ある鯉党のたはごと・2008その32:悪魔の数字学
このところ,カープ関連のニュースとして出てくる話は,主力選手の契約交渉のみである。今日は,石原が2200万円増の5000万円で契約を更改するという話が踊っていた。先日は大竹,昨日は嶋の更改が報じられていたため,残る注目は永川と栗原,そして前田智徳になる。もちろん前のふたりはどこまで基礎年俸を伸ばすか,前田智徳は下げ幅をどの線で落ち着かせるかとベクトルは違うのだが。ところで,最近12球団の選手の総年俸の合計ランキングなどと言うものがよく踊っている。しかし,雑学としてならともかく,あんなものに全く意味はない。むしろそんな数字を分析してありがたがるほうこそ羞恥心への道まっしぐらなのである。以下理由を。その1。そもそもプロ野球選手契約の法的性質をご存知だろうか。もちろん雇傭契約(いわゆる一般の労働協約)ではない。実はその基本は請負契約なのである。従って彼らがもらっているお金は「賃金」でも「給料」でもなく,あれは「報酬」なのである(正式にもあれは「参稼報酬」という)。ちなみに,労働組合関係以外においてはプロ野球選手は「労働者」ではないというのが労働法上の通説的見解であることを付け加えておく。そうなると,やはりその「報酬」の決まり方は,やはり過去の実績に照らしてこの程度の成果は達成してくれるであろうという実績に基づく期待値にならざるを得ない。従って,過去に実績を残して選手をたくさん抱え込んでいるチームの選手の総年俸は必然的に高く,またカープのように10年以上Bクラスのチームの年俸が低いのは当たり前なのである。すなわち,こんな数字を積み上げても何も生産性がない のである。その2。いまだに各球団各選手とも,年俸総額や契約の詳細を公式には明らかにはしていない。まあ表に出すといろいろ差し障りがあって大変なのは分かるが,いずにせよこれらの数字は確定値ではないのであって,そんなもので統計を取って何かを見ようとするほうが了見違いと言うべきだ。まあ,それは言い過ぎにしても,たとえば「出来高」。今のところカープでは外国人選手と東出,石井琢朗にしか正式には付いていないことになっているが,実際のところどんなサイドレターが着いているかは分からない。たとえば石原の5,000万という数字も,それで全てなのかオプション込みなのか実はサイドレターがあって本当は基礎年俸に過ぎないのかは,実は分からない(確か協約上はそういうサイドレターを巻くことは禁止ないし制限されていたと思うが,実体はその限りではないやに聞いている。「事実上の複数年契約」なるものもあったようだし)。さらに言えば,仮にそんなものがなかったとしても,表に出ている数字が本当かどうかすらも分からない。実はいろんな政策上の配慮から公式発表上の数字を抑えている可能性があるのだ。これは,カープにも先例がある。1986年オフ,その年投手タイトルをほぼ我がものにし,MVPも獲得した北別府は,熾烈な年俸闘争を繰り広げた。狙いを定めたのは,その年衣笠祥雄がもらっていたとされる年俸の6800万円(確か。違っていたら御容赦)越え,7000万の大台だった。ちなみに,その年限りで引退した山本浩二の年俸は推定8,000万円。これは王貞治の引退時と同じだった。このオフに落合博満がドラゴンズに移籍し,球界初の公式発表1億円越えの選手になったことは周知の通り。粘りに粘って越年目前の最後の交渉。ついに球団は7,000万円の大台をペイさんに提示した。しかし,合わせて驚愕の事実をペイさんに告げた。6800万円だと思っていた衣笠の年俸は実は7,200万円だったこと,そしてやはり推定6,500万円と言われていた高橋慶彦の年俸も7,000万円だったこと(これは更改後の数字だったと思う)。一応目標を達成してメンツが立ったこともあったのか,ペイさんはさすがにここでサインをしたが,その後数年間(特に翌年)のモチベイションの低さは案外こんなところにも起因していたのかと邪推したりもしている。まあ要するに,いろいろな理由があってプロ野球選手の年俸というものは我々プロレタリアートの給料と違って,クリスタルクリアに出来ない要素を多分に秘めているのである。それはすなわち,表に出ている数字の信憑性に疑問があることでもある。そんな数字を積み上げて作った統計など,カスほどの価値もないことなんて,まあこれ以上言うまでもないだろう。それにしても,ドラゴンライト先生のお言葉ではないが,忠誠心は金で買えるのである。したがって,ろくに勝てもしないようなチームがサラリーキャップ制よろしくシーリングを設けてこれ以上の人件費はダメ,などと言うことをやってはいけないのである。その意味では,今回の嶋,大竹,石原の契約更改の結果は,まあいい数字だったのかなという気がしてならない。もっとも,本物の独裁者は忠誠心は金で買えないことをよく知っている。おとなりの国のジョンイル君しかり,かつてのスターリンやヒトラーもそうで,猜疑心の塊のような人間でないと現代の独裁者は務まらないようである。悪いことに,ハジメちゃんはそういうところだけは過去の先陣を見習っているようだ。本日は脳内疲労により強制終了されたため小ネタも休載。BlogPeople↑ポチッと,クリックしていただけると励みになります。よろしくお願いします。