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映像四郎の百人斬り

映像四郎の百人斬り

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November 11, 2007
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あたしのお尻の穴から、

魚が出はじめて、数ヶ月が経つ。

都心の大学に進学した、

あたしのアパートは、

ターミナル駅から電車で10分の、

都会でもなく、田舎でもない、

変哲のない住宅地にあった。

今時、めずらしい非水洗便所。

だけど、汲み取りっていうわけじゃない。

風呂なし、便所付き、4畳半の古びた部屋の、

小さな玄関の脇についた落下式便所。

小や大にかかわらず、排出された便は、

下水溝へと直に落ちていく。

地下の河の真上に板を渡して、

用事を済ませている感じだ。

こんな怖ろしい部屋に、

棲むことを決めたのは、

もちろん家賃が安かったからだ。

交通の便が悪いわけでもなく、

一ヶ月、8千円は、今時ない。

最初のうちは、

便所なんて、近くのコンビニや、

大学で済ませてしまえばいいやと、

高をくくっていた。

だけど、この世でもっともなくてはならいもの、

それは、便所だった。

ご飯は、どんなに、お腹が空いても、

なければないで、数時間から数日、

餓死しないかぎりは、我慢というか、

なしでも致し方ない状況を受け入れ可能になる。

それに比べて、おなかに抱えた爆弾は、

一刻の猶予もない。

ある日、大学での飲み会から帰ると、

突如、訪れた便意に、あたしは負けてしまった。

便所の穴から、ざざざと、地下河川の流れる音に、

気をとられることもなく、瞬時に、あたしは、

発射していた。

ぴちゃん。

あたしの便が、河の濁流に呑まれる。

ばしゃばしゃ。

あたしの背筋が凍る。

地下河川で何かが跳ねている。

水飛沫を上げて、

エサの替わりに、

あたしの便を食べている。

暗闇の底に目を凝らすと、

遥か彼方に、水面が光を反射している。

便所の裸電球が映りこんでいるのかしれない。

きっと、魚が食べてるんだ。

しかも、群れで。

お尻の穴に、冷たい風が吹き抜けたようで、

めまいがし、あたしは、すぐに出て、

布団をかぶって寝た。

早く、あの部屋を出よう。

あたしは、大学の講義中も、

気がそぞろで、バイトのことを考えた。

あたしの家は、サルが棲息する北限の地で、

小さな寺を営んでおり、

卒業したら、親の決めた許婚と、

跡を継ぐことになっている。

その人もまだ学生で、あたしと同い年だ。

西の方で、本場の伝統を学んでくるらしい。

だけど、あたしは、そんな古臭いものと、

ガチで取り組む気は、毛頭ないので、

宗教政治学という、

ぽっと出の学問を学んでいた。

正直、つまらない。

反吐が出る。

何かと、挿入される写真たちに、

ハゲのオヤジが多いことが気が障る。

そもそも、あたしは、ハゲが嫌いなのだ。

そのハゲが、自然発生であろうと、人工であろうと、

テカテカした余分な皮膚を、必要以上に人前に晒すのは、

パンツが見えそうなミニスカートをはくくらい、

ふしだらなことだと思う。

家の職業柄、ハゲに囲まれることが多かった、

あたしは、中学生のときに、拒食症になり、

リストカッターになったのだが、

裏山で、野生サルに噛まれて、病院に入院し、

ワクチンを打たれてからは、ハゲを見ても、

大丈夫になった。

だけど、ハゲが嫌いなことには変わりがない。

だから、教授陣に、自然ハゲや、人工ハゲの多い、

あたしの大学が、あたしは、大嫌いだった。

そんな、あたしの取り得は、

目の前に、与えられたことを、まずはこなす、

真面目な性格だけだったので、

あたしは、あたしから、未だに逃げられず、

ハゲの棲息圏内から、逃げ出すことができない。

そして、幼馴染の許婚も、職業上の理由から、

若いうちから、制度的に、人工ハゲを強制されるのだろう。

講義が終わり、街を歩いていると、

街角の壁面に設置された巨大スクリーンで、

ボクシングが中継されていた。

信号が赤なので、何気なく目をやっていたら、

世界ヘビー級チャンピオンと、

イスラム原理主義者の少年が、

異種格闘技戦を行っていた。

テレビを部屋に置いていないあたしは、

ここまで、世界が狂っていることを初めて知らされた。

順番に名前をコールされて、

ゴングが鳴る。

分厚い筋肉に包まれた黒人チャンピオンの目には、

不気味な微笑が浮かんでいる。

対する少年は、全身を布で覆われ、目だけが露出している。

微動だにしない真剣な視線が、何かを思いつめているようだ。

これでは、大人と子供の闘いじゃないか。

何なんなのよ、このエキジビションは。

不穏なカードに、世の注目も集まっていたらしく、

信号が青に変わっても、横断歩道を渡らずに、

街頭TVを眺めている歩行者も多い。

黒人チャンピオンが、シャドーボクシングのように、

少年の頭上で、拳を振っている。

表情は、ニヤついていた。

イスラム少年が、チャンピオンの腰に、

転んだように、抱きつくと、二人は爆発した。

