4975486 ランダム
 HOME | DIARY | PROFILE 【フォローする】 【ログイン】

Bar UK Official HP & Blog(酒とPianoとエトセトラ)since 2004.11.

Bar UK Official HP & Blog(酒とPianoとエトセトラ)since 2004.11.

【毎日開催】
15記事にいいね!で1ポイント
10秒滞在
いいね! --/--
おめでとうございます!
ミッションを達成しました。
※「ポイントを獲得する」ボタンを押すと広告が表示されます。
x
2023/05/02
XML
WEBマガジン「リカル(LIQUL)」連載
   【カクテル・ヒストリア第25回】
   「ミスター・マンハッタン」とは誰か?

 ◆あの「マンハッタン」とは何の縁も…
 「ミスター・マンハッタン(Mr. Manhattan)」(写真下)とは、1920年代半ば~後半に誕生したクラシック・カクテル。サヴォイホテルのチーフ・バーテンダーだったハリー・クラドック(Harry Craddock 1876~1963)が1930年に出版した、かの有名な『サヴォイ・カクテルブック(The Savoy Cocktail Book)』で初めて活字として紹介されている。有名なカクテル「マンハッタン」と何か関係あるのかと思ってしまうが、実は何の縁もない。

 ジンをベースに、オレンジ・ジュース、レモン・ジュース、シュガー・シロップ、生ミントの葉を一緒にシェイクした爽やかな飲物。レシピはシンプル。味わいは、柑橘系ジュースと生ミントのコラボが絶妙で、甘さと酸味のバランスも抜群なカクテルである。
 しかし残念ながら、日本での知名度はそう高くなく、バーの現場で注文されることも少ない。ベテランのバーテンダーの方でも、その存在やレシピを知らないという人に時々出会う。

 「ミスター・マンハッタン」誕生の経緯や名前の由来については、これまでまったく謎だった。クラドック自身も自著では一切何も触れていない。マンハッタンという名前が付いているので、米国ニューヨークで誕生したカクテルと思う人も多かった。しかし、2013年に出版された『The DEANS Of DRINK』(Anistatia Miller & Jared Brown共著 ※ハリー・ジョンソン、ハリー・クラドックというカクテル界の2人の巨人の伝記)=写真右下=が貴重な手掛かりを示してくれた。

 ◆クラドックのオリジナルであることが濃厚に
 同著によれば、このカクテルの考案者は間違いなく、クラドック自身であり、彼が働いていたロンドンのサヴォイホテル「アメリカン・バー」の顧客の一人、米国人のコラムニスト、カール・キッチン(Karl Kitchen)のために考案したのだという。

 そのことを裏付けるエピソードや、「ミスター・マンハッタン」というカクテル名は、ニューヨークのマンハッタンのバーで長く脚光を浴びてきたクラドックに、キッチンが付けた「あだ名」であったことを、キッチンの米国での新聞連載コラムから発掘し、紹介している。

 キッチンは連載コラムでこう綴っている。「昨日、(アメリカン・バーで)ハリーに、私のためのオリジナル・カクテルをつくってほしいと頼んだ。そしてきょう、彼は3種類の『ミスター・マンハッタン』をつくってくれた。米国でも簡単に手に入る材料でつくられているのがとてもいい。新しもの好きな米国の人たちにも、このレシピをぜひ教えてあげたい」。

 キッチンのコラムを通じて「ミスター・マンハッタン」が、米国の”もぐり酒場”(米国は禁酒法時代の最中)でどの程度広まったのかは分からない。しかし、ジンさえ手に入れば、後は一般家庭でも入手可能な材料で、簡単につくれるレシピなので(禁酒法時代でも家庭内の飲酒は合法だった)、案外隠れた人気を得ていたのかもしれない。

 ちなみに、クラドックがつくった3種類の「ミスター・マンハッタン」には、ジン・ベースのほか、「密造(Hooch)ウイスキー3分の2、スイート・ベルモット3分の1、ラズベリー・シロップまたはグレナディン・シロップ、角砂糖」と「スコッチ・ウイスキー4分の3、グレープ・ジュース4分の1、グレナディン・シロップ4dash」だったが、自著のカクテルブックには、No.1のジン・ベースのものだけを収録した(写真左=サヴォイ・ホテル時代のハリー・クラドッ<Harry Craddock>>)。

 ◆欧米でも長年忘れられたような存在
 クラドックは英国生まれだが、1897年に22歳で米国へ渡り、1920年に禁酒法が施行されるまでは、ニューヨークなど米国内の大都市でバーテンダーとして働いた。しかし、禁酒法で仕事の場を奪われ、やむなく英国へ戻る。そして翌年、ロンドン・サヴォイホテルのバーで職を得て、25年にはチーフに昇格した。

 不思議なことに、1930~50年代の欧米のカクテルブックで「ミスター・マンハッタン」を取り上げている本は3割もない(顧客との個人的関係もあって、クラドックが積極的に普及しようとしなかったのか?)。「ミスター・マンハッタン」はその後、忘れ去られたような存在になり、欧米でも1960年代以降、近年に至るまでカクテルブックに登場することは、数えるほどだった。

 日本でも1950年代のカクテルブックで初めて紹介されたが、80年代末までは、生のミントはコストがかかり過ぎることもあって、国内のオーセンティック・バーではなかなか普及しなかった。しかしそんな状況の中、思わぬところから、このカクテルが陽の目を見ることになる。

