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 NOB1960@ Re[1]:無理矢理持ち上げた結果が…(^^ゞ(10/11) Dr. Sさんへ どもども(^^ゞ パフォーマン…

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2006年05月02日
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「沈黙の報酬(その2)」

巧国首都傲霜。凌雲山の近くに巧の遣士・春陽が家公を務める来楽飯店がある。来楽飯店では翠篁宮の官を目指すものが学ぶ私塾を併設しており、住み込みの家生は機転が利き、動作もきびきびとしている。ここに来る前に阿岸の紫楽飯店や配浪の春華亭で十二分に鍛えられ、躾けられているものも多いので、生半可なものには務まらない。家生たちは自然と背筋が伸び、さりげない気配りも身につけている。梅香はそんな雰囲気が好きで、自分も負けられないという気になる。梅香が傲霜についたのは夕刻で、翌朝に楽俊に目通りを願おうと思い、来楽飯店に来たが、起居にはなぜか当の楽俊が来ていた。梅香は慌てて拱手する。

「お久しぶりです」
「畏まったことをするんじゃない。微行している時にそんなことをされちゃ困るんだ」
「す、すいません」
「楽俊さん、梅香は楽俊さんがここにいると思わなかったから吃驚したんでしょう?だとすれば悪いのは?」
「私か?何か割に合わないような気がするが?」
「そもそも梅香は北の方を廻っていて、こっちにはあまり来ませんからね。楽俊さんが最近入り浸っているのも知らないのが当たり前じゃありません?」
「最近入り浸っているんですか?」
「それほど酷くはないはずだが?前は月に一二度だったのが今は十回超えるか?確かに増えたな」
「前の感じならここに来ても会える方が不思議だけど、今ならここに来た方が会えますからね。で、今日は何?」
「えっと、しばらく姿の見えなかった劉王君ですが、先日芬華宮にお帰りになりました。行き先は黄海だったんですが…」
「頑丘さんが黄海に行くのは夏至から秋分の間じゃなかったかな?夏至にはまだ時間はあるはずだが?」
「ええ、芬華宮には無断で黄海に行ったようです。連檣に遊びに行くからと言い残してそのまま黄海へ」
「春分を前に連檣に行くといえばすぐに令乾門のことを思い浮かべそうなものだが、迂闊といえば迂闊だったな」
「劉王君と恭王君の関係もありますので一概にそうとは思えなかったようです。次からは警戒すると思いますが」
「多分次はないだろうな。頑丘さんも同じ手は使わないだろうし、行くならキチンと断ってから行くだろう。当分はいけないと思うけどね」
「冢宰が眼を三角にしてましたので、当分は無理だろうと劉王君もぼやいていました。戻ってこない劉王君を探しに劉台輔が蓬山に向かい、そこで劉王君を見つけたそうですが、しばらくして芬華宮に戻った劉台輔は病臥してしまいました。泰台輔の使令だった妖魔が現れ、危機一髪のところで劉王君らを救ったのがどうも犬狼真君らしいのです。詳細について劉王君は語っていただけないので、何か楽俊さんがご存知ではないかと」
「…金波宮によって蘭桂から何か聞かなかったか?」
「はい。此度のことで劉王君の愛騎の駮が屠られましたが、その駮には供王君の昇山に同行した際に出逢った方の名前がつけられていたとか。それが犬狼真君の名前だったのではないかと」
「それは十分ありえる話だな。だが、その話はこれ以上広めるのは良くないだろう。もし、妖魔に襲われていた時にその名を呼んでいたなら、犬狼真君の名を知るものが増えることになってしまう。それが犬狼真君の名だと知らねば良いが、下手に騒ぎ立ててこの名が広まることは非常に拙いだろうからな。そこにいたのは劉主従だけではないのだろう?」
「おそらくは大僕の猛徳さんと他に剛氏が数名いたのではないかと」
「ならば騒ぎ立てないのが懸命だ。頑丘さんもだからあまり語ろうとしないのだろう」
「そうですか。実はこの後一旦芝草に戻りますが、夏至に令坤門まで猛徳さんを出迎えに行くよう智照さんに言われているのですが」
「ああ、それは必要だろうな。猛徳は大丈夫だと思うが、その同行した剛氏たちについては探りを入れておく必要がある。もちろん駮の名前の意味などについては内緒でな」
「ならば、どうして犬狼真君が現れたと?」
「頑丘さんは供王が昇山する時に剛氏として同行したそうだ。途中妖魔に襲われ、怪我をした頑丘さんは駮を犠牲にして身を守ろうとした時に犬狼真君が現れ、駮ともども援けてくれたらしい。めったに人と会わない犬狼真君と出会えた運の強さは供王のものだろうけど、頑丘さんやその駮にも引き継がれていたのかもしれない。三百年も前の話だ。なのに、当時犬狼真君と出逢った駮がまだ生きていたこと自体が物凄いことじゃないか?仙の愛騎となった騎獣は長命だが、三百年ともなれば人語を解するようにもなろう。そういう駮だからこそ、犬狼真君も現れたのだろう」
「劉王君ではなく、その駮のために犬狼真君が現れたと?」
「その方がらしいだろう?犬狼真君は黄海の獣を統べるお方だ。人よりも獣のために動くだろう」
「自分と関りのあった駮が屠られたので仇を討ったと?」
「それに天綱に背いて生きた麒麟を喰らった奴だからな。それは見逃すことができなかったのだろう」
「麒麟も黄海で生まれた獣だからですか?」
「分類ではそうなるだろう?」
「それはそうですが… ところで、金波宮で話題に上がったのですが、供王君の昇山には『彼』が関わりがあったとか?」
「ああ、そうだったな。供王は昇山した時はまだ十二歳の少女だった。その昇山に付き合ったのが奏の公子、卓郎君利広だった。最初はホンの気紛れで付き合っているうちに次第に本物じゃないかと思うようになったそうだ。王になる器のもの、鳳雛がいれば昇山の旅がグンと楽になるといわれており、実際通常よりは楽だったらしいが、当の鳳雛の供王がムチャクチャな行動をするものだから、様々な危難を呼び寄せたそうだ。敢えて困難を選んでいるようだったらしい。なのに当の供王は無事に麒麟に見出されたし、その前には犬狼真君にも出会っている。そして若輩の供王の後ろ盾となる奏の公子とも関りを持ったというわけだ。だから、奏の斃れた時に『彼』の正体については供王や劉王には知らさなかった。『彼』については今は亡き延王や氾王くらいしか受け止められそうになかったからだ。景王もかなり辛かっただろう。したがって、その後供王や劉王の昇山に関る話は極力内密にされた。無論、遣士になるものには学んでもらわねばならないことだが、それを慶の官以外に口外することは禁止されているはずだ。まぁ、百年も経っているからどうかとも思うが…」
「百年も隠されていたことを知ったらどうでしょうか?」
「少なくとも奏が斃れた時に仙籍から削られ、誰一人として知らぬ場所で身罷っただろうとは言われているからな。事情を知らないものにはそれで通っているようだ。だから敢えてそれを耳に入れることもあるまい。入ったら、それはその時だな」
「供王君のお心次第だと?」
「それで心が砕けてしまうなら仕方あるまい。そうはならないとは思うがな」

