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カテゴリ:教授の読書日記
何、石破も小泉も菅支持だとぉ?! 志のある政治家とは思えん。こいつら、終わったな・・・。
さて、本当はやらなくてはならない仕事が幾つもあるのですが、夏休みですからね。たまには仕事とは関係のない本を読んでもいいだろうということで、今日は一日、ノーマン・マクリーンという人の書いた『マクリーンの川』という小説を読んで過ごしました。これ、ブラピの出世作とも言うべき映画、『リバー・ランズ・スルー・イット』の原作ですね。 ちなみにですね、作者のノーマン・マクリーンはシカゴ大学の英文科の教授を長く勤めた人。人気のある先生だったようですが、研究書とかをバンバン出す人ではなく、学会での知名度と言うよりは講義の面白さで学生からの信頼の篤い名物教授だったらしい。 で、そのマクリーン教授がシカゴ大学を定年退職した後、74歳で出した自伝的小説がこれで、当初出版社で引き受けるところがなく、お義理でシカゴ大学出版局が3000部ほど刷ってくれたんですが、そしたら意外に受け、映画化もされたりして、ベストセラーになってしまったという。定年後の、それも74歳での処女出版ということで、出た当時はアメリカ中の文学系教授がこぞって色めき立ったらしいっすよ。「俺も、定年後に小説書くぞ~!」っていうことで。 で、自伝小説ですから、ここに書いてあることは実際にあったことそのままらしいのですが、以下、ネタバレで書きますので、これからこの小説を読もうっていう人はここから先は読まない方がいいですが、ノーマン・マクリーンは名前からしてスコットランド系アメリカ人で、モンタナ州の小さな町に暮らしていたんですな。で、マクリーンの親父さんは牧師で、ノーマンには弟ポールがいる。で、ノーマンとポールの男兄弟は、小さい時から親父さんに仕込まれて、フライ・フィッシングをすることをこよなく愛しているわけ。それはもう単なる趣味とかいうレベルを超え、人生で必要なことはすべて川とフライ・フィッシングから教わった的な、ほとんど宗教的なレベルで愛しているんですな。 だけど、親父さん、ノーマン、ポールの三人の中ではもうダントツでポールが、フィッシャーマンとして完成されているんですな。それは兄貴のノーマンもよく分かっているわけ。だけど、そこが兄弟の難しいところで、二人の兄弟仲はいいのだけれど、弟の方も兄貴への遠慮があるので、フライを飛ばすコツとかを直接アドバイスすることは出来ないし、ノーマンの方でもされたくない。二人とも頑固だし。 で、釣り人としての腕がいいから、というわけではないのだけれど、どうもこの二人兄弟のうちでは、弟のポールの方が、親父さんやお袋さんから愛されているところがある。それも兄のノーマンは気づいているし、そのことで弟をねたむことはないのだけれど、客観的にそうだな、というのは分かっている。 一方、社会人としてはノーマンの方が大人で、既に結婚しているし、(小説の中には出てこないけれど)後にシカゴ大学の教授になるわけですから、ちゃんとしているわけね。反面、弟の方はどうやら大学へは行かず、地元の小さな新聞社で記者をしているんですが、女性問題にルーズなところがあり、かつ、賭け事にも入れ込んで借金を作ったりし、しょっちゅう警察の御厄介になっている。 その意味で、愚兄賢弟の逆、賢兄愚弟なんですが、だけど、弟の方が愛されているところがある。ダメな奴ほど、手間のかかる奴ほど、愛嬌があって両親から愛される的なところがあるんですな。まあ、そういう状況ってのはよくあることであって、例えば聖書のカインとアベルの話でもそうでしょ。弟の方が神から愛されるっていう。だから、この小説におけるこの辺の親子関係/兄弟関係は、ある意味、聖書的な原型があるわけね。親父さんは牧師だしね。 だけど、やっぱり弟のポールの方は、しばしば問題を起こすと。 で、今回もポールがあることで人を殴ってしまい、店の什器なども壊してしまったようで、その返済の必要が生じたりなんかするんですな。 