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カテゴリ:映画
『楽隊のうさぎ』、鈴木卓爾監督作品。
「約1年をかけて子どもたちの成長とともに完成した、奇跡の吹奏楽映画」、とある。 原作は、いわずと知れた中沢けいの小説。 小説を愛好し、文章も書いたことのある身としては、やはり原作とは別もの、と言わざるをえないのだが、もとがあり、それを改変して別ものにした、という例はいくらもあるわけで、これはまぁ、しょうがないのだろう。 小説を読んでから映画をみると、あれ?とおもうが、逆に、映画をみてから小説を読んでもらえたらいいのかな、と。 ☆ 小説には、主人公が親の実家に滞在し、ある覚醒があり、演奏が変化するというのが重要なポイントになっているし、それが、大勢で音楽をやる、演奏がコミュニケーションになるわけだが、それが欠けている。みながら、拙著『オーケストラ再入門』(平凡社新書)には、遠く、この小説と交差するところがあったことを想いだしたりしていた。 また、用いられている音楽として、小説ではレスピーギ《シバの女王ベルキス》が吹奏楽レパートリーとして重要な意味を持っているのだったが、ここでは中学の先生のオリジナル曲となっているのも、かなり違う。 主人公はときどき「うさぎ」をみるのである。それがタイトルにもなっているわけだ。幻想といってはつまらない。自分のなかにある何か、もうひとつのキャラクターとでもいうか、だ。それが、ここでは着ぐるみの女の子で登場する。ま、それはそれで悪くないが、やはり、小説でのホンモノ(ヘンな言い方だが)のうさぎとは違う。みえないものをみさせてしまうこと、での、難しさがここにはやはりある。 とはいえ、このうさぎが、吹奏楽部の定期演奏会がおこなわれているとき、音楽室でたったひとり(一匹?)ぽつんと椅子にさわったり、たちすくんだりしているのだが、そこは、とてもいい。風の音や鳥の声がしている。吹奏楽を演奏する、個別に、あるいは全員で練習をして音楽-らしきものが多くなっている映画のなかで、ここは人為的でない音=音楽を、映画をみている/きいているものに感じさせる部分になっているのだから。 ☆ けっこう、この中学の吹奏楽部の編成はおもしろい。テューバが3人とかいて、バス・クラリネットとやバスーンがいたりする。もちろん通常どおりのフルート、クラリネット、サックスから、トランペット、トロンボーン、ユーフォニウムは複数いるのだが。 ☆ それにしても、みんな、ヘタ、なのである。 でも、それがだんだんと、それでいいんだ、これは、という気になってくる。 先生役を演じる宮崎将は、青山真治『EUREKA ユリイカ』の兄役でデビューした俳優だが、かれでさえが何かぎこちない。それは、じつは、演技なんじゃなかろうか、と。 そして、最終的にこのヘタさでこその映画だと腑におちる。 ☆ オーディションによる46人の子どもたち、という。 この映画は、彼らが1年をかけて成長する記録でもあるという。 出演者の名をみていくと、随分、旧来のこの列島に生まれ育ったのとは異なった名が多いのに驚く(実際、パーカッションをやっている1人の女の子は、知り合いの子によく似ていたのだが、その知り合いの子はアメリカの血がはいっていたのだったっけ)。 ☆ 監督の名は、もしかして知らなくても、『私は猫ストーカー』の監督といえば、わかるだろうか(あの蓮實重臣のテーマ曲は絶品だった)。 ☆ 音楽監督は磯田健一郎。 映画のなかでひびいているもの、アレンジなども含めて、悪くない。中学校の現実というのはこういうふうかも、と、納得できるものでもある。 だが、エンディングの音楽、メロディーやフルートの重ねもまあまあではあるものの、ハープの書法はいただけない。あんなふうに和音で拍をとらせるようなことをえんえんとやったり、凡庸なアルペッジョをならべるようでは……。エンディングくらいは、1ランク上であるべきではないか? ☆ 公開は12月14日(土)より 渋谷ユーロスペース、新宿武蔵野館、浜松シネマイーラほかにて。 http://www.u-picc.com/gakutai/ お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
Last updated
2013年09月20日 00時06分44秒
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