第16話
にゃあ実ちゃんが家にきてから、一旦変えた家具のレイアウトを再び戻すことになった。にゃあ実ちゃんが日向ぼっこできるように、庭に近いところに椅子を置いた。ちょうどにゃあ君が居た頃と同じように。にゃあ君もそうだったが、この椅子に座って外を眺めていると、睡魔が襲ってくるらしい。見張りをしているのかと思うと、いつのまにか可愛い寝顔を見せていた。
家猫のにゃあ実ちゃんは、にゃあ君よりも遥かにこの椅子で過ごす時間が長かった。庭や周囲の植え込みには、雀やヒヨドリやキジバトがやって来る。にゃあ実ちゃんは、よくこちらにお尻を向けて熱心に眺めていた。専用庭の芝生に雀が舞い降りると、椅子から跳び下りガラス戸に顔を近づけ、熱心に見つめていた。前足に力を入れて低い体勢をとり、今にも飛び掛らんばかりだ。ガラスがあるので飛び掛かれるはずもないのだが、これは本能なのだろうか。
そんなある日、にゃあ実ちゃんがガラスに張り付き、低い姿勢で奇妙な声を発しているのを耳にした。
「カッカッ、キッキッ、カッカッ・・・・」
声というよりは喉の奥から弾き出すような音に近いものだった。吐こうとしているわけではない。近寄ってにゃあ実ちゃんの顔を覗き込むと、視線が斜め上を向いている。その方向を辿っていくと、庭の先の隣家の2階部分の窓枠にキジバトが止まっていた。耳を澄ますとクルルル、ポッポッーと微かに鳴き声が聞こえてくる。
「にゃあ実ちゃん、鳩さんがいるねぇ」
にゃあ実ちゃんは返事もしない。じっと鳩を見つめ、相変わらず「カッカッ」とやっている。興奮しているのか、威嚇しているのか(それには距離があり過ぎる)、喜んでいるのか、はたまた会話をしているのか。まさか食べているわけではないと思うが、その行動はそれからずっと鳩が来るたび続いた。