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テーマ:本日のお勧め(379282)
カテゴリ:教授の読書日記
先日、近代ナリコ氏の『本と女の子』が非常に面白かった、という話を書きましたが、この本の中に登場されていた内藤ルネ氏のことが気になったので、氏の自伝『すべてを失くして』も取り寄せて読んでしまいました。
まあ、内藤ルネ氏と言えば、独特の画風で一世を風靡したイラストレーターであり、インテリアデザイナーであり、その他色々な人。その程度のことは私も知っていたのですが、この度、本書を読んで、色々ビックリ。 というのも、聞き書きで綴られるこの本の中で、ルネ氏は幼少の頃からのことを語っておられるのですが、もう幼少のみぎりから普通の男の子ではなかったらしいんですな。で、そうしたホモセクシュアルな自身の性向について、かなりあけすけに書かれている。もちろんそれは決してジメジメしたものではなく、そうなんだから仕方がないという具合に。ただ、そうは言っても、やはりこの世でそちら系の人々というのはなかなか生きにくいものでありまして、ルネ氏もそういう面でのご苦労は重ねて来られた様子。 でも、それはまあ、そういう話でありまして、それはルネ氏の生きてこられた軌跡の一部でしかない。自伝として面白いのは、やはり彼がイラストレーターとして名を挙げていく過程の面白さでございまして。 もともと絵を描くのが大好きだったルネさん、「それいゆ」「ひまわり」でお馴染み中原淳一先生に憧れ、その一念で自分の描いた絵を送り続けたというのですな。そして返事もないまま何十通も手紙を出し続けた結果、ついに当の中原淳一氏から「東京へ出てこい」という手紙を受け取る。これがイラストレーター・内藤ルネが生まれるきっかけ。 中原淳一氏のひまわり社に入社したルネさんは、とにかく人一倍努力して、来る日も来る日も絵を描き続ける。大好きなフランス映画に没入し、アメリカの雑誌などから情報をむさぼるように獲得しながら、そういうものをすべて吸収しつつ、自分の絵を進化させていくんですな。で、その努力が次第に実を結ぶようになり、たまたま病に倒れた中原氏をカバーするように、ひまわり社の看板になっていく。 ところが、人を疑うことを知らないルネさん、人の何倍も働き、ひまわり社を背負うような形で絵を描き続けて、彼が生み出したキャラクターが様々なところでグッズになっているのに、彼の懐にはまったくお金が入ってこないんですな。しかし、それでも絵が描けるのが幸せと思って、ルネさんは働き続ける。で、この図式はこの先もずっと続き、ルネさんは人の何倍も働いているのに、あちこちで人に騙され、売れっ子になった後も詐欺師にたかられて7億円もの財産を全部奪われてしまったりもする。 人を疑うことを知らないルネさんのこの純粋さは、もちろんある意味では彼の不幸を引き起こす直接の原因なわけですが、しかし、この純粋さがあったからこそ、彼は一心不乱に好きな絵を描き続けたのであって、つまりはこの純粋さはルネさんの幸福の元であると同時に呪いでもあったわけ。 だけど、どんな禍も、結局、ルネさんを破滅させることはできなかった。詐欺師たちに身ぐるみ剥がれ、それこそ一文無しになって放り出されてからの悲しい10年を過ごした後、たまたま彼の回顧展が開かれることとなり、これを機にルネ・ブームが再燃。今はまたご自身でも驚くほどの多くのファンに支えられて、幸福な日々を過ごしておられるとのこと。 それにしてもこの聞き書き自伝を読んでいて思うのは、この時代の人の熱さ、です。とにかく、自分の好きなものに夢中になる。その夢中になる力というのが半端ない。やっぱり、名を成す人というのは、誰しもこの「夢中力」を持っているもので、ルネさんもその一人だったと。 振り返って、果たして私は、ルネさんのように何かに夢中になって物事をしているだろうかと思うと、いささか頼りない気がしてきます。 だから、ルネさんって、やっぱりすごいなと。すごく素敵な人。 というわけで、内藤ルネさんの自伝、面白かったです。内藤さんのイラストに「萌え」た世代の人はもちろん、彼のイラストを見たことない人にも、教授のおすすめ!と言っておきましょう。 これこれ! ↓
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Last updated
March 12, 2013 11:34:00 PM
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