6799359 ランダム
 ホーム | 日記 | プロフィール 【フォローする】 【ログイン】

仙台・宮城・東北を考える おだずまジャーナル

【毎日開催】
15記事にいいね!で1ポイント
10秒滞在
いいね! --/--
おめでとうございます!
ミッションを達成しました。
※「ポイントを獲得する」ボタンを押すと広告が表示されます。
x
2011.09.27
XML
カテゴリ:仙台
大正5年東北帝国大学理科大学に臨時理化学研究所第二部が発足し、大正11年には東北帝国大学附属金属材料研究所に改組する。永久磁石鋼のKS鋼を発明した本多光太郎博士を中心に、強磁性金属の研究が進められた。強磁性とは、磁場によって一旦強く磁化されると、磁場がなくなった後も磁性を保ち続ける性質であり、強磁性金属には、鉄、ニッケル、コバルトの3つがある。

このうちコバルトに変態があることが、大正13年(1924年)金属材料研究所の助手になったばかりの青年、増本量によって発見された。

この大発見は、実は本多所長が洋行で留守の8か月の間に行われた。増本は、本多所長から、所長洋行中は、三元合金の物理的性質の研究をまとめるよう、話を受けていた。しかし、強磁性金属の物理的性質の解明は、同研究所の大命題であり、一助手には大きすぎるテーマであった。そこで、増本は、三元合金の測定の前に、鉄、ニッケル、コバルトのここの性質を徹底的に調べることにした。

当時既に鉄やニッケルについては詳細に研究が進んでいたが、コバルトについては、H.ワイド、長岡半太郎、本多光太郎など世界の第一線の研究者が異なる測定結果を示し、解釈もまちまちであった。金属は温度変化によって原子配列を変え、それに伴い性質も変わる。これを金属の「変態」と呼ぶが、当時の金属学界では、コバルトには変態がなく、常温時では結晶が六方格子と面心立方格子の混合体とするのが定説であった。3つしかない強磁性金属のなかで、コバルトだけが、変態や物性など解明されずに残されていたのである。

このことに気づいた増本は、所長が留守の間にコバルトに関する資料を読みあさるうちに、もしコバルトに2種類の結晶が共存するのならば、その理由が解明されていないのはなぜか、と自問した。そして、コバルトに変態はないとした定説そのものに疑問を抱くのである。

かくして増本はコバルトに焦点を絞る。純粋なコバルトを精製し、徐々に温度を上げて測定した。すると摂氏477度で急激な性質の変化が起きる。その現象をラウエ写真で確認すると、コバルトの結晶は、六方格子から面心立方格子に変化していた。つまり結晶変態が起きていたのである。

この世界初の大発見は、大正13年10月帰朝した本多所長に報告され、さっそく翌年論文に発表された。世界の金属学者が瞠目し、以来学界では、マスモト・メタモルフォシス(増本変態)と呼ばれている。

昭和2年(1927)増本は、スイスの物理学者ギヨームにより偶然発見されたインバー(不変鋼。鉄63.5%、ニッケル36.5%の合金で、温度変化による膨張率が鉄より遥かに小さい。ギヨームはこれにより1920年ノーベル物理学賞を受賞した。)よりもはるかに膨張係数の小さい三元合金(鉄63.5ニッケル31.5コバルト5)を発明した。インバーの膨張係数が鉄の10分の1に対して、それは100分の1以下であり、増本は、スーパーインバー(超不変鋼)と命名した。

続けて昭和7年には、導磁率がパーマロイ(ニッケルと鉄の合金)より3倍以上も高い、鉄とシリコンとアルミニウムの合金を発見する。導磁率が高いと、電気を通じて磁場を与えたときだけ磁気を発生させ、電気を切ると磁気を失う性質があるため、パーマロイは電気通信機器のキーパーツとして使われていた。しかし、高価なニッケルを主成分(78%)とするため、ニッケルを使わない新素材が待望され、各国が開発競争をする重要な研究課題となっていた。そんな中で発見した合金は、増本により「センダスト」と命名された。

さらに昭和12年には、剛性率の温度係数がほぼゼロの特性を持つ画期的な鉄とコバルトとクロムの合金を発見し、コエリンバーと命名した。

これら増本による数々の画期的な新材料は、精密機器の性能を飛躍的に向上させ、また世界最高品質を誇るスイス製腕時計を日本が凌駕する大きな要因ともなった。

増本の業績としては、新KS鋼の発明も挙げられる。大正5年(1916)本多光太郎はタングステン磁石鋼の3倍以上の保磁力をもつ世界最強の永久磁石鋼「KS鋼」を開発。残留磁気は11000ガウス、抗磁力は250エルステッド。ところが、昭和6年に東京帝国大学工学部冶金学教室の三島徳七が開発した「MK鋼」は、残留磁気は同程度ながら、抗磁力が3倍の700エルステッドを有した。これを受けて、金属研究の世界的メッカとして自他共に認める東北帝国大学金属材料研究所では、急遽本多らがふたたび世界最強の新磁石鋼をもとめて研究を再開。昭和8年、残留磁気はMK鋼と同程度だが抗磁力は930エルステッドを示す「新KS鋼」を開発。特許明細書には、発明者として本多光太郎ひとりが記されたが、これは、実際には研究の中心であった増本が、金研の代表者である本多所長の名を載せることで譲らなかったのだという。

■上山明博『ニッポン天才伝 知られざる発明・発見の父たち』朝日新聞社(朝日選書829)、2007年





お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう

最終更新日  2011.09.27 23:29:41
コメント(0) | コメントを書く
[仙台] カテゴリの最新記事


PR

フリーページ

バックナンバー

日記/記事の投稿

カテゴリ

コメント新着

おだずまジャーナル@ Re:仙台「6時ジャスコ前」の今むかし(11/14) 仙台フォーラスは来月3月から長期休業。再…
クルック@ Re:黒石寺蘇民祭を考える(02/18) ん~とても担い手不足には見えませんけどネ…
おだずまジャーナル@ Re:小僧街道踏切(大崎市岩出山)(12/11) 1月15日のOH!バンデスで、不動水神社の小…

お気に入りブログ

【東京六大学2024春… ささやん0583さん

知事の気概(?) お太助さん

【望子成龍】-Wang Z… sendai1997さん
おいしいブログページ dnssさん
地方暮らしが変える1… かじけいこさん

プロフィール

おだずまジャーナル

おだずまジャーナル

サイド自由欄

071001ずっぱり特派員証

画像をクリックして下さい(ずっぱり岩手にリンク!)。

© Rakuten Group, Inc.