【毎日開催】
15記事にいいね!で1ポイント
10秒滞在
いいね! --/--
おめでとうございます!
ミッションを達成しました。
※「ポイントを獲得する」ボタンを押すと広告が表示されます。
x

フリーページ

お気に入りブログ

アトランタの風に吹… まみむ♪さん

コメント新着

 NOB1960@ Re[1]:無理矢理持ち上げた結果が…(^^ゞ(10/11) Dr. Sさんへ どもども(^^ゞ パフォーマン…

カテゴリ

2006年05月05日
XML
「沈黙の報酬(その5)」

翌日、秦玉蘭は供王のお供で朱旌の小説見物に出かけることになった。供麒の使令が遁甲して護衛に当たっているが、一緒にいるのは恭の補佐の博耀と範の補佐の麦玉蘭くらいなのだ。霜風宮の官は鬱陶しいからと供王が退けたのだ。遣士の桃香は供麒を慰めるために、名目上は打ち合わせと称して霜風宮に行っている。その代わりが補佐の博耀である。秦玉蘭は恭に来たのも初めてであるし、この地の遣士たちに会うのも初めてであり、少しばかり緊張をしていた。一番の緊張の元は今秦玉蘭の横ではしゃいでいるようにしか見えない供王である。見た目はまだ十二三歳の少女だが、その中身は治世三百年になろうかという名君なのだ。傍からは良家のお嬢さんが三人のお付を引き連れているようにしか見えまい。補佐たちはもちろん、秦玉蘭とて格闘術には自信があるので、何かあっても供王を守りきれると思っていた。が、朱旌の小屋の中に入って自信がぐらついた。紫陽でよく行った小屋は常設のもので、主君に相応しい優雅さも備えており、ゆとりのある造りである分、値段の方は他の国のものよりも高価だったが、余所の国を知らない秦玉蘭にはわからない。連檣の城郭の外側に建てられた小屋は紫陽のそれと比べるとまさに掘っ立て小屋で、中もすし詰め状態になっている。秦玉蘭が眼を丸くしてるのを供王は見咎めたが何も言わず、麦玉蘭が慌てて秦玉蘭の袖を引いた。

「秦氏、紫陽のような小屋は他ではないのよ。これでも十分良い方なんだから」
「そ、そうなの?」
「小姐がご機嫌を損ねそうよ。どうせ紫陽には敵わないわよって顔をしてたわ」
「え?だ、大丈夫かしら?」
「大丈夫でしょ?本気で機嫌を損ねたら口より手が先に出るそうよ。口も出てないから」
「それってなお悪くない?」
「怒ったらみっともないとわかっているから大丈夫。もちろん、そんな顔しちゃダメよ。わからない振りしてなさい」
「何してるの速くしなさい!」
「はい」

内緒話をして少し遅れた二人を供王がとがめる。麦玉蘭はすぐに返事をして、秦玉蘭を引っ張るように供王のもとに急ぐ。秦玉蘭は釈然とはしないものの、麦玉蘭の言う通りに何もなかった振りをした。実際下手に何か言ったなら供王も我慢しなかっただろう。小屋の中では一番良い桟敷に座れ、食事や茶の用意もできている。博耀が昨日のうちに小屋に予約を入れておいたのだろう。心づけの多寡でこういうことも変わってくる。何気ないそつのなさに秦玉蘭は感心した。振り返って自分はどうかと考える。薫彩宮では確かにあれこれ気を遣っているが、大事な交渉だというのに今回はあまり気を廻していないのではないだろうか?初めての大役に気負ってしまい、細やかな気配りなどを忘れていたような気がする。少し沈みがちの秦玉蘭を見て麦玉蘭が笑う。