もちろん、そういうポールの所業は、単独のことではなく、何かこう、人生に不満があるというか、自分が社会にうまくはまってないというか、とにかくうまく生きれてないということの顕れなわけですよ。だから、問題を起こすポール自身、多分、苦しんでいるのでしょう。で、そのことはノーマンにはよく分かるんですな。だから助けてやりたい。 だけど、上から目線で「助けてやるよ」といって兄貴の助力を受ける弟ではないし、互いに頑固で、子供の頃からのライバル心もあるし、兄に対して素直に自分の苦境を打ち明けるなんてことがあるはずもない。それをノーマンは分かっているし、ポールも分かっているんですな。兄弟とも、助けたい・助けられたいは山々なんだけど、それが出来ないということも双方分かっている。 だから二人をつなぐのは、フライ・フィッシングしかないわけ。二人で川に行って釣りをする。この一点だけで、二人は解決しなければならない問題を先送りしつつ、心を通い合わせるわけですよ。 で、あれこれあって、最後、もう大分年老いた父親も含め、親子三人で釣りをする。そこでやっぱりポールは、三人の中で一番の大物を釣り上げて輝くんですな。で、普段は正面切って褒めない親父さんも、ポールに向って「お前は大したもんだ」と褒める。褒められたポールは、「いやいや、釣りを極めるにはまだあと三年くらいは掛かりますよ」ってな謙遜をする。 しかし、その三年はポールには与えられなかった。この親子そろっての釣りの後しばらくして、ポールは何らかの喧嘩に巻き込まれて、殺されてしまうんですな。 これ、実話ですからね。シカゴ大学教授のノーマン・マクリーン先生は、若い頃、仲のいい、しかし生活のすさんだ弟を助けられなかったと。そしてその思いをずっと抱いてきた。そして74歳になって、そのことを小説に書いたと。そういうわけね。 なかなかに切ない小説でございます。 訳者の渡辺利雄さんは、「ヘミングウェイを思わせる文体」ってなことを「解説」に書いていますが、うーん、どうですかねえ。ワタクシが思うに、全然そうじゃない。特に前半なんか、もっとはるかに外連味があるというか、いかにも(悪い意味で)文学的な表現があって、ちょっと鼻につくところがある。例えば冒頭の一文からして、 わたしたちの家族では、宗教とフライ・フィッシングのあいだには、はっきりとした境界線はなかった。 ・・・だからねえ。何、この嫌ったらしい書き方。トニ・モリスンみたいに嫌味じゃない? ヘミングウェイ的というよりは、片岡義男的と言うか。 というわけで、読み始めは「なんか嫌だなあ」と思っていたんですけど、さすがに最後の方になって、親子そろっての最後の釣りの場面とかになると、(なまじ「これが最後の釣りなんだ~」って予測できるだけに)、切なさが上回って、まともに読めるようになる。そういう意味で、前半、もっと素直に、変な文飾とかしないで書けばいいのにな~っていうところが少々残念だったかも。74歳の処女作とはいえ、やはり作者に気負いがあったのかな。 でも、まあ、全体的には「佳作」っていう感じ。これ、ひょっとして映画版の方が映えるのかもね。見たことないけど、今度見てみようかな。 っつーことで、今日は一日、モンタナの川辺に遊んでいたワタクシだったのでありました、とさ。 それにしても、邦訳のタイトル『マクリーンの川』って、意味不明だよね! 渡辺利雄さんの発案ではなく、集英社編集部の要請だったようですけど、そのセンスのなさたるや、どうしようもないな。 これこれ! ↓ USED【送料無料】マクリーンの川 (集英社文庫) ノーマン・マクリーン and 渡辺 利雄 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
Last updated
August 21, 2021 07:35:07 PM
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