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釈迦楽

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October 7, 2020
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カテゴリ:教授の読書日記
先日、『荒野のおおかみ』という本を読み始めて、あまりにもつまらなかったので、ヘルマン・ヘッセ大先生のことをクソミソに貶しておきましたが、ゴメン、ヘッセ、最後まで読んだら、それほどつまらなくもなかったわ。

 最初の100頁くらいまで、すごくつまらないんだけど、そこから俄然、面白くなる。というのは、そこでヘルミーネという女性登場人物が出てくるから。そりゃそうだよね、50歳の男がごにょごにょ言っているだけの話なんて面白いはずないのであって、そこで女が出てきてようやく小説っぽくなる。

 で、思ったんだけど、やっぱり文学って、女なしでは成立しないなと。そこは超・納得してしまった。

 さて、それで忘備録としてこの本のおおよその内容を記しておきたいのだけど、主人公はハリー・ハラーと名乗る男。これが部屋を借りるために、ある家主を訪れるところから話が始まるんですな。で、家主のおばさんの甥っ子がやはりこの家に間借りしていた。で、その甥っ子がこの本のいわば最初の語り手になると。で、この甥っ子の観察によると、ハリーは50がらみの初老の男(20世紀最初の四半世紀だと、50歳で初老と言われちゃうのね・・・じゃあ、ワタクシなんぞは立派な老人だ)で、足が悪く、杖を突いているので余計老人っぽく見える。学者ではないようだけれども非常に知的、古今東西の文学に通じ、クラシック音楽にも造詣が深い。ただその生活は規則正しいものではなく、むしろ破天荒、酒も相当に飲むらしい。しかし、なぜか妙に人を惹きつけるところがある。

 で、ハリーはこの家に10か月弱滞在した後、ふいっと姿を消すんですな。その際、手記を残していった。その手記の扱いを、甥っ子に任せて。そこで甥っ子は、この印象的な男の残した手記を、公開する価値あると見て、公開に踏み切ったと。

 で、そこからハリー自身の手記が始まるんですけど、それによると、ハリーってのは、なかなか生きにくい人生を歩んできたらしい。知的な男で、ゲーテとモーツァルトの信奉者。研究職に就いてもいいほどの教養を身につけるものの、その道は選べなかった。

 というのも、ハリー自身に言わせると、彼は人間と狼のハーフ・ブリードだから。自分の内面に人間としての自分と、狼としての自分がいて、人間としてのハリーが前に出ると狼がそれをあざ笑い、狼としてのハリーが荒れ狂うと人間としてのハリーがそれを引き留めるといった調子で、両者の葛藤ゆえに前に進めないような状態だったから。で、こりゃいかんってんで、孤独を求めていたら、ホントに周囲の人間界から浮いちゃったと。で、以後、孤高の人としてさ迷っているわけ。

 なにせインテリですから、世間の愚かな人間には我慢できないし、第1次世界大戦の教訓も活かせずに次の戦争に向かって猛進しているような社会状況にも批判的。そして愚かな大衆のこぎれいな小市民的生活を嘲笑しつつ、しかし、小市民的のきちんとした生活に対して一種のなつかしさも抱いているところがある。自分の出自がそこにあったからなんですな。彼がいつも小市民的清潔さを重んじ、そういう清潔さのある小市民の家にいつも間借りするのは、そういう理由だったと。

 だからまあ、困った人なわけですよ。超俗にもなりきれない、俗にも混じれないというわけですから。ハリー自身も、自分を持て余しているんでしょう。それで、48歳くらいの時に、ハリーは一つの計画を立てる。それは50歳になったら自殺する、ということ。そして今、ハリーは50歳になり、いわば死地を求めてこの町にやってきて、今回の家を借りたと言ってもいい。しかし、そうはいってもやっぱり死ぬのは怖いので、ぐずぐずしていると。

 でまあ、そんなすさんだ気持ちで町をさまよっていたところ、彼は「魔術劇場」なる看板を目にするんですな。そこには、「狂人専用」と書いてある。狂人専用? じゃ、俺のためのものじゃないか、ってんでハリーはものすごく気を惹かれるわけ。で、そうこうしているうちに、その魔術劇場のプラカードを持った男に遭遇する。

 で、そのプラカードを持った男から、ハリーは小冊子を渡されるんですな。その小冊子には「荒野の狼についての論文 狂人だけのために」という表題がある。で、ここでハリーの手記はいったん終わり、ここからこの論文の内容が示されるんですな。

