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釈迦楽

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October 28, 2019
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カテゴリ:教授の読書日記
久しぶりに、それこそ大学時代以来、三十数年ぶりに夏目漱石の『門』を読んでしまったという。

 そう、あれは大学に入りたての頃でしたかねえ。外国文学を志す身とはいえ、日本文学の知識のかけらもないというのではいかんだろうと我ながら殊勝なことを考えて、とりあえず漱石は読んでおこうと、片端から読破したのがそもそもの出会いでありまして。

 でも、あんまり沢山、それも順不同で読んだもので、どの筋書きがどの作品のものか、完全にごっちゃになっちゃった。ということで、今回『門』を読み直してみて、そうそう、こんな感じ~というのを漸く思い出したという。つまり『三四郎』の続編が『それから』で、『それから』の続編が『門』なわけよね。『それから』で人妻を奪った主人公のその後、みたいな。

 で、そういう観点からすると、人妻奪うと、人生終っちゃうんだなと。もう、すっかり日陰者よ。重度な日陰者。日陰者ジュード。

 でも、ちょっと変な話ではあるよね。だってさ、『門』の場合、主人公の野中宗助は、親友・安田の女だった御米を奪うわけだけれども、そもそも安田と御米って、結婚していたの? 表向き安田は、御米のことを「妹」として宗助に紹介しているわけだけれども。ま、百歩譲って、それは口実としても、正式に結婚してたのかなあ? 「内縁の妻」としている解説もあるようだけれども。

 仮に「内縁の妻」だったとすると、正式には婚姻関係にはないわけだから、単に御米の心変わりだよね。まあ、当然、安田と宗助は絶交することにはなるだろうけれども、それで終わりじゃない? そんな、安田も宗助も、大学に居られなくなりました、なんてレベルの話ではないような気がする。

 私は大学の教員だから言えるけど、仮に学生の誰かが、別な学生の内縁の妻を奪ったからといって、「この学生は退学処分にしましょう」なんていう動議は、「学生生活委員会」の議題には絶対に上がらないよ。

 しかも、宗助の場合、安田との友情が壊れたばかりでなく、大学も退学し、しかも大学のある京都にすらいられなくなって、広島へ、また九州へ、どんどん都落ちしていくんだけれども、友達のガールフレンド奪ったくらいで、世間に顔向けできなくなるようなもんか?? また宗助はおかげで実家にも戻れなくなり、父の死に目にも会えなかったようですが、親の立場からして、自分の息子が他人のGF取ったくらいで、勘当するようなことかね。そんな親、居る??

 私からすれば、まったくリアリティーがないね。私が宗助の親だったら、そんなことで大事な息子のことを勘当なんかしないよ。「安田君には申し訳なかったが、その分、御米さんを大切になさい」の一言で終りだよ。

 それから、宗助と暮らしている御米の控え目な感じからすると、とてもこの女が安田から宗助に気軽に鞍替えするような女には見えないんだよね。そこも、私にはまったくリアリティーがない。

 ま、でも、とにかく、すっかり日陰者になった宗助と御米は、たまたま子供の流産・死産が続いたこともあって、二人でひそやかに暮らしているんだけど、宗助も多分、まだ三十代くらいのはずなのに、もうすっかり老け込んじゃって、既に初老の風情。ちょっと情けないよね。

 で、そんなこんなで、宗助は色々悩んだ挙句、何か突破口になるのではないかと鎌倉のお寺に参禅することになる。

 で、この点について、批評家の多くは、「唐突すぎる」っていう評価を下すのよ。なんで突然、参禅なんだと。

 いや。しかし、私からすると、そこは理解できる。理由はともかくとして、悩みに悩んだ人が、宗教的なものにトライしてみようとふっと思いつくのは、リアリティーがあるよ。だから、私は、宗助が鎌倉の寺に向うのは、分かるのね。

 まあ、いつでもそうなんだけど、世間一般と私の解釈ってのは、いつでも180度違うんだなあ。一般の人は、宗助・御米が安田を裏切ったことと、その結果、二人が日陰者になったということには疑義を差し挟まず、宗助が参禅したことに疑義を差し挟むんだけど、私はまったく逆。御米は安田を裏切りそうもないし、仮に裏切ったからといって大したことじゃないと思うし、二人が日陰者になる必要もないと思うけど、宗助が参禅するのは納得なの。

 ま、どっちにしても、パッとしない終わり方をするんだけどね。

 ということで、そうだった、夏目漱石の小説って、人妻奪ってうじうじ悩む小説ばっかりだった、というのをすっかり思い出したっていう。そういう収穫はありました。

 それから、そもそもこの本を再読した理由は、この本の中に、自己啓発本のことが何か所か出てくるからなんだけど、一つは宗助が歯医者の待合室で『成功』という雑誌を手にとるシーン。もう一つは、宗助の隣人・坂井の話として、芸者が『ポケット論語』を愛読していたことを語るシーン。当時の日本で『ポケット論語』という本が人気を博し、芸者までもがそれを読んでいた、というね。そして最後は、宗助の役所の同僚が『菜根譚』を愛読しているというエピソード。漱石の時代からして、自己啓発本は日本に蔓延していたってことですな。それを確認できたことも収穫。

 ま、それだけ収穫があれば、たとえしょぼい小説だったとしても、読むだけの価値があったというものでございます。



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Last updated  October 28, 2019 09:27:05 PM
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