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2008.09.24
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小池寿子『死を見つめる美術史』
~ポーラ文化研究所、1999年、230頁~

 特に中世の、死を題材にした絵画作品の分析を中心に研究を進めておられる西洋美術史家・小池寿子先生による、割と一般向けの著作です。先生の本を読むのはこれが初めてですが(論文は除く)、本書はですます体で書かれていることもあり読みやすく、それでいて注も付されていてさらに研究を広げることもでき、面白い一冊でした。
 本書の構成は次のとおりです。

ーーー
はじめに モンテリッジョーニの早春
第1章 死と追悼
第2章 腐敗
第3章 死者のための祈り
第4章 霊魂のかたち
第5章 運命
おわりに 死を想う場―墓地・都市・水


主要参考文献
「死を見つめる美術史」略年表
あとがき
ーーー

 まずは、各々の章について簡単に興味深かったところなどを書いておきます。

 第1章では、数年前より気にしていながら調べを進められていない泣き女について言及があり、興味深かったです。特にギリシャとエジプトの事例で、中世ヨーロッパについて触れられていないのは残念ではありましたが。にしても、泣き女に特化した文献が注に挙がっているわけでもなく、やはり(中世)西欧の泣き女に関する研究はほとんどないのでしょうか…。
 関連して、図像史料では、死者を悼む者たちは大げさな身振りで、髪をかきむしったりしています。ここから、髪の象徴性の話に移っていくのですが、このあたりも興味深く読みました。

 第2章も、「腐敗」というモチーフが中世において教化との関連で用いられたこともあり、興味深く読みました。
 本章では、私が最初に読んだ小池先生の論文でも対象となっていた「三人の生者と三人の死者」についても論じられているので、ここに簡単に書いておきます。
 著者によれば、古来より、「腐敗」が芸術の中ではじめて表現されたのは1300年頃、「三人の生者と三人の死者」に始まります。このモチーフは、次のような感じです。
 三人の高貴な若者たちが、道すがら、野辺の墓地で三人の死者に出会います。すっかり蛆虫に食われ、骸骨になってしまっている三人の死者は、「私はお前(生者)のようであったが、今ではこのとおり。傲慢に生きていた結果だ」などのように語りかけ、三人の生者に傲慢な生活を戒め、悔悛を促し、良き死を迎えるよう神に祈ることを勧める―というものです。
 また、この時代の後(14世紀半ば以降)、高貴な人々は自らの墓碑に腐敗像を彫らせるようになります。そしてその墓碑銘は、「三人の生者と三人の死者」の死者たちのように、生者に語りかけます。「私はあなたのようであった。あなたも私のようになろう」という風に。
(※上で書いた死者の言葉は、本書の正確な引用ではなく、簡単に書いています)
 こうしてみると、墓碑銘は特に高貴な人々しか作れなかったでしょうし、「三人の生者と三人の死者」も登場人物は高貴な人々ですし、とりわけ権力者たちの間で流行したモチーフなのだろうと想像します。墓碑銘などは教会やら墓地やらで一般の人々も目にする機会はあったでしょうけれど、身分によってこうした絵画のとらえ方も違ったのかな、と思ったりします。

 第2章の紹介が長くなったので、第3章は簡単に。この章では、主に「死者のための聖務日課」(在俗聖職者や修道士が一日に何度か祈祷するのですが、中でも死者のために捧げられたお祈り)の写本を題材に、その頭文字を飾る絵を分析します。
 個人的には、臨終の床で行われる儀式の流れ(87頁)が示されているのが興味深かったです。

 第4章と続く第5章は、1~3章に比べて分量も多く、読み応えがあります。
 第4章は、章題通り、絵画や文学史料に現れる霊魂のかたちを分析します。章の冒頭の方では、日本の『往生要集』の、死体の9段階の変化にも言及があり、面白かったです。
 その後、死後の魂はどのような移動をするのか、瀕死の者がより善く死ぬ方法を説く『往生術(アルス・モリエンディ)』について、死後世界の状況についてを論じたのち、いよいよ、霊魂のかたちについての話になります。
 特に興味深かったのは、翼をもつものとしての魂の描写です。神がアダムに吹き込む魂が鳥の形をしている、という絵も紹介されていて、これはおそらく初めて見たので、わくわくしました。

 第5章は、主に擬人化された「運命」についての話です。
 運命女神は気まぐれで、悪漢たちに権力を与えたかと思えばすぐに奪い取り、権力者たちをどん底に落とします。「運命の車輪」を運命女神がまわし、車輪の一番上には王がいるのですが、下方に廻ると王冠ごと落ちていくような図版が紹介されていて、面白かったです。もう一つ運命女神について面白かったのは、彼女は次第に悪い性格を与えられるようになる、ということ。することがめちゃくちゃなので、盲目の人と考えられていた彼女は、次第に目隠しとしてその盲目性が表現されるようになります。また、ある図版では、色とりどりの、しかも縞模様の服を着ているということで、ミシェル・パストゥロー『悪魔の布―縞模様の歴史』を思い出しながら、興味深く読みました。

 「はじめに」と「おわりに」は、いずれも著者がヨーロッパを旅したときのことにふれつつ、死についていくつか叙述があります。なんだか詩情も感じる文章で、どちらも興味深く読みました。

 あとがきの中で、著者は「わかりやすさ」をこころがけたと言っておられますが、本当に分かりやすいです。私の理解不足か、一部にちょっと唐突な印象を受ける部分もありましたが、全体的に興味深く、楽しく読みました。
 小池先生の他の著作も、機会があればまた是非読んでみたいと思います。
(2008/09/23読了)


 なお、私は1999年、ポーラ文化研究所より刊行のソフトカバー版を持っていますが、 2006年にちくま学芸文庫としても刊行されたようです。その画像を掲げておきます。





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Last updated  2008.09.25 21:29:21
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