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 NOB1960@ Re[1]:無理矢理持ち上げた結果が…(^^ゞ(10/11) Dr. Sさんへ どもども(^^ゞ パフォーマン…

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2006年04月24日
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「翼の翻る時(その4)」

柳国首都芝草・芬華宮に春分の前日の夕刻になっても劉王と大僕が戻ってこないことに冢宰の悌薛は焦りを感じ始めていた。今まで一度たりとも約束を破ったことのない劉王だっただけに『春分までに戻る』という言葉を信用したのだが… 主のいない執務室には悌薛、劉麟、智照の三人がいた。

「智照殿、何か連絡は入っていますか?」
「連檣からは昨日の午頃に劉王と大僕は駮に乗って霜風宮を後にしたらしい。駮でのんびりしてても今日の夕刻にはつくはずですね。この時刻まで戻らないというのはもしかすると…」
「黄海に向かったのかもしれませんわね」
「た、台輔、そ、それは?」
「このところずっと黄海にいっていませんでしたからね。蟲が騒ぎ出したのかもしれませんわ」
「…そういう問題ですか?」
「さぁ、智照さんは何か?」
「確かに黄朱の血が騒いだのかもしれません。が、それだけではないでしょう。あくまで推測ですが、蓬山に行くのではないかと」
「あら?でも今の時期は蓬山への出入りが禁止されているのでは?」
「ええ、今は氾果が捨身木に生っている筈ですからね。どんなに早くても来年の春分までは許可が出ないでしょうね。でも、劉王はかつては黄朱の民ですし、今はれっきとした王ですから問題はないと思いますよ。ただ、大僕はどうかな?」
「地仙の大僕では蓬廬宮はダメでも、その外にある甫渡宮辺りなら…」
「あいにく私は昇山したことがないので詳しくありません。その辺りは蓬山でないと…」
「ああ、そうでしたね。つい何でもご存知なのかと思って。でも、今から行っても追いつきませんわね?」
「急いでいけば令乾門が開いている間につけますが、劉王たちを見つけて引き返す時に門がまだ開いているかは微妙ですね。もし間違いだったら、三ヶ月ほど黄海に取り残されることになりますからね。とりあえず、明朝まで待ちましょう」

智照はそう口にしながら頑丘が戻ってこないと思っていた。実際、春分を迎えても劉王は戻ってこなかった。

  *  *  *  *

芬華宮で春分になっても戻らぬ劉王に悌薛がイライラしている頃、当の劉王・頑丘と大僕の猛徳は恭国の乾城にある令乾門をくぐろうとしていた。この令乾門は三百年ほど前に昇山しようとする朱晶と一緒にくぐり、恭の官だった頃にはしばしば利用したものだが、劉王になってからは一度もくぐっていない。猛徳の方も剛氏をしていた頃はちょくちょく利用していたものの、有名になりすぎて辞めてからは、請われて峯王・翔陽が昇山する時に同道したくらいで、やはり八十年以上利用していない。いくら黄海になれているとはいえそれだけ長いこと通っていない道筋には不案内になるので、昔の伝で二人ほど剛氏を雇うことにした。剛氏たちの騎獣もゲンを担いで駮である。あの頑丘と猛徳であるから、剛氏の二人は道中に不安などは全く感じていない。蓬山への出入りが禁止されているとはいえ、昇山の道は猟のついでに見回っており、あちらこちらに注意を喚起するしるしなどもついていたので、それに従って進む。頑丘も猛徳も黄海は久々とは言え、道慣れており、注意深く進んだとはいえ、半月もかからずに蓬山までたどり着いた。が、令乾門にも蓬山への出入り禁止の触れが掲示されていたように、蓬廬宮の三里ほど手前で女仙がついと現れた。

