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2014.08.16
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堀米庸三『正統と異端―ヨーロッパ精神の底流―』
~中公新書、1964年~


 堀米庸三先生による、あまりにも有名な著作の一つです。
 西洋中世史を勉強していながら、本書を読むのがいまさらになってしまったのがきわめて残念ですが、でも読んで良かったです。これは勉強になりました。
 まず、本書の構成は次のとおりです。

ーーー
まえがき

I 問題への出発
 第一章 ローマ法王権の負い目
 第二章 正統と異端の理論的諸問題
 第三章 キリスト教正統論争の争点―秘蹟論
II 論争
 第四章 グレゴリウス改革と秘蹟論争
 第五章 グレゴリウス改革と秘蹟論争(続)
III 問題への回帰
 第六章 グレゴリウス改革と十二世紀の宗教運動
 第七章 イノセント三世と宗教運動

史料と参考文献
年表
ーーー

 本論は、1210年の、教皇インノケンティウス3世とアシジのフランチェスコの出会いから始まります。著者は、これを「世界史的な出会い」といいます。フランチェスコの運動は、少し前なら異端として弾圧されてもおかしくなかったこと、そして教皇には、宗教運動に対して細心の注意を払う必要があったことが、その理由です。

 それは、どういうことか。第二章以下では、その意味を詳しく見ていくことになります。

 第二章では、正統と異端の定義づけが試みられます。正統と異端は、相互否定的な言葉ではありません。根本を共通とする規範があってはじめて、正統と異端が生じます。仏教はキリスト教の異端ではなく、あくまでキリスト教の内部に、正統と異端が生じる、ということです。さらに、正統=客観主義、異端=主観主義、という図式も提示されます。また、政治の領域についても言及があり、興味深いです(ソ連が例に挙げられます)。

 第三章は、秘蹟をめぐる初期キリスト教の議論について語られます。簡単にいうと、品行の悪い聖職者が行う洗礼などの秘蹟は有効か、という問題です。アウグスティヌスたち「正統」派は、秘蹟はあくまで神が行うものであり、品行の悪い聖職者が行ってもその秘蹟は有効だ、といいます(また、神が行うことですから、再洗礼はありえない)。他方、異端とされたドナティストたちは、そもそも品行の悪い聖職者は恩寵をもたないので、秘蹟をしたとしても無効だ、といいます。

 第四章と第五章では、11世紀~12世紀の「グレゴリウス改革」の中での、秘蹟論争を詳細に論じます。端的にいえば、グレゴリウス改革のきっかけの一つに、当時品行の悪い聖職者が多数いたことから、規律の粛正を図る必要があり、そのため改革は、聖職売買をした聖職者による秘蹟は無効だ、という論調から始まります。つまり、初期には異端とされた議論が、トップの側から出てきたことになります。しかし、世俗の皇帝との争いなども落ち着いてくると、急に教会は保守化し、涜聖聖職者への過激な論調を排除、または修道会に閉じこめようとするようになります。

 第六章は、12世紀の宗教運動(清貧、遍歴説教=使徒的生活を重視)のうち、代表的な人々や運動を概観し、第七章でふたたび、インノケンティウス3世がいかにそうした宗教運動に対処したかが論じられます。それは簡単にいえば、寛大さと慎重さをもって取り扱うことを重視し、こまかい点をせめたてて改心のチャンスを与えないような取り扱いには反対した、ということになります。さらにいえば、異端的な人々を教会に取り込み、異端に対する防波堤にしようとしたことも興味深いです。

 以上、ざっと本書の概要をメモしてみました。
 とにかく、知的興奮に満ちた一冊でした。内容もさることながら、語り口も絶妙です。
 良い読書体験でした。





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Last updated  2014.08.16 12:10:04
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