テーマ:BAR大好き!!(735)
カテゴリ:BAR
ミナト神戸にはおしゃれなBARは多いが、老舗BARというのは、今では数えるほどになってしまった。あのバブル景気に起因する地上げが、そして阪神・淡路大震災による打撃が、老舗の永続を阻んだ。
残っているのは、思いつくまま挙げてもSAVOY、YANAGASE、Abuはち、アカデミー、でっさん、バンブー、SMOKEYくらいだろうか…。そして、その数少ない老舗BARの中でも、僕がいつも一番居心地がいいと感じているのが、北野にあるYANAGASEだ(写真左上=YANAGASEの玄関へのアプローチ)。 三宮の駅を降りて、北野坂を登る。山手幹線を越えてすぐ北東への、なだらかな登り坂に入る。そして5、6分歩くと、左手にツタのからまる一軒家が見えてくる。そこが「YANAGASE」。BARの玄関にたどりつくには、さらに階段を少し上がる。このアプローチが神戸らしくて、僕はとても好きだ。 1966年の開業。本来のオーナーは、店の名の通り柳ケ瀬さんという方だった。柳ケ瀬さんは77年に亡くなり、以来、義弟に当たるNさんがカウンターを守っている。 Nさんは元はサラリーマンだったが、店の開業時にたまたま大阪へ単身赴任していて、義兄に店を手伝うように頼まれた。それが縁で店に関わり続け、結局店を受け継ぐことになった(右下は、成田一徹氏の切り絵で描かれたNさん=「酒場の絵本」より。 (C )成田一徹)。 Nさんの住まいは今も東京。孫もいて、月に1、2度は帰京するというが、単身赴任はもはや42年目。「僕は、おそらく日本で一番長く単身赴任している男です」と笑う。 開業からまだ40年足らずのBARだけれど、YANAGASEの店内に一歩入ると、調度からは、まるで明治や大正から続くBARのような落ち着きや重みが感じられる。 何よりも僕がYANAGASEの魅力だと思うのは、店の奥にある暖炉だ。決して飾りではなく、冬場には本当に薪(まき)を燃やし、店内を暖かく包んでくれる(写真左下)。暖炉のあるBAR。そう聞いただけでも、とてもロマンチックな気分になれる。 阪神大震災では、1カ月間の休業を余儀なくさせられた。店内のボトルはほとんどが割れたが、幸い、店は地盤のしっかりした山手に建っていたため、倒壊は免れた。 店が再開すると、すぐに常連客が駆けつけ、口々に「ありがとう。こんな大変な時やからこそ、ほっとできる場所、ほしかったんや」とNさんに感謝の言葉を伝えたという。どんな災害や不幸にあっても、どんなに落ち込んでも、人間には一息入れられる場所が必要なのだ。 いま、僕のもっぱらの心配は、Nさんが2年ほど前、病気をされ、店を少し休まれたことだ。今年72歳。もう、そう無理が利く歳でもない。Nさんがいなくなったら、YANAGASEはどうなるのだろうと、つい心配してしまう。 オーナーがいなくなると店を閉じるBARが最近は多い。でも僕は、大震災をも乗り越えたYANAGASEだけは、神戸という街があり続ける限り、ずっーと残っていってほしいと願っている。 【Yanagase】神戸市中央区山本通1-1-2 電話078-291-0715 午後5時半~午前零時 無休 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
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