リング上は、爆音と白煙に混じった赤い色に包まれ、

肉片が、飛散していた。

大混乱が伝わってくる。

画像をのいずが走る。

頭の中に空白できて、

周りでどよめく群集を掻き分けて、

あたしは、駅に向かった。

その日は、何の食欲もなかったけど、

夜中にお腹が空いて、買出しに出るのも面倒なので、

家の近くのラーメン屋で、餃子定食を食べた。

その夜からだ。

あたしのお尻から、

魚が出はじめたのは。

便器をまたいで、お尻の異変に気づく。

お尻を覗き込むと、サバが銀色の顔を出して、

元気に跳ねている。

目は、きれいな黒で、表情は読み取れない。

力むと、つるりと滑って、銀色の魚は、

地下河川へと落ちて行った。

講義をズル休みして、

バイトの面接を受けてきた帰り道、

いつもの商店街が露天で賑わっている。

駅の南側に面した台形の区画は、

飲み屋をはじめとする飲食店が軒を連ね、

普段も、人通りは少ないわけでもないが、

多いわけでもなかった。

それなのに、どこから人が湧いてきたのか、

首を傾げたくなるくらいの人込みなのだ。

店の前にも所狭しと、永遠に続くかと思われる、

屋台群が、小路に沿って縦横無尽にひしめきあう。

あたしは、鯛焼きと大判焼きをかじりながら、

夜店を眺めて廻った。

途中、生ビールも購入して、

プラスティック容器から、

ガブ飲みしながらの女のひとり歩きになった。

雨が降ってきた。

しかし、人の流れは、絶えず、

ビルの軒下で、雨宿りをはじめるカップルや、

家族連れ、高校生から小学生、

ジャンパー姿の地元のおじさん、

種々雑多な、この国の人たちが、

ジョーロで、蟻の巣を洪水にした時みたいに、

うごめいている。

空はすでに闇で、水滴を通して、

屋台たちのオレンジ色の光が、

乱反射しながら、浮き上がっている。

この祭りの中心となっているらしい、

小さな神社の脇の小道を歩いていくと、

そこだけ、人だかりのない、

トタン板でできた屋台があった。

薄汚いがアジアンなムードも漂う、

あやしい店構えが、頭上にも続く、

小さな立体神社の、赤い鳥居の乱立と、

絶妙な匙加減で混じりあい、心惹かれて、

扉をくぐって、中を覗いてみた。

『腑祓い』と毛筆で書かれた、

古びた板が置いてあり、

その下に貼られた白い紙切れに、

「1回500円」と殴り書きされている。

奥には、ひしゃげた顔の、しかし、上品な感じのする、

インド的衣装に身を包んだおばさんが座っている。

あたしが、その立て札をまじまじと眺めていると、

小さい紙切れに書かれた説明書きを見せてくれた。

「腑についた不を祓うおまじない」

どうやら、この土地に昔から伝わる民間伝承らしい。

しかし、大学の講義ではそんなこと聞いたこともない。

あたしの実家の寺でも、

仏教のくせに、

あやしい土俗信仰が混入し、

昔から伝わるトランス系の巫女のような人たちを、

お祭りのときは、バイトで雇っていた。

あたしは、そういう精神の隙間のようなものが、

あまり好きでなく、なるべく、

膜を張るようにしていたのだが、

なんといったて、最近、あたしは、お尻から、

魚を出しているのだ。

何か土地の磁場と、

あたしの磁場が不釣合いなことになって、

魚を産んでいるのかもしれない。

禅寺の娘が、ずいぶんと弱気になったものだ。

銀色の魚が、肛門から顔を出して、

ぴちぴちと跳ねる感触を思い出して、

息が止まり、あたしは、

おばさんに一回、お願いしてみることにした。

500円玉を、おばさんに渡すと、

あたしは、狭い屋台の裏にある小さな扉から、

木造アパートの一室に通された。

おばさんが先導してくれた部屋の中は祠のように、

岩が伝える冷気が満ちている。

エアコンで冷やしているのだろう。

自家製の祠を取り囲むようにロウソクが置いてあり、

窓のあるべき場所に、観音扉の祭壇があった。

おばさんが、その扉をあけると、

灰色の粘土のような壁が盛り上がっている。

おばさんが、頭を下げて、手を合わせながら、

あたしには聞き取れない言葉で、

何やら、ブツブツと呟き、

あたしに、その壁を触るように促した。

得たいの知れない壁。

埃で手が汚れたりしなだろうかと、

心配しながら、おそるおそる手で触れてみた。

ひんやりと冷たいのだが、

その奥には、体温が潜んでいると感じられる。

微かに鼓動が伝わってくる気がする。

気持ち悪くて、反射的に手を離そうとしたのに、

焼けた鉄に肉が張り付いてしまったかのように、

手が離れない。

指の先から、別の視覚が流入してくる。

ここよりも小さな、古ぼけた木造アパートの一室。

あたしの部屋に、似てるが違う。

蛇のような肉製の棒が、あたしの前方に伸びると、

その棒が水を汲んだガラスコップを顔の前に持ってきて、

ゴクゴクと飲み干した。

あたしは見逃さなかった。

ガラスコップには、象の顔が映っていた。





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Last updated  November 11, 2007 11:09:15 PM


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