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釈迦楽

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June 14, 2015
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カテゴリ:教授の読書日記
 アメリカにおける自己啓発本の歴史に合わせて、日本での自己啓発本の歴史にもちょいと目くばせしておかないと、と思い、そっち方面の本もあれこれ読んでいるのですが、これがなかなか面白くて。

 例えば、第二次大戦後の日本では、やっぱり、敗戦という未曽有の出来事に遭遇した当時の日本人は、この先、どうやって生きて行けばいいのか、迷いが生じたと。

 そこで登場するのが「人生論ブーム」。三木清の『人生論ノート』がバカ売れするのがこの時期でございます。

 先日、哲学の先生と話をしていて、「三木清なんて、今読むとすごく難しいのに、よくそんな難しい本が売れたもんだよなあ」という話になったのですが、結局、すべての価値観がひっくり返ったところから、どうやって立ち直ればいいのか、当時の日本人の誰もが模索していたんでしょうな。だから、「死について」という章で始まる『人生論ノート』は、そういう当時の日本人のメンタリティにピッタリ合致したと。同様にこの時代、亀井勝一郎の『人間の心得』とか、三島由紀夫の『葉隠入門』がバカ売れしたのも、そういう背景があった。

 ところが、日本人ってのは、立ち直りが早いんですな。まだそこかしこ焼野原だってのに、早くも復興の槌音ですよ。

 1960年代になると、神吉晴夫のカッパ・ブックスから出た『記憶術』という本が大ブームになる。これは、要するに高校生は大学受験突破、大学生は就職試験突破、弁護士の卵は司法試験突破のための本であって、つまりは立身出世の術を伝授したもの。また、松下幸之助の『物の見方考え方』などもバカ売れして、早くも一生懸命誠実に働けば道は開ける、ってな話になってくる。

 ちょっと前まで、この先、人間としてどう生きて行くか、ということについて哲学的に悩んでいたのに、もう立身出世かよ!

 と、思ったら、やっぱり振り子の針は逆に振れるので、1970年代になると、仏教書ブームが来たりなんかして、もう一度、物質的繁栄に対する反省の時代がやってくる・・・。

 とまあ、そんな感じで、日本における自己啓発本の動向ってのも、なかなか面白いわけよ。
 

 で、そんなあれこれを読んでいるうちに、『記憶術』一書のみならず、1960年代にカッパ・ブックスが如何にベストセラーを量産したか、ということが判って参りまして。

 それで、そう言えば前に『カッパ・ブックスの時代』(新海均著・河出ブックス)という本を買ってあったよな、と思い出し、今日はその本を読んでおりました。

 で、これを読みますとね、カッパ・ブックス創生期、神吉晴夫の天才的な編集方針により、同社が快進撃を続けていた時のことがよく分かる。

 神吉晴夫は、自身、東大出のエリートなんですけど、岩波新書的な教養主義に異を唱え、もっと庶民的な、形而下の知恵を語るような本を出したいと思っていたと。

 それで彼が打ち出したのが、「創作出版」という手法。

 つまり、出版社側がまず企画を打ち出し、こういうテーマでこういう本を出そう、という風に決めるわけですな。そして、その企画に沿って本を書いてくれる著者を探す。

 それも、岩波新書のように、既に功成り名遂げた有名な著者ではなく、まだ本を出したことがないような無名の著者に頼む。そして、頼んだままにせず、出てきた原稿を、編集部員が徹底的にダメ出しし、何度も何度も書き直しをさせて、練り上げる。その過程で、ハイブラウな人間だけが理解できるような本ではなく、いわば誰でも読んで楽しめるようなものにする。そうやって、出版社が一冊の本をゼロから作り上げるわけ。それが「創作出版」の手法。

 で、『記憶術』も、『少年期』も、『頭の体操』も、『女の子の躾け方』も、『にあんちゃん』も、初期のカッパ・ブックスはそうやって作り上げられた。そして、それらがことごとくベストセラーになっていく。当時は十万部を越えなければ本ではない、と言われ、三十万部を超えてようやく本と認められ、五十万部を超えて初めて「流行」と言われたというのですから、ものすごい。

 ふーむ! 今の出版不況の時代からすると、考えられない数字だ! 今、三十万部を超える本って、年にそう何冊も出ないですよ・・・。っていうか、私もカッパ・ブックス全盛の時代に生れたかったぜ!


 とはいえ、やはりいい事ってのはそう長くは続かない。その後、1970年に有名な労働争議が起り、カッパ・ブックスの版元の光文社は相当な打撃を受け、神吉晴夫が事実上、社を追われたばかりでなく、優秀な編集者が離散して他社へ移り、それが「祥伝社ノンブックス」になったり、「ゴマブックス」になったりするわけ。逆に言うと、カッパ・ブックスのスピリットが、そうやって他社に拡散しながら受け継がれた、とも言えるわけですが。

 また、7年くらいかかってようやく労働争議が落ち着いた光文社は、その後も様々なトライをし、中には当たったものもあるし、全くの失敗に終ったものもあるのですが、カリスマを失った同社は総じて迷走を続け、結局、カッパ・ブックスは終焉を迎えてしまう。本書『カッパ・ブックスの時代』の後半部は、この光文社の迷走時代を辿りながら、あれほど成功していた出版社がどうしてこうなってしまったのかを検証しています。

 というわけで、自己啓発本の歴史を考えるための傍証として読み始めたこの本ですけど、最後には、なんか悲しいなあ、という読後感に終ったという・・・。

 だけど、出版社の運営っていうのは、なかなか難しそうですね。時代の波に乗った時はいいけど、一旦迷走が始まると、どろどろの泥濘。

 しかし、そうはいっても、おそらく、この出版不況の真っ只中においてすら、どこかにベストセラーを生みだす種というのはあるはずなのであって、それは一体どこにあるのか。それが見つかれば、私ももうちょい、なんとかなると思うのですけどね・・・。







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Last updated  June 15, 2015 12:53:32 AM
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