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釈迦楽

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August 16, 2009
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カテゴリ:教授の読書日記

 日本が生んだ世界的ジャズ・ピアニスト、穐吉(あきよし)敏子さんの自伝、『ジャズと生きる』(岩波新書)を読了しました。日本人でジャズをやるということがどういうことなのか、ちょっと知りたくて読み始めたのですけど、穐吉さんのみならず、アメリカという国について、なかなか示唆に富む本でした。

 穐吉さんは戦前の満州で生まれ育った方なんですが、やがて戦争が始まり、戦争が終わり、混乱の中で帰国される。で、満州でビジネスをされていたご両親も戦後の混乱の中で職が定まらない中、ピアノが弾けた十代の穐吉さんは、たまたま目にした人材募集のビラによってダンスホールみたいなところのピアニストの職を得る。で、そこでだんだん頭角を現していくんですね。

 その辺の話はまるで藁しべ長者みたいで、小さな地方バンドから始まって、やがてそこに飽き足らなくなり、もっと大きなバンド、もっと有名なバンド、さらには東京のバンドへと、どんどん出世移籍していくわけ。もう、向かうところ敵なしと言う感じですが、当時の日本人バンドマンたちも偉いもので、「もっといいバンドに移籍したい」という若い穐吉さんのある意味身勝手な要求に応え、彼女の希望をかなえるためにバンドリーダーがもっといいバンドのリーダーに紹介状なんか書いてあげるんですな。というわけでやがて穐吉さんは、日本の頂点に立ってしまう。なにせ日本にいるうちからアメリカのレコード会社に目をつけられ、一足先にレコード・デビューまでしてしまったというのですから、大したものです。

 となれば、次の夢はジャズの本場・アメリカへと向かうのは当然のことでしょう。で、ここでも穐吉さんは幸運に恵まれていて、知人のつてでニューヨークのバークリー音楽院への留学がかなうことになる。

 で、当時のプロペラ機でやっとこさっとこロスまで着いて、とりあえずその日はそこに泊まることにして、ロスのジャズ・クラブを覗いたところ、誰が知らせたのか、かの名ピアニスト、ハンプトン・ホーズから彼女宛てに電話がかかってきた、と。ホーズはかつて横浜の軍楽隊に所属していた時に穐吉さんのことを知り、その彼女がアメリカに来ることを聞いて、電話をかけてきてくれたんですな。

 で、彼に誘われるまま、別なジャズ・クラブに行ってみたら、そこにマイルス・デイヴィスが居た、と。で、そのマイルスから「一緒にプレイするか?」と聞かれたというのですから、アメリカではまだ無名の日本人ジャズ・ピアニストとしては、目の回るような瞬間だったことでしょう。もっとも、その時は彼女も気おくれがして、せっかくのマイルスの誘いを断ってしまったそうですが。

 ま、この辺の記述を読むと、おお、アメリカっていいなあ、と思いますね。無名だろうと何だろうと、まず人間として認め、もし実力があればジャズ・メンとしても認めようとする気風がある。

 というわけで、周囲の人の好意も手伝って、いわばトントン拍子に本場アメリカのジャズ・シーンに飛び込んだ穐吉さんですが、実はここからが穐吉さんの苦闘が始まるんですな。

 先ほど、実力さえあればバックグラウンドを問わず認めてもらえるのがアメリカだ、というようなことを書き、確かにそういう一面はあるのですが、やはりそんないい話ばかりではないのもまた、アメリカという国なんです。

 最初のうちはまるで自分の娘であるかのように扱ってくれたマネージャーから、次第にひどい扱いを受けるようになってしまったり、穐吉さんが女であることから、バンド仲間から色目を使われたり、とにかく彼女は人間関係の上で様々な嫌な思いをすることになるんですね。で、人間関係だけでなく仕事の方もまったくうだつが上がらず、渡米して10年間というもの必死で努力したにも関わらず、まったく注目を浴びることができず、アメリカで名前を挙げるには、実力だけでは足りないということをいやというほど思い知らされることになるんです。そしてさらに最初の結婚に失敗したり、娘さんとの関係が悪化したりと、私生活もボロボロ。

 穐吉敏子ほどの人ですら、日本人がアメリカでジャズをやるとなると、こういう困難が待ち構えていると。どうも、そういうことらしい。

 しかし、それでも彼女は堅忍不抜の思いで歯を食いしばり、ジャズを続けるわけ。そして渡米してから35年くらいして、ようやく本場アメリカでの地位も確立し、何とか自分の思うような活動ができるようになってきたと。この本は、そんな穐吉さんの苦闘の歴史を振り返ったものなんです。

 やっぱり、アメリカって国は甘い顔をしているようでいて、甘くないね。そのことが、この本を読んでいると、よーく分かる。

 ま、穐吉さんという人は、さほどの文才はありません。ので、これほどのドラマを含んだ人生を語っている割に、そのドラマ性がページから立ち上ってくるというようなものではない。そういう意味での味わいというのを期待してはいけません。しかし、その淡々とした語り口を反芻しながら読み進めると、こりゃすごいわ、ということが分かる。そういう本ですね。それにこの本には色々と有名なジャズ・メンたちが登場しますから、ジャズ・ファンからすると、その点でも面白く読めます。たとえばピアノの巨匠、オスカー・ピーターソンの人柄とか、MJQのジョン・ルイスの志の高さとか、この本から知りえることも多いと思います。

 ということで、日本が誇る世界的ジャズ・ピアニスト、穐吉敏子の自伝、教授のおすすめ!です。


これこれ!
 ↓
ジャズと生きる


 ただ・・・だからと言って、私が穐吉敏子のジャズをジャズとして認めているかと言うと、実はそうでもないんだなー。ま、その辺のごたくは、また後日。





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Last updated  August 17, 2009 12:14:45 AM
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ケンケン@ Re:想像ふくらむ、理想のアメリカ短編小説集(06/26) 先生と同業の末席にいるものですが、 その…
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