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 NOB1960@ Re[1]:無理矢理持ち上げた結果が…(^^ゞ(10/11) Dr. Sさんへ どもども(^^ゞ パフォーマン…

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2006年04月25日
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「翼の翻る時(その5)」

麒麟が育つ蓬廬宮は常春の温暖な気候である。五山を囲む黄海が荒涼とした世界なのとはまさしく雲泥の差なのである。そんな蓬廬宮には采麟、延麒、泰麟という三人(?)の麒麟の幼獣がいて、捨身木に生ってまだ三月の氾果がある。最も年長の采麟でもまだ二歳なので、姿は獣形で人形にはなれず、女怪から乳を貰うだけで、もう少し経ったら妖魔を使令に折伏するのに黄海を駆け巡るようになるだろうが、今はまだ蓬廬宮の外には殆んど出ていない。采麟よりも幼い延麒や泰麟も蓬廬宮の外に出るのはまだ先のことになりそうで、氾果が生るのと入れ替わりのように孵った泰麟はまだあどけない表情をするばかりである。唯一雄の延麒はおっとりしている。劉麟は雲海の上を飛んで蓬廬宮まできた後、劉王・頑丘が蓬廬宮にたどり着くまでの間、この三人の相手をしていた。ホンの二三日のことだが、幼い麒麟たちはすっかり劉麟に懐いて、朝ともなればそれぞれの女怪たちと一緒にやってくる。この日も麒麟と女怪が劉麟の宮を訪ねてきた。そこには見知らぬ漢がいた。不思議そうに見る采麟の代わりに女怪が訊ねる。

「そちらの方は?」
「こちらは私の主上、劉王君です。主上、こちらから采麟、延麒、泰麟です」
「ああ、劉王・頑丘だ。采麟に延麒に泰麟か。何れそれぞれの国に赴けばお隣さんになったりするな。よろしくな」
「あ、いえ、こちらこそ、ご無礼を」
「無礼?俺に?何で?」
「まだこの子達は挨拶すら弁えておりませんので」
「まだ赤児ではないか。そんなことは気にしない。いずれ成獣になった時に挨拶してくれればそれで構わない」
「はぁ…」

女怪たちは今ひとつ納得しない顔だったが、劉王と一緒の劉麟の邪魔をしてはいけないと、そそくさと帰っていった。それを見送った頑丘は苦笑する。

「初めて会う王が俺だったのは何か悪いことをしたな。今いる王のうち一番王らしくないのが俺だからな」
「そういうことはございません。私にとって王と呼べるのは主上だけですから」
「…でも、ケッコウ懐かれているようだったな。采麟などは遊びたがっていたようだから、俺がいないほうが良かったかな?」
「私は主上をお待ちしている間、あの子達の相手をしていただけです。成獣の麒麟を見るのが初めてだったからなのでしょう。皆私のことをちょっと眩しそうに誇らしげに見てくれるのです。少し照れますが」
「二百年近くもしっかり務めを果たしているのだから誇りに思われても当然だろう?」
「でも、主上は誇りに思われていないようにお見受けしますわ」
「俺?俺は何もしていないだろう?」
「常に明るく振舞っていただけるので、私は幸せを感じます。民もその幸せを甘受しています。何もしていないわけではありません。主上は民を照らす陽のような方だと思います。民が暮らしやすいようにしてくださいます。それでは足りませんか?」
「それは褒めすぎというものだろう。先の延王のようには俺は柳を繁栄させたとは思えない。民には悪いことをした」
「そうでしょうか?隣の芝生は青いと申しますが、己の幸せがそれほどつまらないものだとは思いませんわ。柳の民が日に三杯の茶を飲めて、雁の民が四杯飲めたからと言ってどうだというのです?無理して合わせることもありませんわ。丁度良い幸せでいいではありませんか。王がいてくださるのが一番の恩恵ですから」
「そういうものなのか?」
「そういうものですわ。延王君は不運な亡くなり方をなされましたが、主上がそうならないことが私には大事です。私には主上しかいません。もし、遺されたなら、新たな王を選べずに朽ちるやもしれません。一人遺したりしないで下さい。お願いですから」

