公開中の映画「ゼロの焦点」を見てきました。「ゼロの焦点」のは、言うまでもなく、松本清張のベストセラーにもなった長編推理小説を映画化したものです(過去何度も映画やテレビドラマにもなっています)。
簡単にあらすじを紹介しておくと--。時代は昭和33年。東京に暮らす26歳の板根禎子(広末涼子)は26歳。金沢の広告代理店に勤める鵜原憲一(西島秀俊)と見合い結婚した。信州での新婚旅行を終えた10日後、憲一は、仕事の引継ぎをしてくると言って夜行列車で金沢へ旅立つ。しかし、予定を過ぎても憲一は帰京しない。
しばらくして禎子の元に届いたのは、憲一が北陸で行方不明になったという、勤務先からの知らせだった。禎子は急いで金沢へ向かう。憲一の後任者の男性らの協力を得ながら憲一の行方を追うが、その過程で、夫の隠された過去や金沢での暮らしぶりを知ることになる(これ以降はネタばれになるので、映画館でどうぞ)。
僕は自分で言うのもなんですが、松本清張の大ファン。中学生の頃から、彼の読み始め、彼の作品の7~8割くらいは読んでいると思います。当然、この「ゼロの焦点」も読んだはずなのですが、ずいぶん前なので、映画を観る前はどういう結末だったのかは忘れていました(映画を観るためにはそれがかえって良かったかもしれません(笑))。
見終わってとりあえずの感想としては、いくつかあります。
1.映画の出来としては及第点でしょう。映像美も素晴らしい。古い金沢の街がとてもよく再現されていました(主に韓国の映画撮影所のオープン・セットを使って再現したそうですが…)。 2.ただし、米軍占領下の日本とその頃日本人女性が置かれていた状況や、親だけで結婚相手を決めてしまうなどの時代背景について、今の若い世代がどこまで理解できるかどうか(戦後復興のために必死で努力していた日本人の姿が、随所に描かれているのはとても良かったですが…)。 3.主役の広末は、共演の中谷美紀に完全に食われていたなぁ…--の3点です。
僕はとくに、古い時代の面影をまだよく残していた昭和50年代前半、金沢に住んだことがあったので、(昔の金沢駅など)よく目にした情景や耳にした地名がたくさん出てきて、とても懐かしい気持ちになりました。オープン・セットでは雪の金沢の街で、昔の市電まで走らせていましたが、ここまで時代考証にカネをかければいい映画も撮れるという証でしょう。
清張がこの作品で最も訴えたかったのは、おそらく「敗戦後の日本で、時代に翻弄された女性たちの悲しい運命」だったと思います。米軍占領下で、主権を奪われていた日本では、生きるために、貧困から脱するために男性も苦労しましたが、女性はより過酷だったことを忘れてはなりません。そうした歴史的、社会的背景を頭の片隅に置きながら、この映画を観ればより充実感が味わえると思います。
映画では、様々な事件を縦軸にしながら、横軸として(原作にはなかった)金沢市長選挙への女性の選挙運動(立候補から当選まで)が女性の自立、社会参加の象徴として描かれていますが、現実の金沢市政では女性市長は今なお誕生していません。監督の真意は分かりませんが、女性の地位向上・自立を選挙という舞台で描きたかったのかもしれません。
【おすすめ度】★4つ半(★5つで満点)
【追記】091223 映画を観た後、原作をもう一度読み直しました。原作と比較して映画は、骨格はあまり変えてはいないのですが、いくつかの部分で原作とは違います。上記で書いたように、金沢市長選への女性候補の出馬のエピソードはありませんし、さまざまな事件の殺害場所、殺害方法も若干違います。登場人物の中でも、映画では死ぬのに、原作では死なない人もいます。でもまぁ、映画の脚本・演出としては許容の範囲内かなと思います。
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Last updated
2021/06/13 08:33:18 AM
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