追補3.ペインキラー(Painkiller)
【現代の標準的なレシピ】 (液量単位はml)ダークラム(30~60)、パイナップル・ジュース(60~120)、オレンジ・ジュース(15)、ココナツ・ミルク(またはココナツ・リキュール)(15)、クラッシュド・アイス、ナツメグ・パウダー(最後に振りかける) 【スタイル】 シェイク
「痛み止め」という変わった名前を持つ「ペインキラー」は近年、とくに2000年以降、世界中で注目を浴びるようになってきたカクテルです。考案されたのは実は1970年代初めで、発祥はカリブ海に浮かぶ英領ヴァージン諸島の一つ、ヨスト・ファン・ダイク(Jost Van Dyke)島と伝わっています。80年代以降、米国経由で欧州にも普及。現在では欧米のバーでは人気ドリンクの一つとなっています。
「ペインキラー」はダークラム・ベースのカクテルですが、「パッサーズ・ネイビーラム(Pusser's Navy Rum)」(末尾【注】 ご参照)という銘柄を使って考案されました(現在でも、パッサーズ・ラムを代表する「シグニチャー・カクテル」なっていますが、もちろんパッサーズ以外の銘柄=ラムを使ってはダメということではありません)。
Wikipedia英語版やパッサーズ・ラム社のHPによれば、ヨスト・ファン・ダイク島ホワイト・ベイにある、「ソギー・ダラー・バー(Soggy Doller Bar)」で働いていたダフィニー・ヘンダーソン(Daphne Henderson)という英国人女性のオーナー・バーテンダーが考案したそうです(※なお、この島には現在でも船着き場がなく、このバーを訪問する客は、浜辺近くで停泊した船から海に入って泳いで行くんだそうです。客がポケットに入れたドル札は「びしょびしょに濡れて<soggy>」しまうのが店名の由来なんだとか)。
ヘンダーソンの「ペインキラー」が美味しいという噂は、周辺の島々にもたちまち伝わります。カクテルの評判は、パッサーズ・ラム社(蒸留所)の経営者、チャールズ・トビアス(Charles Tobias)の耳にも入ります。トビアスは程なく自らダイク島を訪れ、ヘンダーソンに「レシピを教えてほしい」と頼みました。しかし彼女は「レシピは極秘だ」として、どうしても応じません。そこで、トビアスは2年がかりで「調合したペインキラーのサンプル」を入手。試行錯誤の末レシピを解明し、ヘンダーソンの味わいに近い「ペインキラー」を生み出しました。
トビアスは自らがつくった「ペインキラー」のサンプルをこのバーの常連客らに試飲してもらい、評価を求めます。すると、ほとんどの客が「トビアスのペインキラーの方が美味しい」という反応だったそうです。自信を得たトビアスはその後、さらに少しアレンジを加えたうえで、世界中のバーに紹介していきました(出典:パッサーズ・ラム社のHP)。
ヘンダーソンのオリジナル・レシピの詳細は不明ですが、米国の著名なカクテル研究家・デイル・デグロフ氏によれば「全体の半分がラムで、やや平凡な味わいだった」そうです。トビアスは、4つの材料の分量比を変えて、飲みやすい洗練された味わいに仕上げました。
「ペインキラー」は、ココナッツ・ミルクが入っているので、クリーミーな舌触り。オレンジ・ジュースとパイナップル・ジュースの甘味、酸味とのバランスもいい心地良いカクテルです。同じくココナツ・リキュールを使う「ピーニャ・コラーダ」(ホワイト・ラムがベース)という有名なカクテルにも似ていますが、ダーク・ラムがベースなので意外と濃厚で、しっかりした味わいです。
「ペインキラー」の世界的な普及には、ドイツ・ミュンヘンにある「パッサーズ・ニューヨークバー(Pusser's New York Bar)」=1974年創業=が貢献したことで有名です(今も同店の看板カクテルになっていて、年間5万杯の注文があり、月平均ボトル約250本のパッサーズ・ラムが消費されるそうです)。
同店の「ペインキラー」はNo.2からNo.4まで3種類あり、No.2はラムを40ml、No.3は60ml、No.4は80ml入れるそうです(他にも、”裏メニュー”で「No.1」というノンアルコールもあるとか)。レシピは、例えば「No.3」の場合、「パッサーズラム60ml、パイナップル・ジュース120ml、オレンジ・ジュース30ml、ココナッツ・クリーム30ml、ナツメグ・パウダー(シェイク)」です。
