32 神に向かって
【解説】
詩編22は、キリストが十字架上で叫んだことばです(マタイ27:46他参照)。前半(1-22)は神に苦難を訴え(176「わたしの神」ホームページ「受難の主日」参照参照)ます。ここで、歌われる後半は、救いを体験した作者が、神の民の中で神に感謝することを誓います。
答唱句は、冒頭、旋律が「神に向かって」で和音構成音、「喜び歌い」が音階の順次進行で上行して、最高音C(ド)に至り、神に向かって喜び歌うこころを盛り上げます。また、テノールも「神に向かって」が、和音構成音でやはり、最高音C(ド)にまで上がり、中間音でも、ことばを支えています。前半の最後は、6度の和音で終止して、後半へと続く緊張感も保たれています。
後半は、前半とは反対に旋律は下降し、感謝の歌をささげるわたしたちの謙虚な姿勢を表しています。「感謝の」では短い間(八分音符ごと)に転調し、特に、「感謝」では、いったん、ドッペルドミナント(5度の5度)=fis(ファ♯)から属調のG-Durへと転調して、このことばを強調しています。後半の、バスの反行を含めた、音階の順次進行と、その後の、G(ソ)のオクターヴの跳躍は、後半の呼びかけを深めています。
詩編唱は属音G(ソ)から始まり、同じ音で終わります。2小節目に4度の跳躍がある以外、音階進行で歌われますから、歌いやすさも考慮されています。また、4小節目の最後の和音は、答唱句の和音と同じ主和音で、旋律(ソプラノ)とバスが、いずれも3度下降して、答唱句へと続いています。
【祈りの注意】
答唱句は、先にも書いたように、前半、最高音のC(ド)に旋律が高まります。こころから「神に向かって喜び歌う」ように、気持ちを盛り上げ、この最高音C(ド)に向かってcresc.してゆきますが、決して乱暴にならないようにしましょう。また、ここでいったん6度での終止となりますし、文脈上も句点「、」があるので、少しrit.しましょう。ただし、最後と比べてやり過ぎないように。後半は、テンポを戻し、「うたを」くらいから、徐々にrit.をはじめ、落ち着いて終わるようにします。
答唱句、全体の気持ちとしては、全世界の人々に、このことばを、呼びかけるようにしたいところです。とは言え、がさつな呼びかけではなく、こころの底から静かに穏やかに、砂漠の風紋が少しづつ動くような呼びかけになればすばらしいと思います。
今日の詩編は、先に読まれる「使徒たちの宣教」に応えます。サウロ(のちのパウロ)やバルナバたちの宣教により、福音はギリシャやローマ世界にまで広まり、現在では、「遠く地の果てまで、すべてのものが神にたち帰り」、神のいのちに「生きる喜びでいつも満たされ」ています。わたしたちは、わたしたちも受けたこの神の「わざを次の世代に語り継ぎ、後から生まれてくる民に、その救いを告げ知らせる」のです。
詩編を歌う方は、この、福音を告げ知らせずにはいられなかった、使徒たちの活き活きとした喜びを、詩編で黙想することができるように、自らも、この喜びにこころを躍らせてください。答唱句を歌うわたしたちは、福音がわたしたちのところにまで伝えられたこと、また、わたしたちがそれを語り伝えることができること、これらの恵みを神に感謝して歌いたいものです。
<b>《この答唱詩編のCD》</b>
「典礼聖歌アンサンブル」『復活節の聖歌』
【参考文献】
『詩編』(フランシスコ会聖書研究所訳注 サンパウロ 1968)