです。泉媛さんの方はまだどうにかなるのですが、兄の方はちょっと…」
「となるとあそこに補佐を置くほうがいいのか?あそこの補充は峰喘だったか?」
「泉媛、玉拓と比べると見劣りするが、当面は泉媛が子育てに専念するから峰喘に補佐としての力をつけて貰うしかない。泉媛の復帰後は玉拓を除く」
「蘭桂、それで大丈夫なのか?」
「玉拓は芳の官ですから何れは代行からも外すしかありません。今の状態のほうがおかしいのですから」
「確かにそうだな。だが何れはうちの官だけでないようにするべきかも知れぬ」
「それは巧や奏にも協力を仰ぐということですか?」
「今でも楽俊はうちの官を自由に使っている。それがいけないというのではない。優秀な官を出し合ったらどうかということだ。ただ、命令系統などについて十分に検討が必要だろうがな。楽俊、その辺りはどうだ?」
「すぐには難しいな。今は慶の遣士の制度が確立している。巧の官も派遣することを考えていないわけではないが、最初のうちはどうしても遣士の見習いのようなものだろう?人事の問題もあるしな。足の引っ張り合いも厭だな」
「人事については頭が痛いな。夕暉、蘭桂、どう考える?」
「人事的には別系統のほうがスッキリしますが、そうなると競い合いになり、邪魔をしあいそうですね。効率の悪化を招くよりも今のままの方がいいかもしれません。ただ、人材の派遣はしていただきたいですね」
「慶一国ですべてを賄うのは限界かもしれませんが、別系統では足の引っ張り合いになりそうですし、今の制度に他国の官をどのように組み入れるかは慎重に検討すべきだと思います。慶に任官してもらうのが楽ですね。楽俊さんみたいな人だといいのですが」
「うちで官をやると王になれるかもしれない、ということか?」
「うちでも王になった奴はいるぞ」
「宗王は官として実力を発揮する前に王になったからな。これだけの組織を作った実績は誇っていいと思うぞ。ここにいる連中はみな楽俊に頭が上がらないだろう?」
「…褒めても何もでないぞ」
「別にお世辞など言っていない。事実だろう?」
「人材云々も含めて巧はまだまだだよ。私以外でここにいる面々と渡り合えるのはいないからね。時間がかかりそうだ。それに育てても横から掠め取られそうだし」
「奏のことか?」
「一番期待してたのが宗王だからな。その次くらいのも狙われているし」
「去年連れてきた二人か?確か一人は宗王の妹だったか?」
「ああ。だがこっちはあまり奏に帰る素振りはない。もう一人のほうは秀絡が懸想している。二十年近い付き合いらしい」
「懸想と言っても王と他国の官だろう?野合でも問題があるのではないか?」
「私の命だと大変なことになるらしいが、許可しないのも… 私の知らないところで何があっても知らないってことかな?」
「それもずいぶんな話だな」
「止むを得まい。他人の恋路のせいで『覿面の罪』に問われるのは勘弁だからな」
「そういわれればそうだな。それはそれとして、人材関連のことは夕暉、蘭桂、緋媛、それに玖嗄で検討してくれ。たたき台は趙駱、春陽とも連絡を取り合うように。智照、才や漣についてはどうする?」
「荒民の帰還の関係がありますので当面は趙駱に委ねようかと。その後については範の動向如何ですが、才は奏との感情的な縺れがありますので、上手くなさそうでしたら、これまで通り朱楓に」
「楽俊、才の感触はどうなのだ?」
「もともと親交も浅くてよくわからない国だが、官がちょっとね。情報伝達に難があるのだろうな。琉毅、そうだろう?」
「はい。組織として上手く機能していません。責任の所在が曖昧なところもあります。しばらくは苦労しそうです」
「では、趙駱と朱楓で調整をするように。楽俊、何かあるか?」
「うちは大丈夫、というわけでもないが、恭、柳、芳の動向には注意してもらいたい。特に三百年になる恭だな。範と雁は天候や妖魔の様子の変化に気をつけてもらいたい。それによって荒民の数が違ってくる。舜や漣の天候も気になる。各国の食糧事情を支えているのはこの二国で、ここに何かあったらうちも一気におかしくなるからな」
「それは慶にも言える。舜の収獲が芳しくないとキツイな。雁の天候もそうだな。この冬の状況がまずまずだったから今年は去年ほど荒民が出なければいいのだが… こればかりはわからぬな」

景王は苦笑した。やらねばならぬことはいくらでもあるが、それでも全然足りない気がしてくる。だからといって焦っても何にもならないと心に言い聞かせていた。





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最終更新日  2006年04月22日 12時45分21秒
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