先日、社内の後輩から「ハイ・ボールって、なんでハイ・ボールって言うんですか?」と質問された。うらんかんろ自身、何度か本では読んである程度知ってはいるが、いい加減な返答をするのも嫌なので、「ごめん、正確に答えたいから、また改めて返答するよ」と少し時間をもらった。
そして、この歳になって(笑)、改めて「ハイ・ボール」の語源・由来を調べてみた。その結果は以下の通り(様々なガイドブックや酒造メーカーのHP等を参考にさせて頂いた。この場を借りて厚く御礼申し上げる)。
まず、一番有名なのはアメリカの鉄道の信号機起源説。19世紀初め、開拓時代のアメリカ南部の鉄道では、長い棒の先にボールをつけた「ボール信号機」が使われていた。ボールが上がっていれば「進行(go)」、上がっていなければ「停止(don't go)」という訳。「進行(go)」状態は従って、「ハイ・ボール」と呼ばれていた。
当時、セントルイスの駅の信号係に、ウイスキーのソーダ割りが大好きな人がいて、列車に出発進行の合図を送るたびに、「ハイ・ボール!」と叫んでいた。そこでその飲み物も「ハイ・ボール」と呼ばれるようになったとか。「ボール信号がハイの状態」(=出発進行)は、このソーダ割りのように「早く飲み干し、すぐ出掛けられる」飲み物にぴったりのイメージだったのかもしれない。
この信号機説にはバリエーションもある。信号機は列車だけでなく工事労働者への休憩の合図にも使われていた。労働者たちは休憩時間に好んでウイスキーのソーダ割りを飲んでいた。そこで、その飲み物も当然、信号機の呼び名から「ハイ・ボール」と呼ばれるようになって、さらに定着していったという。
次に、本などでよく紹介されているのが、英国のゴルフ場起源説。ある時、ゴルフ場のクラブハウスでウイスキーのソーダ割りを飲んでいた英国紳士が「これは何という飲み物か?」とマスターに聞いた。
するとちょうどその時、打ち損じのゴルフ・ボールがクラブハウス飛び込んで来て、思わずマスターが 「High ball!!」(高い球) と叫んだのが、由来となってしまったという説。
他にも、炭酸の泡(玉=ボール)が上に揚がっていく様から、ハイ・ボールと呼んだという説や、「高めの直球(HIGH BALL)」は、打ちごろ(=飲みごろで、美味しい)の絶好球という説、「気分がHIGHになる弾丸(BALL)」という説、「丈の高い(HIGH)容器(BOWL)」にウイスキーを注いだ飲みものだからという説など様々な説があるが、米国のバーテンダー養成学校では、「ボール信号機」が語源と教えているという。
なお今日、「ハイ・ボール」と言えば、一般的にはウイスキー&ソーダを意味することが多いが、昔はそうではなかった。例えば、有名な「サヴォイ・カクテルブック」(1930年刊)では、ハイ・ボールについて、「ミディアムサイズのグラスを使い、角氷1個、好みの蒸留酒、リキュールまたはワインをソーダ水で割る。ジンジャー・エールを使ってもよい」と紹介されている。
欧米では、トニック・ウォーター割りもハイ・ボール、水割りはウォーター・ハイボールとも呼んでいた。アメリカで出版された古いカクテルブックでは、ジン・トニックもハイ・ボールとして紹介されている。1930年代頃からは、ウイスキーにレモンやグレナデンシロップ、ビターを加えることが流行し、ソーダだけではなく、ジンジャー・エールやコーラなどに代えたハイ・ボールも飲まれていたという。
日本でもこうした欧米での流れを受けて、昔はウイスキー&ソーダ以外でもハイ・ボールと呼んでいた。サントリーの前身、壽屋時代(1962年以前)の昭和30年代の販促資料を見ると、ベースの酒はウイスキーを指定しているが、「ハイ・ボールはウイスキーをソーダまたは水で割ったもの」とあり、水割りでもハイ・ボールと呼んでいたようだ。
また、うらんかんろが持っている参考文献の中で一番古い「洋酒――ストレートからコクテエルまで」(1957年、佐藤紅霞著、ダヴィッド社刊)では、「ハイ・ボール」について、「普通、ジン、ウイスキー、ラム、ベルモット、シェリー、デュボーネ等を適量のソーダ水で割ったものを言う」と記されている。
ウイスキー&ソーダが「ハイ・ボール」と呼ばれるようになったのは、僕自身の記憶でも、おそらくは1970年代以降のことだと考えている。サントリーも昭和40年以降の広告では、「ウイスキーをソーダで割った『ハイ・ボール』という飲み方がおすすめ」としてPRしている。
ともあれ、今日の日本では「ハイ・ボール=ウイスキー&ソーダ」が定着し、欧米では今日でもウイスキー&ソーダ以外もハイ・ボールと呼んでいるが、ともに、多くの洋酒愛好家に愛されていることには変わりはない。
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Profile
うらんかんろ
大阪・北新地のオーセンティック・バー「Bar UK」の公式HPです。お酒&カクテル、Bar、そして洋楽(JazzやRock)とピアノ演奏が大好きなマスターのBlogも兼ねて、様々な情報を発信しています。
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▼Bar UKでも愛用のBIRDYのグラスタオル。二度拭き不要でピカピカになる優れものです。値段は少々高めですが、値段に見合う価値有りです(Lサイズもありますが、ご家庭ではこのMサイズが使いやすいでしょう)。▼切り絵作家・成田一徹氏にとって「バー空間」と並び終生のテーマだったのは「故郷・神戸」。これはその集大成と言える本です(続編「新・神戸の残り香」もぜひ!)。▼コロナ禍の家飲みには、Bar UKのハウス・ウイスキーでもあるDewar's White Labelはいかが?ハイボールに最も相性が良いウイスキーですよ。▼ワンランク上の家飲みはいかが? Bar UKのおすすめは、”アイラの女王”ボウモア(Bowmore)です。バランスの良さに定評がある、スモーキーなモルト。ぜひストレートかロックでゆっくりと味わってみてください。クールダウンのチェイサー(水)もお忘れなく…。
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