「秦氏、博耀はね、こういうのが凄く苦手で、夕べもあれこれ私に訊きに来ていたわ。ちょっとした作法とかも。秦氏が何気なくやっていることを博耀は知らないから大変なのよ。こういう場合の座る場所とかも…」
「そういうものなの?物凄く落ち着いて見えるけど?」
「博耀にしてみれば秦氏の挙措の方が凄いってことになるわよ。私も博耀も呉渡の育ちだからどうしても粗野なの」
「麦氏が?そんな風には見えないわよ」
「補佐の中では奏の啓鷹さん、雁の彩香さんの次が私なので、任地が範か恭になるだろうと思って必死だったわ。前の遣士で大司空の庸賢さんにあれこれ尋ねたり、所作や作法を叩き込んでもらったり、勉強よりも頑張ったものよ。それが『西陽楼』で女官の育成なんてやらされたものだから、最初の頃は生きた心地もしなかったわ」
「とてもそんな風には見えなかったけど?」
「弱味は見せちゃいけないって必死だったから。でも、秦氏がいてくれたお蔭で凄くホッとしたものよ。助かったわ」
「別に何もしていないわよ?でも、その時助けたというなら、今日は助けてちょうだい。もう、頭が真っ白よ」
「それだけ舌が廻れば大丈夫よ。はい、今日の出し物の冊子。ふぅん、『花朗陰陽』?初めて観るものね」
「どういうものかしら?若様って誰のことかしら?」
「花朗って言うなら先の奏の公子・卓郎君利広かしら?峯王君や宗王君も負けていないかもしれないけど」
「陰陽って言うのも…光と陰っていう意味なのかしら?」
「どうかしら?ああ、始まるみたいよ」

桟敷から見ると少し見上げるようになっている舞台に灯りがともり、逆に桟敷の方は灯りが消され、薄暗くなる。どうやら背景もなにもない、観る方が想像で補ってやらないといけないようなもののようだ。この辺りも紫陽とは違う。現れたのは花朗という身なりの良い若者だった。これが主役らしいが、時折クルクル廻っては真逆のことを言う。本音と建前の使い分けなのか、舞台の上の他の人物には本音の言葉は聞こえないことになっているようだ。その若者がどうやら知り合いの偉丈夫と出逢ったようだ。

「やぁ、風漢。こんなところで会うなんて、やっぱりこの国もダメなのかな?」
(厭なところで会ったな。こいつと会うと碌なことがないからな)
「俺も花朗が来ているのを見てやはりダメだと思ったぞ」
「ホントかな」
(ホントなもんか、僕が嗅ぎつける前にいつもいるだろうが。そっちが疫病神だろうさ)
「ホントさ。この国は守りは良いが中身が腐っちまってる。誰も彼もが事なかれだ。時間の問題だな」
「へぇ、かなりしっかり調べているんだね」
(調べがついて最終的な確認に来てるだけだろうが)
「うちの方がまだ近いからな。両隣がしっかりしているからうちに影響はないと思うが、そっちもそうだろう?」
「まぁね。でも、国が斃れるのは厭だから」
(その隣も危ないんじゃないか?むしろそっちからここが危なくなっているようなものだろうが)
「俺は帰るが、まだ見ていくか?」
「そうだね。どれくらい沈むのかくらいは見ていかないと」
(続けざまに二つ沈んだら大変だろうが。逆隣に影響があると困るんでね)

花朗が毒づいている間に偉丈夫は上手に下がっていった。舞台に一人きりになった花朗は本音をぶちまける。

(ここが斃れたらどうなるんだ?その前に隣だな。完全に逝っちまってる。あっちが沈むとこっちは五年ともたないな。麒麟って面倒だよ。どうして王様を選ぶんだろう。自分でやれば早いのにね。ホント忙しいったらありゃしない。あそこがやっと登極したと思ったら今度はこっちが斃れる。皆揃ったと思ったら実は飄風ですぐに斃れたり。どこかの国が傾いたままでないと他の国は王を得られないのかな?あれ?どうもおかしいな?)

花朗が呟いているうちに下手の方から十歳くらいの少女が出てくる。それを見た供王は眉を顰めた。少女が言う。

「ああ、どうしてこの国には王様がいないのだろう。誰も昇山しないから?じゃあ、私が行くしかないのかな?」
「小姐、どうしたのかな?」
(なんか変な娘だぞ。気をつけたほうが良いかもしれない)
「この国の王様がいなくなって何十年にもなるのに誰も王様になろうとしないの。昇山しようとしないのよ。なぜ昇山しないのっていっても、子供にはわからないよって薄ら笑いするだけ。そりゃ私は子供かもしれないわ。でも、この国に王様がいないと困るくらいはわかっている。正丁に昇山を勧めても誰も聞いてもらえないから私が行くの。別に王様になりたいわけじゃないわ。でも、私が昇山したのになぜあなたは行かないのって胸を張っていえるじゃない。それくらいこの国の人たちは情けないのよ」
「それは勇ましいね」
(うわぁ、とんでもないのに会っちまった。でも、なんか気になるな。もしかして鳳雛?)
「世知辛い世の中だからイロイロ工夫しないといけないわ。よし!」

