第3話
子猫を連れて家に入る。
「さあ、猫ちゃん。おうちに着きましたよ~。」
袋のポケットに入れた猫餌の砂利で汚れていない部分をお皿に入れる。しかし、全部は出さず、少し残しておく。空腹状態のところに一気に食べたらお腹をこわしてしまうかもしれない。様子を見ながら餌を追加する。
子猫が食べている間にトイレの用意をする。にゃあ君が使っていたトイレと未使用の猫砂は物入れにしまってある。黄色のプラスチックの容器に猫砂を入れながら、にゃあ君の写真に声を掛ける。
「ごめんね、にゃあ君。にゃあ君のトイレ、新しい猫ちゃんに使わせてね。」
思い起こせば、にゃあ君の初トイレは大失敗に終わった。猫砂を用意せず、シートと新聞紙で間に合わせたため、絨毯におもらしをされてしまった。今度は初めから砂を用意し、部屋の隅に置いた。
子猫は既にご飯を食べ終わり、周囲を嗅ぎまわっている。まずは新居の案内だ。子猫を抱き上げ、一部屋一部屋見せて回る。最後ににゃあ君の写真の前で足を止め、子猫に見せる。子猫の視線は写真に注がれている。
「ねえ、猫ちゃん、これがにゃあ君。猫ちゃんのお兄ちゃん。とってもお利口さんだったのよ。」
子猫は写真から目を離さず、じっと見つめている。そういえば、さっき自転車で通りがった女性がこの子も3ヶ月ぐらいだと言っていた。にゃあ君が逝ったのが3ヵ月前。まさか、まさか、この子はにゃあ君の生まれ変わりなのではないだろうか。
室内ツアーを済ませ、椅子に落ち着く。勢いで子猫を連れて来てしまったが、これからのことを考えなければならない。これまで当分猫を飼うつもりはないと家族に宣言していた。舌の根も乾かぬうちに次の猫を拾ってきたなんて、言い出しにくい。どうしたものか。あれこれ考えてみたが、うまい言い訳は見つからない。帰って来ていきなり猫に対面するより、事前に知らせておいたほうがいいだろう。下手な言い訳はやめて、一言メールを打つことにした。
「子猫を拾って来ちゃった!」
しばらくして返事が届く。
「いいんじゃない。」
久しぶりに熱いものがこみ上げてきた。にゃあ君を亡くしてからしばらく忘れていた感情だった。
「猫ちゃん、良かったね。うちにいてもいいって。これからずーっとうちの子だよ!」
(外で遊ぶ在りし日のにゃあ君)