ちなみに「パッサーズ・ニューヨーク・バー」は、世界的に有名なバーテンダー、チャールズ・シューマン(Charles Schumann)氏出身のバーとして知られており、現在店長としてバーを仕切っているのは、日本人バーテンダーの那須孝光氏です。
「ペインキラー」は、現在はとても知名度のあるカクテルで、欧米のWEBのカクテル専門サイトでよく紹介されていますが、意外なことに、カクテルブックで収録している例はなぜかあまり見かけません。現時点で確認できたのは、以下の欧米の3冊だけです。
・「New York Bartender's Guide」(Sally Ann Berg著、1995年刊)
ダークラム90ml、パイナップル・ジュース30ml、オレンジ・ジュース30ml、ココナツ・クリーム15ml、ナツメグ・パウダー少々、マラスキーノ・チェリー(飾り)、氷(シェイク)
・「Complete World Bartender Guide」(Bob Sennett編、2007年刊)
ダークラム60ml、パイナップル・ジュース120ml、オレンジ・ジュース30ml、ココナツ・クリーム15ml、氷(シェイク)
・「Essential Cocktail:The Art of Mixing Perfect Drinks」(Dale Degroff著、2008年刊)
ダークラム60ml、パイナップル・ジュース60ml、オレンジ・ジュース30ml、ココナツ・クリーム30ml、氷、ナツメグ・パウダー(シェイク)
「ペインキラー」は90年代には日本に伝わったと思われますが、バーでその名が知られるようになったのは2010年以降です。最近は、日本にたびたび帰国しペインキラーのPR・普及に尽力されている那須氏の努力もあって、日本国内のバーでもかなり認知度が上がってきました。
【確認できる日本初出資料】 現時点ではまだ確認できていません(掲載例をご存知の方は、arkwez@gmail.comまでご教示頂ければ幸いです)。
【注】パッサーズ・ネイビーラム :英領ヴァージン諸島に本社があり、17世紀半ばから英国海軍御用達だったダークラムとして知られる。蒸留所はトリニダードトバゴとガイアナにあり、木製ポットスティルで蒸留された後、最低3年以上樽熟成されます。以前は海軍専用の非売品でしたが、現在は一般にも販売されており、日本にも輸入されています。
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Last updated
2021/06/13 09:16:09 AM
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うらんかんろ
大阪・北新地のオーセンティック・バー「Bar UK」の公式HPです。お酒&カクテル、Bar、そして洋楽(JazzやRock)とピアノ演奏が大好きなマスターのBlogも兼ねて、様々な情報を発信しています。
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▼Bar UKでも愛用のBIRDYのグラスタオル。二度拭き不要でピカピカになる優れものです。値段は少々高めですが、値段に見合う価値有りです(Lサイズもありますが、ご家庭ではこのMサイズが使いやすいでしょう)。 ▼切り絵作家・成田一徹氏にとって「バー空間」と並び終生のテーマだったのは「故郷・神戸」。これはその集大成と言える本です(続編「新・神戸の残り香」もぜひ!)。▼コロナ禍の家飲みには、Bar UKのハウス・ウイスキーでもあるDewar's White Labelはいかが?ハイボールに最も相性が良いウイスキーですよ。▼ワンランク上の家飲みはいかが? Bar UKのおすすめは、”アイラの女王”ボウモア(Bowmore)です。バランスの良さに定評がある、スモーキーなモルト。ぜひストレートかロックでゆっくりと味わってみてください。クールダウンのチェイサー(水)もお忘れなく…。