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釈迦楽

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May 30, 2010
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カテゴリ:教授の読書日記

 あー、デニス・ホッパーが死んだ。好きな俳優だったのに。

 
 それはともかく、神戸での学会から舞い戻って参りました~。疲れた。

 神戸大(国際文化学部)、今回初めて訪れたんですけど、なんか校舎とか教室の配置が迷路みたいで、よく分らんかったなあ。B棟の隣がF棟で、F棟の隣がC棟で、C棟の向かいがK棟で・・・っておいっ! M棟とかN棟はあるのに、G棟、H棟、I棟、J棟はないというね。どういう法則で校舎に名前をつけているんでしょうか。でまた、研究発表やシンポジウムが行われている各会場にその旨を示す掲示が出てないもので、ドアを開けるまで、本当にこの部屋でいいの?というドキドキ感がぬぐえなかったという。

 でまた、会場(=教室)の入り口がまた謎めいていて、例えば細い階段の踊り場とかにひっそりとあったりする。階段の踊り場から入る教室なんて、今まで見たことないですけどねえ・・・。

 で、肝心の研究発表ですけど、うーん・・・。どうなんだろうか・・・。私が聞いたのは主に若手の発表でしたが、なんか小さくまとまっちゃって、別に面白くもなかったなあ。っていうか、発表者に「どうだ、面白いだろう?! え、どうなんだ? オラ、オラ!」という気迫がないんだもん。萎縮しまくったような発表じゃ、大向こうが唸るかって。


 というわけで、学会の方はちっとも感心しなかったんですけど、名古屋と神戸を往復する間に読んだ小松茂美著『平家納経の世界』(中公文庫、多分絶版)は面白かったです。

 小松茂美さん、つい先日亡くなりましたけど、「古筆学」なる学問ジャンルを一人で作り上げたような方でありまして、この本はそんな小松さんの一種の自伝なんですな。

 で、それによりますと、小松さんの一生というのがまた凄いんだ。

 小松さんのお父さんという方は、国鉄一筋の国鉄マンでありまして、国鉄こそが最良の仕事場、大きな駅の駅長さんになるのが、まともな人間が望みうる最高の栄達と考えている人だったんですな。だから小松さんに対しても、小学校に入る前から国鉄マンになるための英才教育を施すわけ。国鉄で出世するには、字が上手い方がいい、というわけで、小松さんが学齢期に達する前から駅舎で習字をさせる、というほどの徹底ぶり。

 で、旧制中学を卒業した小松さんは、そんなお父上のご意向で、高校進学を断念させられ、国鉄に入社させられてしまうんです。友人たちが鉄道を使って楽しげに高校に通う傍らで、駅員として駅のホームを掃除しなければならない小松さんの哀しみ。

 ところがそれからしばらくして太平洋戦争が激化しまして、昭和20年8月、20歳の小松さんは兵隊にとられ、九州で入隊します。が、おそらく軍部としては「日本はもう負ける」ということが分っていたんでしょうな。鉄道員だった小松さんは、なぜか突然除隊を許され、広島にあった実家に戻ることになるんです。

 で、8月6日の朝、兵隊から戻ったことを上司に報告すべく広島駅に行った時、原爆に遭遇し、被爆するわけ。

 で、その時はなんとか無事逃げられて、西条にあった実家に戻るんですが、無事を祝う酒が妙に旨くない。翌朝から40度の熱です。で、翌日父親と一緒に病院に行って被爆したことを医者に告げると、医者からあっさり「あきらめなさい」と言われてしまうんです。

 で、そこから小松さんのお父さんの奮闘が始まるわけ。せっかく立派な国鉄マンになるよう育て上げた我が息子にここで死なれちゃいかんと。戦後の物資の乏しい中、どうやって工面したのか、毎日二羽の鶏を割いて、そのキモを小松さんに食わせたんです。来る日も来る日も。

 そしたら、原爆症が治ったと。

 とはいえ、体調が完全に戻るまでには少し時間が掛かりまして、今ひとつ不安がぬぐえない時期があるわけ。と、その頃、家の近くにある厳島神社で、平清盛が奉納したという「平家納経」が一部の人に公開された、とのニュースが新聞をにぎわすんんですな。で、どういうわけか小松さんはそのニュースにいたく刺激され、自分も一目それを見てみたいと思うわけ。

 で、色々手を尽くして見るんですよ、平家納経を。そしたら、そのあまりの美しさに一発で魅了されてしまったと。で、それを機に小松さんは、平家納経を研究したい、という願望を抱くわけ。

 といっても、中学しか出ていない国鉄マンが、平家納経を研究しようというわけですから、どこから手をつけていいか分らない。しかも今と違って、インターネットがあるわけでもなし、日本で誰がそれを研究しているのかすら、容易には分らない。