「四門に蓬山への出入り禁止の触れがあったのに、なぜ蓬山に近づく。早々に立ち去れ」
「私は柳国劉王・頑丘と申すものにて、碧霞玄君にお目通りをと」
「何?劉王?ならばなぜ黄海から来たのだ?」
「許しもなく雲海の上から参上するのはいかがかと思いまして、黄海を渡ってまいりました」
「ふむ… しばし待たれよ」

女仙はそういい置くとついと姿を消した。が、瞬きを数回する間に再び現れた。

「劉王は蓬廬宮に入ることを許す。が、残りのものたちは甫渡宮の外、一里ほどのところに露営するように」
「委細承知しました」

頑丘が承諾すると女仙はくるりと後ろを向いて先導するようだ。頑丘は慌てて駮から降り、猛徳に駮を預けて女仙の後に続く。猛徳たちは蓬廬宮の離宮である甫渡宮から一里離れた場所に天幕を張り夜営することにした。頑丘次第ではこの後狩りに向かうのだ。二人の剛氏はその準備に余念がない。猛徳は少し心配そうな顔つきで頑丘が入っていった蓬廬宮を見詰めていた。一方、女仙の後についていった頑丘はどこをどう通ったのかわからなくなった頃、碧霞玄君・玉葉のいる白亀宮についた。そこには碧霞玄君とその側近の禎衛、そしてもう一人…

「劉麟!どうしてここに!」
「主上、玄君の御前です。声を荒げませんように」
「あ、これは失礼いたしました。…どうしてここにいるんだ?」
「主上が春分までにお帰りにならなかったのでおそらくはこちらだろうと。帰りはご一緒したいと思いまして」
「…誰に聞いた?」
「聞かなくてもわかりますわ。主上こそお約束を破られたのはどうしてですか?」
「破ってはいない。俺は今年の春分までにとは言っていない。来年の春分までなら約束を破ったことにはならないはずだ」
「主上、それは詭弁というものですわ。七日後に春分となる時に『春分まで』といえばその七日後のことを指しますわ。誰も来年の春分とは思いませんもの。それならば『来年の春分までには』と仰ればよろしかったのでは?」
「そんなことを言ったら芬華宮から出られないではないか。どうせ俺がいてもいなくても変わりはなかったのだろう?」
「悌薛が眼を三角にしていましたわ。智照さんは何も。式典のほうは私が代行いたしました。その褒美が頂きたいですわ」
「…何が欲しいというのだ?」
「それはおいおいということで。玄君にお話があるのでは?」
「そ、それはそうだが…」
「私がいるとし難いお話ですか?では、少し席をはずしております。では、玄君、よしなに」