劉麟は頑丘の胸に顔を埋めるようにして、懇願の言葉を洩らす。そして、顔を上げると、その瞳には光るものがあった。じっと見詰められた頑丘は劉麟の頭を撫でてやりながら、呟くように言う。

「俺は民のために麒麟は遺さねばならないとずっと思っていた。俺が躓いたせいで民に塗炭の苦しみを味合わせたくなかった。けど、それはお前の気持ちを無視していたんだな。これだけ長く一緒にいれば別れるのは辛くなる。ずっと一緒にいたくなる。そんな当たり前のことさえ、俺には勿体無いことのように思えていた。俺にはお前が眩しすぎたんだ。でも、そうじゃないんだな。お前にとっては、俺にはちょっと考えにくいが、俺のことが眩しかったのか?」
「もちろんですわ。どうしてお疑いになるのです?」
「自分のことは弁えているつもりだったのでね。猟尸師と侮られ、朱旌しか持たぬものとして、その金色は眩しすぎた。珠晶に請われて仙になったときでさえも霜風宮に留まるのが厭でずっと黄海に篭っていたりもした。そういう奴なんだ。俺に一番似合わないところが王宮だってね。でも、住めば都なのかな。いつの間にか平気になっていた。それが厭だった」
「……」
「俺は黄朱の民だって思い続けたかっただけかもしれない。こんな場所は似合わないから出て行きたいって思ったりもした。賭けに負けたんだから、ごねるのは漢らしくないって自分に言い聞かせたり。物凄く無理をしていたというか、遠回りをしてた。もっと素直に自分のことを認めればよかったのに… 馬鹿だな」
「…主上」
「こんな俺を選んじまったお前も馬鹿だよな。まぁ、馬鹿同士だから丁度いいのかもしれない」
「まぁ、酷い」
「とにかく芬華宮に帰ってやることをやらないといけないのかな?ということで、これからもよろしく」
「こちらこそ」

芝居がかった口ぶりに顔を見合わせ笑いが洩れる。劉麟は頑丘に抱きつき、頑丘は劉麟を抱きしめつつ、頭を撫でる。しばらくそうして、幸せの余韻に浸っていたが、ふと、頑丘が呟く。

「すぐに戻るとして、駮じゃ雲海の上はきついだろうな…」
「私の使令に二人で乗って帰りましょう。駮は猛徳に託します?」
「止むを得ないだろうな。春分をすっぽかしたんだから、悌薛には当分頭が上がらないなぁ… 帰りたくなくなってきた」
「主上!」
「わかっている。とりあえず猛徳たちのところに行こう。夏至まで狩りをしていいってことになれば喜ぶんだろうな。俺もやりたかったなぁ…」
「そのうちほとぼりが醒めたら遊びに来れるのでは?」
「まぁな。それまでは我慢かな」
「ええ」

頑丘と劉麟は手を繋ぎながら蓬廬宮をでて甫渡宮に向かう。その甫渡宮の一里ほど先に猛徳たちは天幕を張っている。猛徳たちは駮の毛並みを梳いたりしていた。三十歩くらいのところで頑丘が声をかける。

「猛徳。駮は元気か?」
「はい」

頑丘の問いかけに猛徳が応えた時、四頭の駮は急にビクッと身体を震わせ、一斉に天幕の向こう側を見た。何かがいる。一頭だけ自由になっていた頑丘の駮は一声嘶くと、気配を感じたほうへ駆け出そうとした。それを見た頑丘が叫ぶ。

「更夜、行くな!やめるんだ!」

頑丘は思わず駮の名前を呼んでいた。三百年ほど前に珠晶とともに昇山した際に思いがけず出逢った高貴な人からその名を貰い、その後は決して他人に洩らすことのなかった名前である。その叫びが聞こえたのか、駮はちらりと頑丘を見たが、まるで任せろとでも言うように駆け出していった。それを頑丘も追いかけようとする。が、それを猛徳が抱きついて辞めさせる。