 で、その論文には自らを荒野の狼と名乗るハリーという男がどういう人間であるか、事細かに分析したものが書いてある。面倒臭いのでいちいち紹介しませんが、要するにハリーというのはファウスト的な二元論を生きる人間であると。

 で、自分のことについて詳細に書かれた論文を読んだハリーの手記が、この後に続きます。

 自分自身を腑分けした解体新書みたいなものを読まされて茫然としているハリーに、さらにいくつかの追い打ちがかかります。一つは見ず知らずの人の葬儀を見かけたこと。葬儀の様子から、参列者が早くこんなことは済ませて家に帰りたがっている様子が手に取るように分かる。なるほど、自分が今死んだって、こんな感じなんだろう、いや、もっとひどい葬儀になるだろうな、なんてことを考えさせられてしまう。
 
 でさらに悪いことに、ハリーはこのタイミングで昔の知り合いにばったり出会うわけ。その人とは昔、学術的なことで討論したことがあって、その人はハリーのその時の言葉にインスピレーションを得てさらに学問を深め、今は教授となっていた。で、偶然再会したものだから、その人はすっかり喜んでハリーを夕食に招く。

 ところがこの夕べはさんざんなものになります。学術的なことに関心のあった当時と違い、今のハリーは「荒野のおおかみ」ですから、教授との知的な会話なんて興味ない。逆に右翼的な考えに凝り固まってしまった教授に対して批判的・嘲笑的なことを言ったりしてしまう。

 極めつけだったのは、教授の居間に飾ってあったゲーテの肖像にケチをつけてしまったこと。その肖像がゲーテの本質をゆがめたようなものだったので、ハリーはたまらず批判したのですが、この肖像、実は教授の奥さんのお得意の品だったので、気まずいことになってしまったんですな。で、ハリーと教授は結局、けんか別れみたいなことになってしまう。

 そんなことがあったもんだからいつも以上に自暴自棄になって街をさまよい歩き、ほうほうの体でしけこんだのがとある一軒の料理店。で、ここでハリーのその後の運命を変える出来事が起こるーーそう、ここでヘルミーネという謎の女に出会うわけ。

 「ハリー・ハラー」という主人公の名前自体、作者の「ヘルマン・ヘッセ」を思い起こさせますが、そのハラーが出会う女ヘルミーネもまた、ヘルマンの女性名。しかもハリーにはかつて少年時代にヘルマンという親友が居たことになっており、ヘルミーネもちょっと両性具有的なところがあるので、いわばこの小説に出てくる奴は全員がヘルマン・ヘッセの分身と見ることもできる。

 とにかくこのヘルミーネという若い女と出会ったことで、ハリーの人生は激変します。

 ヘルミーネはいわばハリーの分身。ハリーと違って学問に詳しいわけではないけれども、別な形で知的であり、まるで最初からハリーに足りないものを知っているような感じ。もちろん、ハリーに足りないものってのは、小市民の生活ですな。

 で、自暴自棄&何をすればいいか分からくなっているハリーのために、ヘルミーネはまるで母親のごとく、命令口調でハリーに対してあれをやれ、これをやれと指示する。しかもヘルミーネがハリーにさせることというのは、およそハリーだったらしないようなこと、例えば酒場で若い女とダンスするとか、ジャズ音楽に興じるとか、麻薬をやるとか、そういうことばかり。しかし、魔性の女ヘルミーネの術中にはまったハリーは、自我を棚に上げて、もうヘルミーネに言われる通りのことを、嫌々ながらも全部やってのける。

 で、ヘルミーネは、ハリーにさらに若い女マリアをあてがって、このマリアが、性的手練手管を尽くしてハリーに回春させちゃう。ハリーにはエリカという、年に数回会う程度の恋人がいるにはいたんですが、もうエリカなんかどこかに消えちゃうほど、ハリーはマリアとの逢瀬に惑溺していきます。

 だけど、もちろんハリーが本当に憧れているのはヘルミーナその人なんですけど、ヘルミーナはそう簡単にハリーにすべてを与えたりはしない。準備が必要ということで、

 で、そうやってハリーを訓練していって、一通りダンスもできるくらいにした挙句、ついにクライマックスとして大仮装舞踏会が開催される。どうやらヘルミーナはこの仮装舞踏会を、ハリーの卒業式的なものにしようとしていたらしいんですな。で、ハリーもついにここに参加する。