劉麟はそういうと白亀宮から辞した。頑丘はそれを半ば呆然と見送ってから、慌てて跪礼をした。

「出入り禁止の時期に突然参上し、申し訳ありませんでした」
「よい。劉麟が先に来ておったでの。連れのものたちには悪いが決まりなので外で待って貰うことにした。劉麟と二人でやってくればなんでもなかったであろうに」
「あ、いえ、あれには内緒のことでしたので」
「さもあろう。劉麟が心配しておったぞ。王とはいえ万が一の時はどうしようとか。麒麟に心配をさせるでない」
「はい。申し訳ありません。ですが、その麒麟のことでお伺いしたいことが」
「何であろ?申してみるが良い」
「はい。ここ数年で才、雁、戴、範と相次いで斃れております。そのうち雁と戴は蓬莱で奇禍に遭遇したことが原因であり、範は雁や戴が斃れた余波ではないかと思われます。今のところは雁も戴も範もさほど酷いことにはなっていませんが、今後天候が荒れ、妖魔が跋扈した場合、我が柳や隣国の恭もその影響を受け、傾きかねません。私はともかく、供王は私の知る限り失政などなく、善政を行っていますが、それでも荒民が国内に溢れれば舵取りが難しくなります。先日斃れた氾王もこれといった失政があったわけでもなく、才の荒民の重荷で傾いたようにも思われます。それでもやはり、王の過ちということになるのでしょうか?麒麟は失道しなければならないのでしょうか?」
「…ことの判断は原因でも過程でもなく、結果を見るのであろ?結果として人の道に外れ、民を虐げれば麒麟が病む。やむを得ぬ仕儀であるかどうかは関係ない」
「では、理由はどうあれ、民が苦しまぬようにしていればよろしいわけで?」
「そうは言ってはおらぬ。結果として民を虐げるような真似をすれば麒麟が病む。これは動かしがたいものじゃ。だからと言って、民が苦しまないだけのことに終始すればよいのでもない。まぁ、これは王の工夫次第と言うことかの」
「…よくわかりませぬが?」
「王は何のためにいる?王が玉座にいれば天候は安定し、妖魔が跋扈しないという。それだけのために王はいるのか?そのようなことは王自身が考えることであり、妾があれこれ言う筋合いのものではない。違うかの?それとも、やるべきことをすべて天綱で定められていて欲しいとでも言うのかの?」
「…そういうわけではありませんが」
「で、劉王は何が望みなのじゃ?民の幸せか?劉麟の命か?」
「そ、それは…」
「劉王よ。己の力量が信じられぬのも無理はない。もとはこの黄海を住処とする黄朱の民であったのだからの。王を頼みとせず、己の身体一つで生きていたものがいきなり王になれといわれても納得できるものではない。だから、妾はお主に猶予を与えた。劉麟に再び見出されるまでの間に考えよとな。お主はその間に何をしていた?王になるための心構えとか学んではいなかったのか?単に逃げ回るだけで、柳の民が苦しんでいることから眼を逸らせていただけか?そうではなかろう。金波宮であれこれ見聞するうちに何某か思うところがあったはずじゃ。だから王になったのであろ?」
「それはそうなのですが…」
「なのに、その麒麟を捨てるというのか?己が失策をする前に手放してしまえと思っているのか?」
「……」
「天は己を助けるものを助けるものじゃ。何も努力しないものには手も差し伸べぬ。そういうものではないかの?王もまた最後の最後まで足掻き、努力してこそ、道が開けるのではないかの?努力もせずに諦めることは許されまい。それは王が自ら命を断つことに等しい。つまり天綱に障る。なれば麒麟もまた罰を受けよう」
「罰、ですか?」
「天綱に背く王を選んだ麒麟を天が許すと思うてか?惨たらしいことになっても知らぬぞ」
「……」

頑丘はすっかり黙ってしまった。玉葉も言うことは言ったとでもいうように口を閉ざした。と、それまで控えていた禎衛が口を開いた。

「劉王君」
「は、何でしょう?」
「このような差出口はいかがとは思うのですが、劉麟は劉王君に遺されたくないとお思いのようです。ご留意ください」
「私に遺されたくない…」

頑丘はしばし呆然としてしまった。やがて、玉葉が禎衛に目配せすると、禎衛はさっと白亀宮から姿を消し、しばらくしてから劉麟をつれて戻ってきた。頑丘の姿を見て劉麟は眉を顰めたが、玉葉は軽く息を吐くと頑丘に言った。

「今宵は宮を用意したのでそちらで休むが良かろう。劉麟とよくよく話をするのじゃな」
「は、はい」

玉葉はまだ半ばボンヤリしている頑丘に退出を促し、頑丘は劉麟に援けられるようにして白亀宮を辞した。宮についても頑丘はボンヤリとしている。イロイロな考えが去来し、まとまりがつかなくなっているようだった。劉麟は女仙の手を借りながらも甲斐甲斐しくも頑丘の世話をした。頑丘は殆んどなすがままで、その夜は休んだ。珠晶がこの場にいたら『下手の考え休むに似たりよ!いくら考えても無駄だから辞めなさい!』とでも言うだろう。が、劉麟にはそこまで言えず、まんじりと夜が明けるのを待つしかなかった。





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最終更新日  2006年04月24日 12時18分54秒
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