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 NOB1960@ Re[1]:無理矢理持ち上げた結果が…(^^ゞ(10/11) Dr. Sさんへ どもども(^^ゞ パフォーマン…

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2006年04月26日
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「翼の翻る時(その6)」

蓬廬宮の主と呼ばれる碧霞玄君・玉葉はその日、胸騒ぎを感じていた。前日、劉王・頑丘を窘め、劉麟と宮で過ごさせた。おそらく今日にも芬華宮に戻るであろう。午過ぎにでも挨拶に来るに違いない。が、捨身木に氾果が生っているこの時期に王とはいえ、人を蓬廬宮に入れたことがいけなかったのか?玉葉がそのような思いに囚われていると、不意に蓬廬宮を包む空気が揺れた。この揺れは呪で結界を張ることに関与したものでなければ感じ取れぬものである。蓬廬宮は幾重にも結界が張られている。蓬廬宮の内側にも外側にも只人には先に進もうという気をなくさせるように呪が施され、結界を形成している。妖魔はこれを越えることはできない。蓬廬宮の外側にはおおよそ一里と三里の距離に結界が張られているのだが、その三里の距離にある結界が破られたことを示す揺れが感じ取られたのだ。玉葉は叫んだ。

「禎衛!」
「…ここに」
「三里の結界が破られたようじゃ。早急に調べよ」
「はい。ですが、劉王の供が一里の結界まで入るので少々緩めておりましたので、そのせいやも」
「それもあるやもしれぬ。が、この揺れは尋常ではない」

玉葉がそこまで言った時、再び空気が揺れた。今度のほうが強い。玉葉は眉を顰める。

「今度は一里の結界じゃ。もはや猶予はならぬ。速く行け」
「は、はい」

ただならぬ揺れに禎衛も驚きが隠せないが、一礼すると玉葉の前から気配が消える。玉葉は結界の破れた方角を睨みつけ、呟いた。

「この気配、もしや…」

玉葉の懸念は的中していた。

  *  *  *  *

蓬廬宮から甫渡宮へと通じる門から二十歩ほど離れたところに大きな赤い獣が佇んでいた。かつて泰麒の使令だった傲濫である。傲濫の三十歩ほど先には金色の髪を持つ娘が立っていた。柳国の麒麟、劉麟である。劉麟の主、劉王・頑丘は甫渡宮に逃れている。傲濫を牽制していた頑丘の愛騎、駮の更夜は劉麟の命に従って甫渡宮の方へと離れつつあった。じりじりと時が過ぎる。傲濫は咆哮し、ニヤリと嗤った。ちょろちょろと目障りだった駮が退き、自分と麒麟との間に邪魔者はいなくなった。劉麟は眉を吊り上げ、剣印を結び、九字を斬る。

「臨兵闘者皆陳烈前行!」

劉麟に近づこうとした妖魔は瞬時動きを止めたように見えた。が、再び咆哮し、ニヤリと嗤った。劉麟は再び九字を斬った。

「臨兵闘者皆陳烈前行!」

劉麟は気力を振り絞って妖魔を睨みつける。その額から汗が流れ落ちる。劉麟は既に悟っていた。この獣には敵わないと。しかし、ここで自分が斃れる訳には行かない。自分が屠られたら頑丘の命も失われるのだ。それだけは阻止しなければならない。劉麟は歯を食いしばり、妖魔を折伏しようと睨みつけるが、妖魔の方は劉麟の唱える九字など痛痒にも感じていない。妖魔が動いた。巨大な鎌首を振り上げ、劉麟に向かって振り下ろす。劉麟はすばやい動きで飛び退り、間合いを取ろうとする。妖魔が劉麟に迫るたびに劉麟は右に左にと避けるが、もはや九字を斬ることすらできない。速さだけなら麒麟に敵うものはない。が、人形を取っているだけにややもすると動きが鈍くなる。あわやという時、妖魔の背後から駮が突っかかった。劉麟を追うことに夢中になっていた妖魔は虚を衝かれたが、すぐに体勢を立て直し、再び突っかかってきた駮を迎え撃つ。猛徳に無理やり甫渡宮に連れ込まれていた頑丘が悲痛な叫びを上げた。

「更夜!」

妖魔の鎌首に左前肢を斬り飛ばされて駮はどぉっと倒れた。それを見て飛び出そうとする頑丘を猛徳が必死に押さえ込む。一方、血の匂いが立ち込め、眩暈を起した劉麟は思わず膝をついてしまう。ニヤリと嗤って妖魔は鎌首を振り上げた。が、振り下ろす寸前に妖魔は飛び退った。妖魔の足下で何かが撥ねたようだ。妖魔はそれを避けたのだろう。妖魔は悔しそうに咆哮し、空を見上げた。その妖魔の視線の先には赤い獣が浮いていた。その背には人の姿がある。振り仰いでその姿を見た頑丘は驚愕に眼を見開き、呟きを洩らした。

「…犬狼真君?」

彼方から飛んで来た赤い大きな獣は劉麟の傍らに降りると、その人、犬狼真君は獣の背から降りて劉麟を助け起こし、獣に命じた。

「ろくた、少し相手をしてやってくれ」

犬狼真君を乗せて飛んで来た、ろくたと呼ばれた獣は咆哮し、傲濫と対峙した。二頭の獣が睨みあっている間に犬狼真君は劉麟を頑丘のもとに運び、他のものには聞かれないように小声で話をした。

