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2007.08.10
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J-L・フランドラン/M・モンタナーリ編(宮原信・北代美和子監訳)『食の歴史2』
(Jean-Louis Flandrin et Massimo Montanari dir., Histoire de l'alimentation, Fayard, 1996)
~藤原書店、2006年~

 性の歴史に関する研究を進め、後に食の歴史の研究も進めたフランドランと、食の歴史の研究で有名なモンタナーリの監修のもと、総勢43名の研究者が執筆した大著『食の歴史』の邦訳第二巻です。(第一巻の紹介はこちら)。
 邦訳第二巻は、西洋人(カトリック教徒)以外の食生活について見た後、中世盛期・後期から近代までを扱っています。
 目次は以下の通り。

ーーー
第4部 西洋人と他者
 食のモデルと文化的アイデンティティ(マッシモ・モンタナーリ)
 第19章 オリエントのキリスト教徒―ビザンティン世界における食の規則と現実(エヴァルト・キスリンガー)
 第20章 アラブ料理、およびそのヨーロッパ料理への寄与(ベルナール・ロザンベルジェ)
 第21章 中世のユダヤ教徒の食(ミゲル・アンヘル・モティス・ドラデール)

第5部 中世盛期・後期
 新たな食のバランスに向かって(マッシモ・モンタナーリ)
 第22章 封建社会と食―12-13世紀(アントニ・リエラ=メリス)
 第23章 自家消費と市場のはざまで―中世後期における農村と都市の食(アルフィオ・コルトネージ)
 第24章 食の職業(フランソワーズ・デポルト)
 第25章 ヨーロッパにおける旅館業の始まり(ハンス・コンラッド・ペイヤー)
 第26章 中世の料理―14世紀と15世紀(ブリュノ・ロリウー)
 第27章 中世末期とルネサンスにおける食と社会階級(アレン・J・グリーコ)
 第28章 14世紀・15世紀・16世紀の調味と料理、栄養学(ジャン=ルイ・フランドラン)
 第29章 「注意せよ、不作法者となるなかれ」―食の作法(ダニエラ・ロマニョリ)
 第30章 火から食卓へ―中世末期の調理器具・食器の考古学(フランソワーズ・ピポニエ)
 第31章 イメージの宴会と彩飾「オードブル」(ダニエル・アレクサンドル=ビドン)

第6部 西欧キリスト教世界から諸国家のヨーロッパへ―15世紀-18世紀
 近代(ジャン=ルイ・フランドラン)
 第32章 理由なき成長―生産構造・人口・栄養摂取量(ミシェル・モリノー)
 第33章 地域循環型経済における農民の食(ジャン=ルイ・フランドラン)

原注及び参考文献
原タイトル一覧
執筆者紹介

ーーー

 第4部は省略して、第5部以降について興味深かった章を中心に所感を書いていきます。

 中世の動きについて簡単にまとめておくと、盛期中世の頃から、次第に人口が増加していきます。その人口を養うために、開墾活動が行われ、森林などの未開墾地が減少します。こうして、初期中世には肉も入手しやすかったのですが、その可能性が減ることとなります。食に関していえば、初期中世にほどよく保たれていたバランスが崩れてきた―そのように感じました。

 第5部は、特に後半の方の論考を興味深く読みました。
 26章では、料理書、あるいは中世のレシピ集を読むにあたっての注意点を示した上で、こうした史料を用いて、国ごとの嗜好の違いなどを指摘します。たとえば、フランス人は酸味に対する嗜好が強いのに対して、イングランド人やイタリア人は甘さへの嗜好が強かったといえるそうです。
 また、料理はその見た目も評価の基準とされたということで、料理の色に関する言及もあり、興味深かったです。

