カテゴリ:本の感想(や・ら・わ行の作家)
横溝正史『悪霊島(上・下)』 ~角川文庫、1981年~ 金田一耕助さんの最後の事件『病院坂の首縊りの家』の後に発表された作品ですが、事件自体は『病院坂の首縊りの家』の最終的な解決以前に起こっています。瀬戸内海に浮かぶ刑部島が、本書の舞台となります。あの獄門島も瀬戸内海の島ですね。 それでは、内容紹介と感想を。 ーーー 昭和42年(1967年)6月。 金田一耕助と磯川常次郎警部は、瀬戸内海をのぞめる鷲羽山にいた。金田一耕助が瀬戸内海の刑部島を訪れるというので、警部はその島にまつわるいくつかの事件を紹介する。 一つは、金田一耕助が探している人物について。刑部島出身で、今ではアメリカと日本をまたにかけて活躍している越智氏の依頼で、耕助は青木なる人物を捜していた。ところが、青木氏は島の崖から海に落ちて、死亡していた。「あいつは腰のところで骨と骨とがくっついたふたごなんだ……鵺のなく夜に気をつけろ……」という、奇妙な言葉を残して…。 もう一つは、島と関係があると思われる市子(占い師)殺人事件。市子は、磯川警部に過去の罪を悔いる手紙を残していたが、その罪とは何なのか…。 島には、越智氏と、刑部の一族の二つの勢力があった。刑部氏が落ち目にあるのに対して、越智氏はその島のレジャーランド化を計画しており、本家さまと呼ばれ、人望もあつかった。越智には、刑部大膳によって、刑部巴(御寮人)との仲を裂かれたという過去もあった…。 金田一耕助が島に渡った数日後には、越智氏も島に戻ってくることになっていた。彼は、島を出た人々を集めて、島で大きな祭りを開催しようとしていた。祭りの準備もあり、過疎の島に活気が戻ってきていた。 ところが、備中神楽が行われた祭りの夜、事件が起こる。巴御寮人の夫である住職が、黄金の矢で体を貫かれて死んでいたのだった。また、時を前後して失踪していた二人の双子の娘の一人は、犬と烏についばまれた、無惨な死体として発見された…。 過去に島で起きているいくつかの蒸発事件の真相は何なのか。 一方、いくつもの謎の解決がまたれる中、磯川警部の様子がどこかおかしかった。金田一耕助は警部を心配しながら、事件の真相に迫っていく。 ーーー 本作は、磯川警部の物語といっても過言ではありません。 島に訪れてから―いや、あるいは最初から―、どこかいつもと様子の違う警部。 「本陣殺人事件」以来、岡山での事件では金田一耕助さんとともに活躍していらした警部の過去がいろいろと語られますが、その裏にこんなことがあったとは…。 そして、刑部島での事件の真相も、かなり衝撃的です。また、この動機(あるいは光景)は、あるいは京極夏彦さんや高田崇史さんあたりが描いてもおかしくないような、いまでも十分に通じるものをもっていると思います。 金田一さんがいろんな事件関係者に向ける優しさに、上にも記した磯川警部の不思議な態度の謎など、読み応えもあり、また事件の解明自体も魅力的な、素敵な一冊です。 また、本作では鷲羽山や水島コンビナートなど、岡山人の私にはなじみの深い場所が描かれます。水島コンビナートが発展し、公害が問題になっていた時代の話なので、当時の状況がなんとなくですが忍ばれ、そういう意味でも興味深かったです。 横溝さんはすごい。あらためてそう思える読書体験でした。 ※表紙画像は、横溝正史エンサイクロペディアさまからいただきました。 (2009/11/21読了)
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Last updated
2009.11.25 06:52:23
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