「…真君」
「何度も僕の名前を呼んでいたから、飛んで来た。あまり呼んで欲しくないが、止むを得ないだろうな。今後は口にしないように。で、あれはあの時の駮かい?」
「はい。あの時の駮です。畏れ多くもお名前を頂きました」
「同じ名を持つものが屠られるのは気にいらぬな」
「はぁ…」

犬狼真君は頑丘の応えなど聞いていないかのように腰に佩いた剣を抜き放つとゆっくりと二頭の獣の方へと歩いていった。犬狼真君は傲濫と向き合う場所で歩を止めると手にした剣で九字を斬った。

「臨兵闘者皆陳烈前行!」

やはり呪者の力が格段に違うのか、傲濫は身動ぎ一つできなくなった。そんな傲濫に向かって犬狼真君は静かに言った。

「僕は殺生を好まない。が、天の理に背き、生きた麒麟を喰らったお前を赦す訳にはいかぬ」

それはまるで重さを感じさせぬ跳躍だった。犬狼真君の持つ剣が右から左へと流れ、傲濫の首が刎ね上げられた。その首はろくたの足下に転がり、ろくたは前肢でこれを押えた。犬狼真君は返り血を浴びることなくろくたのところまで行き、傲濫の首をひょいと持ち上げ、他のものに聞こえぬ声で話しかけた。

「あとでじっくり話を聞かせてもらおう」

犬狼真君はろくたに乗ろうとした動作を不意にやめ、蓬廬宮の門に向かって言葉をかける。

「そこにいるのは禎衛か?」
「…はい。禎衛でございます」

声とともに門が開いて禎衛が姿を現し、さっと跪礼をする。犬狼真君はそちらをちらりと見ただけで言葉を続けた。

「見てのとおり、蓬廬宮の結界を破った不届きものは僕が処断した。首は持っていくが、身体の方はそちらで処分して欲しい。玄君にはよしなに」
「…はい。その首については後日玄君に?」
「上手くできなかったら恥ずかしいので確約はできぬ。わかったことはすべてお知らせする、ということでよいか?」
「…はい。よろしくお願いいたします」
「あの駮は劉麟を守ろうとして屠られた。手厚く葬ってもらいたい。劉麟はあそこだ。手当てしてやるように」
「…はい。かしこまりました」
「では、後日」

犬狼真君はそういうと、赤い大きな獣に乗って飛んでいった。禎衛は門の陰に隠れていた女仙たちを呼び寄せ、甫渡宮に向かわせた。劉麟は強い血の匂いで気を失っていた。劉麟は頑丘に抱きかかえられるようにして蓬廬宮に戻った。禎衛は猛徳らに言った。

「このようなことがあったのに申し訳ないが、お主らを蓬廬宮の中に入れるわけには行かぬ。が、この甫渡宮は使って構わぬ。この辺りまで入り込む妖魔などいないはずなので、安心してよい。あのようなものは特別だということもわかっておろう?血の匂いが消えるまで数日は留まるが良かろう。その間にあの駮を葬ってもらいたい。よろしいか?」
「はい、喜んで」
「では、食料などは後ほど運ばせます」
「ありがとうございます」

禎衛は残った女仙たちと呪を施して傲濫の骸を片付け、蓬廬宮へと戻っていった。残された猛徳と剛氏たちは漸く息をついた。傲濫に気死させられただけで無事だった三頭の駮を甫渡宮のそばにつれてきて、落ち着かせるとともに、一里先にある天幕や荷を甫渡宮まで運んだ。そして劉麟を守ろうとして屠られた駮を葬った。犬狼真君の名を貰い、長寿を誇っていた駮である。猛徳は鬣を少し切って頑丘に渡すことにしたが、ことの顛末を見ていた剛氏たちはそれをお守り代わりにするようだった。

  *  *  *  *

劉麟は自分たちにあてがわれた宮で牀榻に寝かされていた。その枕頭には頑丘が侍っている。そこに玉葉と禎衛が現れた。

「此度は災難であったの」
「はい、しかし、犬狼真君のお蔭で助かりました。それにしてもあの妖魔は?」
「あれは先の泰麒の使令だったものじゃ。生きたまま麒麟を喰らった不届きものじゃ」
「…そうなのですか。だから麒麟に固執したのですね」
「麒麟に固執?麒麟の味に魅入られたか?」
「おそらくは。さもなければ今頃は私は骸を晒していました。運が良かったようです」
「それは強運じゃ。戴の白圭宮ではあれのために多くのものが屠られたという。やはり王は違うの」
「…そうでしょうか」
「して、この後はどうするかの?」
「劉麟が回復いたしましたら芬華宮に戻ります。雲海の上を通ることを許していただけますか?」
「このようなこともあったのでの。劉麟が快癒し次第戻るがよかろう」
「ありがとうございます」

頑丘は玉葉に礼を言った。劉麟は二日ほど休んで回復した。血の穢れよりも無理な折伏で気力を使い果たしたせいだった。猛徳たちは五日ほど甫渡宮に留まり、その後令坤門の近くに移動して夏至まで狩りに勤しんだ。頑丘の失った駮や怖気づいてしまった駮たちの代わりを捕まえるつもりで、その思惑通りに駮や吉量を捕まえ、芝草に連れ帰った。頑丘と劉麟は劉麟の使令に乗って三月上旬には芬華宮に戻り、頑丘の休暇は終わりを告げた。





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最終更新日  2006年04月26日 12時27分46秒
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