 それでも小松さんは手を尽くしては平家納経の研究者を探し出しては手紙を書いて、論文を送ってくれるように頼んだりしたんですな。で、また多くの研究者が、小松さんの要求にこたえて送ってくれたりしたんですって。もちろんコピー機なんてない時代ですから、全部手書きの筆写で、論文を送ってくれるわけですよ。

 とまあ、そんな調子で、一国鉄マンとして仕事をしながら、休みの日を使っては研究にいそしむ日々が続くんですが、当然、そんなことをしていたら同僚とうまくいくはずもなし。また国鉄の仕事を疎かにして変なことにのめりこんでいく小松さんを、国鉄一筋のお父さんが許すはずもなく、親子喧嘩の果てについに勘当されてしまうんですな。で、帰る家すらも失いながら、それでも小松さんは研究を続けるわけ。

 で、彼は平家納経に限らず、今から千年近く前の文献を研究するにあたって、残されている文献の実物を見ていくと、本によって異同があることに気がつくんですな。まだ活字というものの無い時代ですから、本の複製を作るには手書きで書き写すしかない。となると、書き写している途中で写し間違えたりすることがままある。で、その写し間違えのある文献をまた別な人が書き写しているうちにまたどこか間違えたりする。そうやって、何種類ものテキストができてしまうわけ。

 だから、残されている文献を集め、それを突き合わせることによって、どれがオリジナルなのか、あるいはオリジナルに最も近いのかを突き止めるところから始めないと、そもそも研究にならないと悟るわけ。

 そこで、小松さんは世に残っている昔の文献、いわゆる「古筆」と呼ばれるものを出来る限り探し出し、写真に撮り、細部に至るまで比較することによって、どれがオリジナルなのかを突き止め、かつ、それを書いたのが誰なのかまで突き止めていくんですな。

 千年前の筆跡を見て、それを書いたのが誰かを突き止めるんですよ。ほとんど絶望的な試みじゃありませんか。

 古筆といっても、それがどういう形で現代に残されているかはまちまちです。博物館に残っているのならまだしも、個人蔵となると、頼んで見せてくれるかどうかなんて分かりゃーしない。しかも、一続きの文章として残っているのならいいですが、もともと一続きだったものが、あちこち切られ、一部分だけが茶室の飾り用に装丁されていたりする。そういう断片的な古筆を何万点という単位で集めて、それを書いたのが誰かを突き止めるというのですから、気が遠くなってしまいます。しかし、小松さんはそれをやり遂げるわけ。

 でまた、小松さんには高等教育を受けた経験がないですから、それだけ一層、発想が自由なんですね。だから、古筆を比較研究するのに、警察が筆跡鑑定に使う特殊な顕微鏡が有効なのではないかと思い付き、つてを頼ってその機械を古筆の研究に応用してみる、とかね。

 で、そんな感じで、思いつく限りの手を尽くし、厳密なテキスト・クリティークをやった上で、小松さんは国文学上の、あるいは国史上の様々な発見をし、学界の常識を次々と覆していくんです。そしてそんな積み重ねを数十年続けながら、「小松古筆学」と呼ばれる学問体系をまとめ上げていくと。

 とまあ、そういう小松さんの学問上の足跡が、この本には書いてあるわけですな。


 まあ、読んで驚きますね。何に驚くって、学問への志の純粋さに。だって、生きるか死ぬか、まだよく分らないような時期に出会った平家納経の豪華絢爛な美しさ、その美しさに秘められた謎を解明したいという、ただそれだけの望みのために生涯を賭して研究を続けたってんですから、その志がすごい。でまた、その志を果たすための馬力がまた凄いですよね。

 で、その志と馬力によって成し遂げた仕事の量というのが、天文学的に凄い。こういう無邪気で純粋な動機に突き動かされた研究者には誰も勝てない、ということは確かですな。

 で、翻って自分を見るに、もう恥ずかしくて翻る気にもならない。小松さんみたいなのを研究者と呼ぶならば、私は確実に「研究者以外の何か」、であります。

 というわけで、とにかく小松茂美さんの研究の一端を知るにつけ、その凄さに圧倒されっぱなしのワタクシだったのでありました。この圧倒され具合は、少なくとも今回の学会では得られないものでありましたね。私にとっての学会は、神戸大キャンパスではなく、そこまで行く往復の新幹線の車内にあった、というべきか。

 というわけで、小松古筆学のなんたるかを知るためにも、小松茂美著『平家納経の世界』、教授のおすすめ!です。興味のある方はネット古書店へ急げ!





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Last updated  May 30, 2010 10:47:07 PM
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