「更夜!行くな!戻って来い!」
「主上、お止めください。他の駮はみな震えています。きっと大物が…」
(…台輔、何やらとてつもなく恐ろしいものが近づいてきます。この場は危険です。蓬廬宮へ)

遁甲している劉麟の使令が警告を発する。使令は決して弱くはない。その使令が『とてつもなく恐ろしい』というのだ。劉麟は頑丘たちに叫んだ。

「蓬廬宮は強力な呪で結界が張られています。あの中に入れば妖魔は追ってこれません。速く!」
「しかし、この時期は人は中に入れないのでは?」
「そんなことを言っている場合ですか?猛徳、主上を速く。あなたたちも」

猛徳は頑丘を引き摺るようにして甫渡宮から蓬廬宮のほうへと走った。剛氏たちは猛徳の駮をその場において騎乗した。頑丘の駮と猛徳の駮の二頭で妖魔が満足してくれれば助かる。その時、咆哮が轟いた。

(…うぐゎぁぁぁぁ…)

その咆哮に怯えた駮が竦みあがって足が止まってしまう。危うく放り出されそうになった剛氏たちは駮を励ましたが、ダメだった。剛氏たちは駮を諦め、自分の足で走ることにする。蓬廬宮まで一里と少し、およそ四百歩が恐ろしく遠く感じる。五人が蓬廬宮にたどり着く前にそれは姿を現した。竦みあがった駮など無視し、ひたすら頑丘たちを追ってくる。その周りを挑発するように頑丘の駮・更夜が跳びはねている。少しでも行き足を鈍らそうと懸命に邪魔をしている。それは物凄く大きな赤い獣だった。そう、かつては泰麒の使令となり傲濫と呼ばれていた妖魔である。それが現れたのだ。それは再び咆哮した。

(…うぐゎぁぁぁぁ…)

更夜を除く三頭の駮たちはもはや気死し、倒れている。更夜が懸命に邪魔をするが、妖魔は意に介さずに突き進む。やがてひょいと飛び上がると五人と蓬廬宮の間に着地する。あと五十歩ほどで蓬廬宮の門にたどり着けるところで五人は止まった。妖魔との距離は三十歩ほどであろうか。猛徳と剛氏たちは腰に佩いた剣を抜き、身構える。その横を更夜が駆け抜ける。更夜は妖魔の十五歩ほど手前で止まり、嘶いた。それを見て妖魔がニヤリと嗤った、ように見えた。妖魔が呟く。

(…麒麟だ。あの匂いは間違いない)

その呟きを聞いて劉麟は愕然とする。そして、眦を決して四人に言う。

「下がってください。あれは私が狙いのようです。離れてください」
「台輔!何を言うんです。台輔の手に負えるような相手じゃない!」
「猛徳、あれは人の手でどうにかなるものではありません。呪によって折伏できるかどうかでしょう。それができるのは麒麟だけです」
「し、しかし…」
「速く下がって!私の邪魔をしたいの?」
「劉麟、無理だ。敵う筈がない!」
「やってみなければわかりませんわ。主上も離れてください」
「劉麟!」
「猛徳、主上をお連れして」

猛徳は歯を食いしばり、頑丘を引き摺るようにして劉麟から離れた。劉麟は頑丘たちとは逆のほうに弧を描くように動いた。更夜はそれを察したのか妖魔を牽制するように劉麟との間を保つようにゆっくりと動いた。じりじりと頑丘たちは甫渡宮の方に下がり、その中に転がり込むように隠れたのを横目に見て、劉麟は駮に言った。

「ありがとう、更夜。下がって主上をお守りして」

劉麟の言に駮は歩を止め、妖魔を睨みつけるようにしながら甫渡宮の方へと下がっていった。劉麟は妖魔と対峙した。





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最終更新日  2006年04月25日 12時08分49秒
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