少女は掛け声とともに下手へと引っ込んでいく。思わず秦玉蘭が麦玉蘭に囁く。

「これって『小姐昇山』?」
「いいえ、少し筋が違うみたい。最初の風漢って延王君のことじゃないかしら?舞台は多分恭」

麦玉蘭は舞台から眼をそらさずに応えた。どうも気になることがあるようだ。秦玉蘭が目を戻すと、少女が再び出てきた。先ほどは少し贅沢な襦裙だったのが、薄汚れた袍に着替えている。それを見た花朗は額に手を当てている。

(おやおや、無鉄砲なお嬢さんだ。多分胴巻きに小金を巻きつけているんだろうな。小賢しい限りだな)

花朗が陰から見ていると少女はがっしりした体躯の漢を捕まえて剛氏に見立て、昇山することになり、花朗もついていく。途中すったもんだがあって、妖魔に襲われた少女たちは助けを呼びに行った花朗と別れて取り残される。と、そこに現れたのは…

「…犬狼真君」

供王の口から思わずこぼれた言葉を舞台の上の少女も叫んでいた。犬狼真君に助けられた少女は無事麒麟と巡りあい、王になった。その喧騒から一人離れて立つ花朗は複雑な表情をしている。

(これでこの国も王が決まった。けど、まだ揺れ動いている国もある。こちらが良ければあちらが立たずとは言うものの…)

今度は上手のほうから先ほどの偉丈夫と赤く髪を染めた少女が出てきた。おそらくは景王のつもりなのだろう。彼らが言うには異界に流された麒麟を救う手助けをして欲しい、自分たちは蓬莱を探すので崑崙を探して欲しい、とか。彼らに承諾をし、彼らが上手に下がって行ってからまた独語する。

(そういえばあそこの王が立って十二の国に王が揃ったんじゃないかな?まぁ、あの娘の国はその後すぐに斃れたが。あの娘が王になる前に馬鹿なことをした国が斃れたが、あの国は当分王が立つことはないだろう。つまりこういうことか?あの娘の国は七年ほど王が立つのが早かった。だから、あの黒い麒麟が傷つけられ、異界に流された。あの娘が王になった時、王のいない国が二つ、いや三つか。そのうちの一つに手を差し伸べた。それが上手くいった。その後もあちこちで王が斃れている。ずっと斃れたままの国もある。十二の国の王が揃ったのはあの麒麟が消えるまでのほんの数ヶ月。そのことが間違いだったのか?どこかしら王が欠けているのがこの世の定めではないのか?ならば、永く王がいる国はどうなるのだ?この国のように)

花朗が独語をしているうちに恰幅の良い漢と脱色した髪(多分鬘)をした娘が下手から出てくる。

「おや、うちの放蕩息子が帰っているぞ。しばらく見なかったが、巷で朱旌の小説を書いているという風説もあるぞ」
「おや、そんなことを誰が?」
(誰が告げ口しやがった。このことは誰にも知られていなかったはずなのに。変だ。嵌められたのか?)
「どうしましたか?お熱でも?」
「いつもお優しいあなたに贈り物を」
「何かしら?」
「これを!」

花朗は腰に佩いた剣を抜き放つと娘は倒れ、漢も腕を押えて倒れた。斬られたという芝居だろう。そこに若い漢が出てくる。若い漢は倒れた漢から剣を受け取り、花朗に対峙して叫ぶとともに斬りかかる。

「覚悟しろ『閭黄』!」

若い漢は当時の奏の遣士、麦玉蘭の父槙羅であるようだった。





お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう

最終更新日  2006年05月05日 12時16分07秒
コメント(0) | コメントを書く
[想像の小箱(「十二」?)] カテゴリの最新記事


PR


© Rakuten Group, Inc.