お空に帰った望実ちゃん。（続き）

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2006年10月06日

テーマ：超低出生体児出産(491)

カテゴリ：お空に還ったノゾミちゃん

その瞬間は穏やかに訪れました。

号泣するような感情は、わき起こりませんでした。

なぜか、和やかに談笑するような雰囲気でした。

ハハの腕の中で、望実ちゃんは
つけられていた点滴や呼吸器を外されました。

「顔を全部見るのは初めてです」と言うと、
「手術した先生しか見てないですよ」と言われました。
担当してくれていた先生ですら、二度目だと言いました。

担当のスタッフさんが、テープを剥がしながら、
「痛てててて…」と言いました。
先生が笑みながら、「痛くない痛くない」と言いました。

「しっかりとくっついちゃって取れないねぇ」と
オレンジの匂いのするクリーナーで剥がしました。

すっかり医療装置が外された望実ちゃんを見て、
スタッフさんは「のんちゃん、笑ってる」と
言ってくれました。

呼吸器がついたまま、亡くなってしまったので、
口が開いたまま、少し歪んでいます。

胃から出血したときについたのか、
下唇に血液が付着していて、まるで
お化粧でもしているようでした。

別室で、望実ちゃんの手と足の型を、
スタンプ用の黒インクで紙にとりました。

ダンナさんとふたりで、身体を洗ってあげました。

一ヶ月間以上、お風呂にも入らず、
新陳代謝のいい乳児のこと。

望実ちゃんは脱皮するかのごとく、
皮膚が一枚剥がれたり、そのままついたままの
状態になっていて、肌の色がまだらになっています。

鼻の穴の汚れをとってあげようとしたら、
古い皮膚だったらしく、ぺろんと剥がれて
鼻の頭だけ新しい肌になってしまいました。

剥がれたところを見てみると、
生まれたときに生えていた
濃い産毛がついていて、新しい肌は
つやつやになっていました。

このまま育てば、新生児のきれいな肌に
なっていたのでしょう。

剥がれるのだからと、剥ける皮膚を
全部きれいにするわけにはいきません。

時間が経つにつれ、赤みがかっていた肌が、
意外なくらいに黄色みを帯びてきました。

温かかった身体は、すっかり冷えて、
筋肉が緩んで表情が消え、薄目を開いて、
笑ったように口を開けた望実ちゃんは、
お地蔵様のような面立ちになりました。

洗面器の中で洗ってあげて、
バスタオルの上に寝かせ、ハハは
以前から用意していた洋服を着せました。

それは、ムスメをモデルに今年から
制作してきた、球体関節人形用のドレス。
ピンクの帽子がおそろいです。
そして、完成した人形に履かせていた、運動靴。

まるであつらえたようにぴったりです。

本当は新しいものを揃えてあげたかったのだけれど、
注文したドレスが欠品中で間に合いませんでした。

首がむくんでいて、ホックが留まりませんでしたが、
お洋服をはじめて着せてあげられて、
なんだかほっとしました。

服を着せると、いよいよお人形のようです。
ほほえんだお地蔵様が、西洋ドレスを
着ているような姿になりました。

NICUにいた方々が次々とやってきて、
望実ちゃんの服を褒めてくれ、
抱っこしてくれました。

30センチ足らずの赤ちゃんに、
人形用とはいえ、ぴったりの洋服を
用意してきた人はいなかったようです。

みんなで写真を撮りあってくれました。

泣いてくださるスタッフさんもいました。

先生も抱っこしてくれました。

実父よりは年齢が若くて、白髪になる前は
さぞかしイケメンだっただろう先生の、
そのときの慣れた抱き方が、なんだか孫を抱く
祖父のようで、微笑ましく思えました。

「ありがとうございました」

心から、そう言うことができました。

大学病院のため、言わなくてはなりません、
断ってくださってもかまいません、と
心苦しそうに前置きして、解剖の話が出ました。

望実ちゃんの出生児の体重や、
心臓の奇形を考えると、非常にレアなケースなため、
本来ならお受けするべきなのでしょうが、
わたしや祖父母の意見も尊重していただけたら、
と解剖はお断りしました。

しばらくして死亡診断書が発行され、わたしたちは
望実ちゃんを家に連れて帰ることにしました。

NICUの夜間担当の方々に挨拶をしました。
担当の先生とスタッフさんが、
病院の出口まで見送りに出てきてくれました。

この病院は、日本国内で初めて、
ユニセフの「赤ちゃんに優しい病院」に
認定されたのだそうです。

出産し、さまざまな症状と闘う望実ちゃんを
見守る間、病院側の母親にできるケアは、
わたしには不足している感は否めませんでした。

ですが、娘が亡くなる直前直後、
存分に抱っこさせてもらい、お風呂も入れ、
洋服も着せてあげられました。

関わってくださったたくさんの方々に会い、
お別れを言っていただき、抱っこしていただいて、
記念の写真もたくさん撮り、後日、
写真のデータをCD-Rにして渡してくれると言われ、

できるかぎりのことをしてもらい、
させてもらった気がして、病院を去るとき、
わたしの気持ちはとても落ち着いていました。

実父と実母に、車で迎えに来てもらいました。

望実ちゃんには手足に壊死があり、
おなかにも３カ所も傷があって、
抜いてしまうともっと漏れてしまうから、と
ドレーンも入りっぱなし、じわじわと
内部からの浸出液が出てくるのを
ガーゼで抑えている状態でした。

通常より、かなり遺体の傷みの早い
望実ちゃんのために、途中のコンビニで
氷を大量に購入しました。

時間外だったものの、区役所によって、
書類を出しに行きました。

しかし、火葬場が決まらないと、
死亡届は受け付けてもらえないので、
明日、火葬場に連絡してから、
出直すことになりました。

役所の夜間担当の人はパジャマで出てきて、
少し迷惑そうでしたが、生後一ヶ月の新生児が
亡くなったことに気づいたらしく、
だんだん親切になりました。

最初、胎児の火葬用の書類を渡されたのですが、
戸籍に載っている望実ちゃんは、
大人と同じ書類が必要であることがわかりました。

気の毒そうに、通り一遍のお悔やみを
言われましたが、なんだか他人事の
ように思えました。

すごく現実から乖離しているような感じで、
不思議な気分でした。

自宅に戻ると、ムスメは寝ていました。

今晩は、居間に望実ちゃんを
寝かせることにしました。

プラスチックケースに氷を敷きつめ、
バスタオルを敷いて、そのうえに寝かせました。

遺体が傷まないように、部屋にも
冷蔵庫並みにクーラーをガンガンかけました。

明日、ダンナさんが火葬場に電話をして、
状況によっては、葬儀屋を頼むと言いました。

明日、開催される予定の幼稚園の運動会には、
ハハが出席し、ダンナさんは火葬場を手配したり、
書類を用意して区役所に提出したりするために、
自宅で待機することになりました。

あとから知りましたが、この日は
中秋の名月でした。

一日、雨が降っていたところを思うと、
夜空も月を隠して、ともに
泣いてくれたのでしょう。

明日は晴れそうです。

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