楽俊から話を聞いた梅香は一旦芝草に帰り、金波宮で聞いた話も含めて智照に報告をした。智照はしばし考えた後、口を開いた。

「梅香が傲霜に行っている間に台輔が体調を取り戻して話をする機会があったが、台輔は犬狼真君と会っていないそうだ。丁度駮が屠られて血の匂いが広がり、気を失いかけた時に誰かに助けられたようだとは憶えていたけれど、それが誰だったかまではわからず、後に蓬廬宮で女仙などに聞かされて、ちゃんと挨拶もできなくて申し訳ないと恥じ入っていたようだ。蓬廬宮では、妖魔と対峙して気力を使い果たして数日床に伏したそうで、それが芬華宮に戻ってホッとしたのか、しばらく病臥したけれど、黄医の診立てでは大事無いようだな。あまりそのことを思い出すのは良くないからと詳しく聞くことはできなかったが、おそらく駮の名前の由来については詳しくは聞いていないかもしれない。楽俊さんの言うように、猛徳は大丈夫だろうとは思うが、その剛氏たちについては探りを入れる必要がありそうだな。釘をさすのではなく、駮と犬狼真君の関りで煙にまくほうがよさそうだな」
「朱旌の小説のようにですか?」
「多少脚色するのは構わないだろう。が、『彼』のことは外しておくようにな」
「猛徳さんは知っているのではないですか?」
「知っていても『彼』だということまでは知らないだろう。卓郎君利広については構わない。が、『彼』だとは気付かせるな」
「そうですね。確か、卓郎君は犬狼真君とは会っていないのですよね?だから、奏が斃れた時に仙籍から削られ、人知れず身罷ったと」
「それくらいが無難だろう。不自然にならないように注意してくれ」
「わかりました」

