セカンドハウス
梅雨が明けると一気に暑くなる。テラスには籐製の椅子が置いてある。お天気のいい日に庭を眺めたり読書をするために置いたのだが、近頃は忙しくてそんな優雅な時間を過ごすことは滅多にない。せっかくの籐椅子も、鉢植えの台と化していた。
にゃあ君は時折、籐椅子の周りで遊んでいる。脚の部分に体をこすりつけたり、爪研ぎをしたり、暑い日には椅子の下に潜り込んで昼寝をしている。座面の編目が陰を作るので、涼しいらしい。そんなに気に入ったなら、と鉢植えをどかし、そこに、にゃあ君用の物見台を作ることにした。今あるハウスはテラスに直に置いてあるため、低いし風通しが悪い。新たにダンボールを用意し、屋根の部分の前半分から前面にかけて切り取り、庇が半分ついた形にした。それを籐椅子の上に載せておくと、その日のうちに、にゃあ君は入って庭を眺めていた。椅子の高さが50センチほどあるため、見晴らしもよい。そのセカンドハウスはにゃあ君のお気に入りの場所となった。
夜道の遭遇
ある晩、10時を回った頃、私は家路を急いでいた。にゃあ君の待つ家に少しでも早く帰らなくては。自然と歩調も速くなる。暗がりを時折自転車がシュッと追い抜いていく。この辺りは住宅街で8時を過ぎると人通りがパッタリ途絶え、一人歩きは怖い道だ。
この先のカーブを回れば家、というところで前方に猫の姿が見えた。近付いていくと、街灯にほのかに浮かぶ姿は背中から尻尾にかけて黒っぽく、首からおなか、手足が白い。あれはにゃあ君だ。にゃあ君は暗がりでは見えにくいので、自転車にでも撥ねられたら大変だ。
「にゃあ君、にゃあ君、どうしたの?」
何の反応もない。にゃあ君なら、自分の名前を聞けば、振り向くはずだ。更に近付くと、にゃあ君らしき猫がこちらへ顔を向けた。正面から見ると、白黒ぶちの不細工な顔で、にゃあ君とは似ても似つかない。
「あ、間違えました。」
帰宅すると、にゃあ君はちゃんとセカンドハウスに入っていた。にゃあ君に、白黒ぶち猫の話をする。にゃあ君は小首をかしげて聞いている。
「・・・・ごめんね、にゃあ君。よその猫と間違えちゃうなんて。」
(にゃあ君と間違えたブチ君。明るい所でみたらちっとも似てないんだけどなぁ。)