かくて<カ>の輪は閉じる…。
中学生の時から読み続けてきたスティーヴン・キングのライフワーク「ダーク・タワー」を読み終わりました。15年あまり付き合ってきたキャラクターの旅路をもう、追い続けることはないんだなあと思うと、非常にさびしい気持ちでいっぱいです。「指輪物語」の時もそうでした。(本当に長い)長編小説を読むことは、友人を作り出す作業のようなものです。想像力を働かせ、人物にありったけの注意をそそぐのです。スティーヴン・キングは、「ダーク・タワー」の最後の3巻を書き上げる前に「小説作法」という本を書いています。文章とは何か。作家の部屋に必要ないものは何か。作品を仕上げたらどうするか。何を文章から取り除く必要があるか。自分自身の経験から、小説と文章について、含蓄のある言葉を書き記した、短い本です。「小説作法」は、「ダーク・タワー」を仕上げるための準備体操だったのだ、と気が付きました。文章と小説と芸術についてのキングの言葉が、ダーク・タワーの中でいくつも符号していました。「ライフワーク」である作品を仕上げたあとも、キングは精力的に作品を輩出し続けています。近々、邦訳での刊行を予定されているのは、携帯電話を主題にした、その名も「セル」というタイトルの小説。大衆を描くことに長けたキングが、身近な存在の電子機器をテーマにどんな物語をつむぎだすのか、期待でいっぱいです。正直、ホラー小説を期待しています。キングの大ファンですが、「アトランティスのこころ」や「不眠症」、「骨の袋」のような小説は、「ダーク・タワー」に肩入れしている部分があって、正直、物足りなさを感じていました。「ミザリー」や「シャイニング」、「スタンド・バイ・ミー」のように、一本の独立した小説としての新作を早く読んでみたいものです。この1年間は「指輪物語」と「ダーク・タワー」という長大な物語小説を最初から読み直すという作業をしたせいか、自分の想像力が以前より、少しましになったようです。ますます小説を面白く読めるようになってきました。「ダーク・タワー」を読んで…キングが作品を紡ぐ人たちに、「ひるむな、進め!」と何度も鼓舞しているような気がしてなりませんでした。サンキャー、ローランド。サンキャー、エディ。サンキャー、ジェイク。サンキャー、スザンナ。サンキャー、オイ。そして本を読む楽しさを教えてくれて、世界につながる最初のドアを開けてくれたスティーヴン・キングに、サンキャー。車にひかれ、ヘリで救急搬送されて私たちファンをやきもきさせることが二度と起こりませんよう、そして死ぬまで良い本を仕上げてくれますように。それがあなたの<カ>だから。(平成18年12月30日)