 すると、これが地獄の一丁目。実はこの仮装舞踏会こそが、魔術劇場の入り口だったと。で、この魔術劇場は何段階もの階層制になっているらしく、ブルース・リーの『死亡遊戯』のごとく、ハリーは一段一段、地獄めぐりをしていくわけ。

 例えば「どの女の子もお前のもの」と書かれた部屋では、ハリーがこれまでの生涯で少しでも恋心を抱いた女の子たちが全員揃っていて、その全員とハリーはおいたしちゃったりする。

 かと思うと、「さかんな自動車狩り」という部屋では、ハリーは殺人鬼と化し、自動車に向かってバンバン発砲して人を殺しまくる。

 そのうち、ハリーが愛してやまなかったモーツァルトその人も登場して、ハリーと激論!

 で、そうこうしているうちに、ハリーはヘルミーネが恋人の楽師パブロと裸で抱き合っているところに遭遇、思わず嫉妬に駆られてヘルミーネをナイフで刺殺してしまう。

 そしてハリーが最後に出くわしたのが「ハリーの死刑執行」というお部屋。そこでハリーは今までの人生すべてを理解するんですな。要するに、人生は将棋みたいなもので、自分はずいぶんと下手な指し方をしていた。次はもっとうまく指すぞと。そうハリーが決意したところで、この地獄めぐりも、またこの小説も幕を閉じます。

 ・・・何コレ?

 っていうお話。

 後半のドタバタはもう、20世紀前半に書かれたとは思えぬほどの幻想的スラップスティックで、ちょっとこう、コーエン兄弟の『ブラッド・シンプル』のような感じ。あるいは、アレか、キューブリックの『時計じかけのオレンジ』みたいな感じ。

 結局・・・ハリーは、自殺者たることをやめて、生きることを決意したってことでしょうな? ヘルミーネに引きずられての地獄めぐりの中で、自分の中の「人間対狼」みたいな青臭い二元論はどこかへ消えちゃって、それどころかの多元論に直面し、だったらその多元世界を将棋の駒に見立てて、面白くあそんでやろうじゃないのっていうところまで成長・・・というか、逆に自己解体したと。

 なんかの解説で読んだけれど、『シッダールタ』を読んでヘッセ・ファンになった人から『荒野のおおかみ』を読んでガッカリした、と言われたのに対し、ヘッセは「自分も昔は成長譚を書いていたけど、人間、50を過ぎると成長じゃなくて自己解体するもんだ」と言ったとか。それを踏まえて、この小説を自己解体の物語と読めば、なるほどねと思わぬところもなくはない。

 あと、どうしてこの小説が1960年代のアメリカのヒッピーたちに受けたかという話ですけど、まあ、多分、パブロが使用する麻薬が、ハリーが自己解体を始める契機となること、それから小説後半の幻想的な部分が、麻薬でラリっている時の光景に似ているというあたりから、これが麻薬小説だと思われたんじゃないかなと。ティモシー・リアリーがこの小説を評して「LSD小説」と述べたことも、おそらく、大いに影響したことでありましょう。ジャズも、クラシックに代わる音楽として登場するし。

 麻薬やジャズの力で意識拡張し、成長するのではなく(成長は、既存のレールの上でなされるものだろうから)自己解体して古い自己に別れを告げ、新しい自分になるというあたりが、この小説がヒッピーに受けたところなんでしょうな。

 ところで、この小説について、学者はどんなことを言っているのかと、ネット上で探せる限りの文献を探ってみたのですが、これがまた誰もかれも大したことを言ってなくて、この小説についてのドイツ文学者の定見もないみたいね。ヒッピーに受けたのは心外だ、みたいなことを書いている人もいましたが、だからと言ってその人がこの小説をそれ以上に上手に解釈しているとも思えなかったし。

 つまり、変な小説なのよ。ヘッセの中でも結構異色作らしく、これが出た時には大分評価が分かれたようで。ま、そうだろうねえ。

 でも、全体として見て、最初に思ったほどはつまらなくなかったです。割とモダンだね。かといって、私がこの作品が好きかと言われたら、好きではないな。

 ま、そんな感じ。


これこれ!
 ↓

荒野のおおかみ改版 (新潮文庫) [ ヘルマン・ヘッセ ]





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Last updated  October 7, 2020 04:06:10 PM
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