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テーマ:最近観た映画。(39386)
カテゴリ:教授の映画談義
ガル・ガドット主演の『ワンダーウーマン1984』を観てきましたので、心覚えをつけておきましょう。以下、ネタバレ注意です。
2017年に公開された前作は、第1次世界大戦時の話であったわけですけれども、本作はその時から60年以上後の話。 60年以上経ったとはいえ、ワンダーウーマンことダイアナは女神さまの末裔ですから全然歳をとらず、相変わらずお美しいまま、今はアメリカのスミソニアン博物館に勤務しつつ、スパイダーマン的な立場で身の回りで起こる事件の解決に勤しんでいるわけ。しかし前作で恋人スティーブを失って以後、他に愛する人も出来ず、ひっそりと寂しい生活をしているんですな。 そんな時、スミソニアン博物館にやばいブツが持ち込まれます。それはある種の石なんですが、それに触れながら何事かを願うと、瞬時にそれが叶ってしまうというパワーを秘めた石なわけ。ただ願いは一回しか叶えられず、しかも、どうやら願いが叶うのと同時に、自分が既に持っていた重要な力を一つ失うという副作用もあるらしい。 で、その石を狙っているのが、マックス・ロードという実業家。マックスは一応、苦労人の石油会社のオーナー社長なんですが、頼みにしていた油田開発がうまく行かず破産寸前。で、このパワーストーンの力を借りて、一発逆転を狙っていると。 で、マックスは首尾よく石を手に入れます。 しかし、ここがマックスの賢いところなんですが、その石に向かって「油田を掘り当てさせてくれ」とか、そういう月並みな願はかけないんですな。そうではなくて、「私はお前(石)になりたい」と願うわけ。つまり、彼自身が、触れる者の願いを叶える力をもった人間になろうとしたわけ。 つまり、自分で石に願をかけたら、一度しか通用しませんが、自分自身が石のパワーを身につければ、他人の願を叶える力を持てる。そうやっておいて、他人にマックス自身に都合のいい願をかけるよう誘導すれば、何度でも自分の望みが叶えられると、そう計算したんですな。 で、まんまと石のパワーを我が物としたマックスは、欲望の命ずるままにどんどん願いを叶え、アメリカ大統領まで自分の意のままに操るほどになってしまう。しかも、全世界の人々の願いもどんどん叶えてしまうようになり、世界は人間の欲望のるつぼとなってしまうんですな。 さて、世界中の人間が、好き勝手に自分の願望を実現していく、そんな欲望ワンダーランドとなってしまった世界を、果たしてワンダーウーマンは救えるのか? どうやって?? …というようなお話し。前作と比べたら・・・ワタクシは前作の方が好きですが、今回の作品も150分の長丁場を感じさせないほど、楽しむことができました。 だーけーど。 話はここからだよ! この作品のキモは、「人間が願うことがすべて実現してしまう世界の悪夢」を描いているところにあるわけですが、これって、つまり、引き寄せ系自己啓発思想に対する強烈な批判になっているわけですよ。引き寄せ系自己啓発思想というのは、「人間が強く願うことはすべて実現する」という思想なんですから。 となると、自己啓発思想研究をしているワタクシ的には、聞き捨てならんわけね。 アメリカってのは、とにかく自由の国、チャンスの国で、無一物の出自から始めても、己の才覚とチャンス一つで成り上がり、おお金持ちになれる国というのが売りだったんですな。それがアメリカン・ドリーム・オブ・サクセスという奴で。 ただし、成功の可能性があれば、失敗の可能性もある。アメリカン・ドリームを夢見てアメリカにやってきても、結局成功できずに社会の底辺を蠢くことになる奴もいる。しかし、そういう失敗者のことはとりあえず無視して、ひたすら成功した連中のことを讃え、「ああなりたい」と人々に思わせて移民を惹きつける――これがアメリカのパワーの源であったわけですよ。 だから、「アメリカでは、成功しようと強く願いさえすれば、その願いは叶えられる」というのが、いわばアメリカの国是であったんですな。だからこそ、この国から「自己啓発思想」というものが生まれるのであって。 だけど、今回の『ワンダーウーマン1984』は、そういうアメリカ的価値観を否定したわけよ。そういうやり方だと、世界は混乱するよと。誰もが皆、好き勝手に自己実現なんかしてたら、世界はとんでもないところになっちまうよと。 別な言い方をするならば、「共和党のやり方じゃダメだよ、民主党のやり方で調整しないと」ってことなわけですよ。 あ! ・・・そういうことね。大統領が共和党から民主党に代わるタイミングでこの映画を出す意味ってのは、そういうことね。 だけどさあ・・・。 皮相だね! 自己啓発思想を批判するのはいいけど、批判の仕方が皮相的過ぎる。自己啓発思想ってのは、人間の欲望をフリーに発揮するのを容認する、というような単純なものじゃないよ。 ま、単純に解釈して、単純に答えを出すのがハリウッドだ、と言われたら、それはそうかも知れないけれども。 っつーことで、本作を楽しみながら、アメリカ社会が今、アメリカ本来の価値観を否定する方向に舵を切りつつあるなということを(若干の不安と共に)肌身で感じていたワタクシなのでございます。 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
Last updated
January 23, 2021 01:20:04 PM
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