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テーマ:今日のこと★☆(106266)
カテゴリ:教授の追悼記
ついに大御所逝く、という感じですが、昭和演劇界の巨星・森繁久弥氏が亡くなられました。享年96。 ということで、今朝の新聞は多くのページを割いて、さまざまな方たちのコメントが掲載されており、私も大いなる関心を持ってこれらすべてを読んだのですが、中でも一番興味深かったのは、森繁さんとの共演も多い小林桂樹氏のコメントでした。 小林さんのコメントをそのまま抜き出しますと、 「森繁さんが出ていらした時、今までの俳優さんになかったしゃれた演技をなさる方だと思った。人間の弱い部分、本音の部分を素直に、いやらしくなく見せてくれ、その表現がとても斬新だった。事実を伝えるアナウンサーとしての経験やセンスを、俳優として開花させていった気がする。大変お世話になりました」 とのこと。 この小林桂樹氏のコメントの中で最も感銘を受けたのは、その後半部分です。つまり、森繁久弥氏の演技の底に、NHKのアナウンサーを務めていた時代の経験が生きているのではないか、と指摘した部分ですな。 物事を語る力、言葉で何かを伝える技術、それをアナウンサー時代に叩き込まれていたことが、その後の彼の演技に生きているのではないかというのが小林さんの見立てですが、なるほどそう言われてみれば、森繁さんの演技というのは「語り」の方面から「演技」の方に伸びていったもののように思えてきます。それは例えば、森繁さんと三船敏郎を比べた時にはっきりするのではないでしょうか。三船敏郎は、はじめに「動き」ありきの人であり、まず「ダイナミックな躍動」があって、それを演技の方向に伸ばしてきた感じがする。 それに、森繁さんが「語り」の人であったことは、長年続いたNHKの「日曜名作座」の語りの巧さからもうかがえます。そんなことを考え合わせると、小林桂樹さんの森繁観ってのはすごいなと思いますね。 また今朝の新聞には、森繁さん自身がさまざまな場面で発した「語録」が掲載されていましたけど、これもなかなか面白かった。例えば、杉村春子氏が亡くなった時、森繁さんは、 「ぜんざいを一緒に食べた時、『あなた、芝居しなきゃだめよ、ほかにすることないじゃない』と言われた言葉が心に残っています」(97年) というコメントを寄せられたそうですが、この杉村さんの言葉! いかにも杉村さんが言いそうな言葉で、その場に居合わせなかった我々にすら、杉村さんがどんな口調でこの言葉を発したか、容易に想像できるではないですか。ある意味、杉村春子という女優の存在すべてが、この短い言葉に凝縮されているような気がする。それを「心に残る言葉」として取りだしてきた森繁さんのセンス。これは大したものだと言わざるを得ません。 正直に言いまして、昭和育ちの私にしても、さすがに「社長シリーズ」「駅前シリーズ」の世代ではないためか、森繁久弥という俳優に対してさほど強いファン意識はないのですが、しかしこれだけ長い間日本の演劇界を支えてきた方だけあって、彼についてのエピソードを拾い読みするだに、「さすが森繁」の感はありますね。その森繁さんが亡くなったということで、私も一人の昭和の人間として哀悼の意を表したいと思います。合掌。 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
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