梅香はその後五月上旬まで通常の任務に戻り、各国の遣士らと協力して雁、戴、範の動静を調査した。才については範との関係悪化の関係で当面は奏の趙駱が担当することになった。調べるのは妖魔の出没状況、天候の状態およびそれの農作への影響、浮民や荒民の数や動向、これらへの仮朝の対応、などだ。雁は戴が斃れた後に柳との高岫付近など北部での妖魔の出没が増え、雪融けの時期の長雨があったが、顕著な被害は出ていない。高岫の北路の街からおよそ十里ほど離れた地点までを立入り禁止とし、民を避難させ、州師などは土塁を築いて防備にあたっている。先年決壊した漉水などは堤の補修をする際に両岸とも以前よりも三十歩から五十歩くらいずつ川幅を広げるようにした。いわゆる河川敷である。大雨などで水量が増えれば水没するが、上流から肥沃な土も流れてくるので、すぐに雑草も育つ。ここを家禽などの放牧地として利用もできる。川幅が広がった分、堤を高くしないでも決壊しないようになった。冢宰の朱衡は転んでもただでは起きない漢である。堤防の決壊で漉水流域の民が荒民として去って空いた田圃には、その後の蝕で田圃を潮でやられ、里木すらも失った光州の民を移住させ、新たな堤の建設や田圃の復興などに当たらせた。無論収獲は殆んど期待できないので、慶経由で舜の穀物を輸送してもらっている。この輸送にも雁の荒民が関与しており、故国の復興の様子を聞いて郷愁の念に駆られて雁に戻っていくものも少なくはなかった。それでも慶には十六万人の荒民がいる。戴は冬が厳しく、雪融けが遅れ、耕作に難儀しているようだ。とはいえ、垂州、文州という大きな港の周辺に妖魔が跋扈し、穀物輸送の障害となっている。冬の寒さを凌ぐための荊柏の実つきが例年よりも悪く、寒さに耐えれずに斃れるものもでた。もし、今年の収獲が悪かったなら多くの民が飢餓と寒さに苦しむことになる。妖魔のせいで荒民として逃れることもできない状況なのだ。範は南部諸州が酷い。かつて才の荒民が五十万人も住んでいた地域で三十万人とも四十万人とも言われる骸がこの一年でできたのだ。埋葬をするための場所も暇もなく、妖魔が跋扈して食い散らかしていく。才との高岫から五十里ほどは人影がなくなったくらいだ。その才からの荒民の帰還はほぼ終えようとしていた。当初二十万人と見られていた帰還する荒民のうち、日々千人あまりを乗せて才へと向かう船の順番を待てずに身罷るものが四割近くにもなり、その骸も野晒しとなった。この地が再び緑溢れる沃野になるには長い年月を必要とするだろう。範の浮民も才の荒民との諍いで多くの死傷者を出している。彼らの多くは不況により職を失った匠やその見習いたちだった。諍いの中の怪我で二度と匠に戻れぬものも少なくない。彼らは浮民として国内を彷徨うか、荒民として他国に逃れるかだが、平穏な北部を通りたくないのか殆んどが奏に向かった。才の荒民を運んだ船が今度は範の荒民を乗せて才の永湊まで行く。そこから高岫の奉賀までは徒歩である。その道のりは範に逃れていた才の荒民たちの怨嗟に塗れたものであり、多くのものが奉賀までに斃れたという。この報を受けた才の冢宰呀孟は直ちに王師や州師を派遣するよう命じたが、兵たちは命に従わず、見て見ぬ振りをし、斃れた骸だけは街道沿いに埋葬した。放置すれば妖魔が跳梁し、才に戻ってきた民が再び国を捨てねばならなくなるからだ。そんな才に夏至に開く令坤門がある。梅香は夏至に間に合うように芝草を後にした。





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最終更新日  2006年05月02日 12時44分46秒
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