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ごめんね、にゃあ君       

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2009.01.04
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   第10話
 
 翌日は再び我が家に戻る日だ。買い物がてら途中駅まで車で送ってくれるというので、乗せて行ってもらうことにした。
 朝食を済ませ、帰り支度を始める。にゃあ実ちゃんは台所には入れない約束になっていたが、誰かがうっかりドアを開けっ放しにしたため、いつの間にかにゃあ実ちゃんが台所に入り込んでしまった。狭い台所だが、テーブルの下、勝手口の土間など、あちこち逃げ回ってなかなか捕まらない。もうちょっとのところで脇をすり抜け、にゃあ実ちゃんが逃げ込んだのは、壁と棚のわずかな隙間だった。奥行き1メートル近くあるので、手も届かない。まさかほうきの柄で突っつくわけにもいかず、根競べだった。
 猫撫で声で名前を呼ぶが、にゃあ実ちゃんは出てこない。一番奥に張り付いて、こちらの様子を窺っている。そんなところでは窮屈だろうに、出てくる様子はない。玄関先ではみんなしびれを切らしている。これではにゃあ実ちゃんの評判が悪くなる。「これだから猫は・・・・」などと言われたくはない。
 そこでハタとにゃあ君のことを思い出した。にゃあ君とはよく鬼ごっこをしたが、探し出せないふりをして遠くでうろうろしていると、自分から「ここですよ~」と躍り出たものだ。早速、にゃあ実ちゃんにも試してみることにした。
 にゃあ実ちゃんが入り込んだ隙間を離れ、廊下に出る。台所から玄関へ通じる引き戸を10センチばかり開け、にゃあ実ちゃんとは反対方向に向かってにゃあ実ちゃんの名を呼ぶ。その後、引き戸の陰で息を潜めて待ってみた。1分、2分・・・・。3分も経たないうちに、にゃあ実ちゃんが隙間から出て来た。そして10センチばかりの引き戸の間から上半身を出したところをすっと抱き上げた。作戦大成功だ。
 出発前にトイレを使わせたかったが、そんな暇はない。バッグに入れると、すぐさま車に乗り込んだ。
 しかし、これが結果的に大変な事態を引き起こした。来る時のように最速の交通手段を使えば2時間ちょっとの道のりだ。しかし、車で1時間揺られ、途中駅まで送ってもらったのは良かったが、そこから乗り継ぎが悪く、家に帰るのに4時間近くもかかってしまった。にゃあ実ちゃんのトイレは大丈夫だろうか。時々覗いて見るが、異変はなさそうだ。
 ところが、あと30分という辺りで、にゃあ実ちゃんが悲壮な声をあげ始めた。「うんにゃあ~、うんにゃあ~」と訴えるような鳴き声だ。まずい!絶対まずい!!これはトイレに違いない。いざという時のために吸収シートは敷いてあったが、シートのトイレを使った経験のないにゃあ実ちゃんには、そこで用を足すなど問題外かもしれない。仮にしてしまった場合、その上に乗っているなんて、綺麗好きなにゃあ実ちゃんには耐えられないことだろう。人間だってそうだ。おもらしをした布団の上に座れと言うのはあんまりだ。
「にゃあ実ちゃん、頑張って~!」 
 網目越しに声を掛ける。
 ようやく最寄り駅に到着だ。電車を降りると、にゃあ実ちゃんの声が高まった。早く早くと急かしている。家に近付いたのが臭いでわかるのだろうか。バッグを抱きかかえ、走りに走った。
 家に着く。鍵を開け、玄関にバッグを置くと同時に入り口を開ける。にゃあ実ちゃんはすぐに飛び出し、奥へと駆け込んだ。もちろんにゃあ実ちゃんが飛び込んだ先はトイレだった。
「ごめんね、にゃあ実ちゃん、トイレを我慢させちゃって。」
 それにしても何ていい子なんだろう。にゃあ実ちゃん、二度とこんなことが起きないように気をつけるから、今度だけは許してね。





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最終更新日  2009.02.02 13:37:39
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