 27章は、標題通り、食と社会階級の相関関係を示しており、とても興味深かったです。穀物についていえば、社会階層が増えるほど、食事の中でパンを食べる割合が大きく、階層が上がると、その割合が小さくなります。
 肉についても、身分にふさわしい肉を食べることがすすめられました。逆に、自分の身分にふさわしくないと、高価な肉を拒んだ人物もいたことが紹介されます。興味深かったには、説教師シエナのベルナルディーノが、寡婦に向けた説教の中で、夫がいたときには家禽を食べていたとしても、寡婦となった今、家禽を食べるのは好ましくないと説教したということです。このことには、家禽は熱をもたらすと考えられ、また、過剰な熱は、大食の罪から肉欲の罪へと導くと考えられたという背景がありました。
 本章の中でもっとも興味深かったのは、人間同様、自然もヒエラルキー状に分割されている(=「存在の大連鎖」)はしごの形で創造されたと考えられていたことです。神の創造物全てが、土・水・空気・火のに分割されており、土が最も卑しく、火が最も高貴な元素で、それぞれの元素の中に生きる動植物もランク付けされていました。たとえば、土になる植物についていえば、鱗茎を食べるタマネギなどは最も卑しく、反対に、木の高いところ(=地面からより遠く離れたところ)になる果実は、その他の果実よりも高貴だと考えられます。こうした理論のために、イチゴとメロンは貧しい果物だと考えられたとか。
 とまれ、当時(中世末期からルネサンス期)には、食べ物にもこのようにヒエラルキーがあるわけですが、身分の高い人間がより高貴な食物を食べ、卑しい人間はより卑しい食物を食べるような社会であったことがうかがえます。

 28章は、スパイスがなぜ14-16世紀によく用いられたのかを説明します。最初に、食肉の保存、あるいは保存の悪かった肉の劣悪な味をごまかすためにスパイスが用いられていたという説を厳しく批判します。私も、以前モンタナーリの『食文化の歴史』を読むまではそのように想像していた―というか、聞いていたように思っていたのですが、割と広まってしまっている説ではないでしょうか。
 この説は、三つの点から批判されます。1.肉と魚の保存剤は、基本的に、スパイスではなく、塩、酢、植物油であったこと。2.塩漬けを別にすれば、肉は現在よりずっと新鮮な状態(家畜の処理は、販売当日に行われたとか)で食べられていたということ。3.保存肉、あるいは保存が悪く、劣悪になった肉を食べた人たちがいたとしても、それはスパイスを買う経済的な力のない人々だったということ。説得力のある批判ですね。そして、本章は、スパイスの医薬的効能を強調します。
 さらに、栄養学と食の結びつきを指摘したり、それを傍証するために古いことわざを使ったりと、興味深い章でした。

 29章は、文献資料から、食卓での作法を復元する試みです。ナイフで歯のあいだをほじってはいけない、なんて記述も当時の史料にあるようで、面白かったです。31章でも、図像史料から、当時の食卓での作法に関する指摘があります。

 第6部から、近代に入ります。
 さらに人口増加が進み、たとえばイングランドでの囲い込み運動が起こるように、さらに農作物への需要が高まります。こうして、穀物主体の食生活となり、だからこそ、不作の食糧不足が深刻になっていくわけですね。
 また、先の時代に見られたような、栄養学と料理の結びつきもゆるんできたというのも一つのポイントでしょうか。料理の洗練が、健康保持のためでなく、グルマン[美食家]の味覚を満足させることを目的としていくことになります。

 32章は、近代における各国の人口増加について、具体的に示してあって興味深かったです。またこの章では、当時の人々の平均的な栄養摂取量の復元も試みられており、そちらも興味深いです。あくまで平均での話ですが、栄養摂取量が決して不足してはいなかった―むしろ、豊富だったとも指摘されています。

 あとは、いくつか指摘を。
 ちょっといくつか気になる訳語がありました。カルル大帝というのは、分かりますけれど、あまり一般的な表記ではないのでは…と感じました。バルト海もバルティック海とありましたが、一般的なのでしょうか…。固有名詞のカタカナ表記については、割と人によってばらばらだったり、はやりというか、時期によって一般的な表記が変わっていったり(本書とは関係ありませんが、ラテラノ公会議を、ラテラン公会議と表記するのが一般的になってきていると以前聞いたことがあります)、難しい部分もあるのですけれど。

 それから本書は、もともと一巻の本を三冊に分けているためか、第4部総論は、433頁からはじまります。同じく藤原書店から刊行されているデュビィ監修の『女の歴史』も同様ですね。気にしなければ平気なのですが、最初は違和感を覚えてしまいます。

 そうは言うものの、食を中心として、様々な方面に議論が及ぶので、とても興味深く読み進めることができます。いよいよ第3巻を読んでいきたいです。

*執筆者について追記です。30章のピポニエ、31章のアレクサンドル=ビドンは、いずれも、その衣生活に関する論考が、徳井淑子編『中世衣生活誌』(紹介記事はこちら)に収録されています。徳井さんの編訳書の方が、執筆者の情報をより詳しく書いてくれています。





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Last updated  2008.07.12 18:22:24
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