 2003年春から全日空(ANA)の機内誌「翼の王国」で連載されていたオキ・シロー氏のカクテル・ショートストーリーで、この「ミスター・マンハッタン」が取り上げられた(2004年1月号誌上)。そのストーリーと言えばーー。 

 「マンハッタンのバーのカウンターで、一人寂しく飲む男。ある時、カウンターで隣に座った女性をナンパしようと、ミスター・マンハッタンを1杯、ご馳走する。しかし、その女性はカクテルを飲み干すと、男の誘いを無視して一人店を後にした。男の願いは潰れてしまったかに見えたが…」。物語の最後には、絶妙な“オチ”が用意されている。
(※オキ氏のこの連載「ミスター・マンハッタン」=写真右上=は、後に単行本化<写真左>された際に収録された)=末尾【注】ご参照。

 ◆生ミントの普及に伴って再び注目が
 このストーリーとカクテルのレシピが、口コミで日本のバー業界にも広がり、オーセンティック・バーの現場でブレイクした。そしてその後、海外でも、昨今のクラシック・カクテル再評価の流れに乗って、再び注目を集めるようになった。

 日本でのブレイクに刺激されたのかどうかは定かではないが、海外のカクテル専門サイトでは、現在、「Cocktail Mr Manhattan」で検索すると、実にたくさんのサイトにヒットする。昨今のトレンドとしては、ただ単純に昔のレシピのままつくるのではなく、現代風にアレンジ(ツイスト)することのも目立つ。例えば(ほぼ同じレシピで)ミントジュレップ風のスタイルで提供するのも人気だとか。

 日本でも90年代以降は、生ミントも使いやすい価格となり、このカクテルの良さを再認識するバーテンダーも次々に現れてきた。そして前述の「翼の王国」の記事がきっかけとなり、国内に広く知られるようになった。今では、おそらくプロのバーテンダーなら約8割は知っているカクテルになっているのではないか。
 レシピはとてもシンプルなのに、甘味と酸味と清涼さのバランスが最高な「ミスター・マンハッタン」。個人的には、もっともっと多くの方に味わって頂きたいと願っている。

【確認できる日本初出資料】「世界コクテール飲物辞典」(佐藤紅霞著、1954年刊)=写真右。
 そのレシピは(原文通り記すと)「少量の水を加えて角砂糖1個を潰し、新鮮な薄荷(はっか)の葉芽4枚をその中で潰し、レモン・ジュース1ダッシ、オレンジ・ジュース4ダッシ、ジン1を加えて振蕩し、コクテールグラスに漉し移す」。この「薄荷」が西洋ミントなのか国産の薄荷なのかが気になるところ。

【注】オキ・シロー氏のショート・ストーリー「ミスター・マンハッタン」は、2008年に出版された同氏の著書「パリの酒 モンマルトル」(ショート・ストーリー集)=扶桑社刊=の中に収録されている。本は絶版になっているが、アマゾンなどで古本で入手可能。


・WEBマガジン「リカル(LIQUL)」上での連載をご覧になりたい方は、こちらへ

・連載「カクテル・ヒストリア」過去分は、こちらへ





お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう

Last updated  2023/05/03 09:50:54 PM
コメント(0) | コメントを書く


PR

Profile

うらんかんろ

うらんかんろ

Comments

汪(ワン)@ Re:Bar UK写真日記(74)/3月16日(金)(03/16) お久しぶりです。 お身体は引き続き大切に…

Free Space

▼Bar UKでも愛用のBIRDYのグラスタオル。二度拭き不要でピカピカになる優れものです。値段は少々高めですが、値段に見合う価値有りです(Lサイズもありますが、ご家庭ではこのMサイズが使いやすいでしょう)。

▼切り絵作家・成田一徹氏にとって「バー空間」と並び終生のテーマだったのは「故郷・神戸」。これはその集大成と言える本です(続編「新・神戸の残り香」もぜひ!)。
[商品価格に関しましては、リンクが作成された時点と現時点で情報が変更されている場合がございます。]

神戸の残り香 [ 成田一徹 ]
価格:1980円(税込、送料無料) (2021/5/29時点)


▼コロナ禍の家飲みには、Bar UKのハウス・ウイスキーでもあるDewar's White Labelはいかが?ハイボールに最も相性が良いウイスキーですよ。

▼ワンランク上の家飲みはいかが? Bar UKのおすすめは、”アイラの女王”ボウモア(Bowmore)です。バランスの良さに定評がある、スモーキーなモルト。ぜひストレートかロックでゆっくりと味わってみてください。クールダウンのチェイサー(水)もお忘れなく…。

Archives

Freepage List

Favorite Blog

「続^2・めばるの煮… New! はなだんなさん

LADY BIRD の こんな… Lady Birdさん
きのこ徒然日誌  … aracashiさん
きんちゃんの部屋へ… きんちゃん1690さん
猫じゃらしの猫まんま 武則天さん
久里風のホームページ 久里風さん
閑話休題 ~今日を… 汪(ワン)さん
BARで描く絵日記 パブデ・ピカソさん
ブログ版 南堀江法… やまうち27さん
イタリアワインと音… yoda3さん

© Rakuten Group, Inc.