|
テーマ:今日の出来事(289579)
カテゴリ:教授の読書日記
今日は論文の執筆に明け暮れているんですけれども、今回の論文のテーマは「死の自己啓発」。自己啓発思想が人間の死というものについていかに対処してきたか、ってことの大まかな見取り図を描くというのが狙いでありましてね。
で、そうなると必然、古代ギリシャ哲学から説き起こす必要が出てくるわけよ。 前に、大衆向けロマンス小説論を書いていた時期は、1740年あたりから説き起こしていたから、まあ300年も時代を遡れば良かったんだけど、自己啓発思想となると、発端が古代ギリシャとか古代インドの話になってくるからね。大体3000年くらい遡ることになる。今、まともなアメリカ文学者で、3000年遡った研究しているヤツっているかな。いないだろうな。それを見ても、いかにワタクシが「まともじゃない」かが分かるよね! ま、それはともかく。古代ギリシャの哲学者にエピクロスって奴がいて、快楽主義者の大将ということになっているんだけど、この人が人間の死について、こんなことを言っております――「人間は死とは無関係である。なぜなら、あなたが死を恐れているうちは、まだ死はやってきておらず、本当に死がやって来た時には、あなたが死と出会うことはない。故に、死を恐れることは無意味である」。 なるほど! そりゃそうだ。 っつーことで、論文の中でもこのエピクロスの言葉を引用したんですけど、このエピクロスの考え方ってのは、一見すると言葉の綾で遊んでいるというか、死というものとまともに取組もうとせず、単にふざけ飛ばしているような感じを受けなくもない。人によっては、不届きなことを言っている、なんて思うかもしれない。 だけどさ、エピクロスのこの言葉って、要するに「明日のことを気に掛けるな」ってことでしょ。将来の不安とか、そんなのどうでもいいから、「今、ここ」を生きろ、と。 となると、これはもう現代のポジティヴ心理学の主張と変わらないことになる。逆に言うと、現代のポジティヴ心理学が主張していることなんて、古代ギリシャにとっくに言われているよ! ということにもなる。 あ、これは面白いなと、私は思いました。 で、現代のポジティヴ心理学、とりわけ「フロー理論」によって「今、ここ」を生きることの意義を主張したミハイ・チクセントミハイをエピクロスと組み合わせたら面白いんじゃね? と思って、チクセントミハイに言及すべく、ウィキペディアでその名前の綴りを調べようとしたわけ。なにしろチクセントミハイはハンガリー人だから、普通の綴りじゃないのよ。そしたら・・・ ガーン! ミハイ・チクセントミハイは、つい二週間ほど前に亡くなっていたことが判明したのでした。2021年10月20日没。享年87。 えーーーー、そうなの? 知らなかったわ~。新聞の訃報欄に出てた? 少なくともY新聞には出てなかったような気がするぞ。 ふーん・・・。そうなのか・・・。私はチクセントミハイの書いていることが割と好きだったので、数多い自己啓発思想家の中でも、高く買っていたのに・・・。 ま、アメリカ文学プロパーなことだけやっていたら、多分、一生読まなかったと思いますが、たまたま自己啓発文学というテーマ設定をしたことで、私はこの人のことを知るようになった。ただそれだけの縁ですけど、「フロー」という考え方、「今、この瞬間を生きる」という考え方からは、私も多くのことを学ばせてもらいました。 ほんとに袖触れ合うほどの縁でしたが、これも他生の縁かも。このヘンテコリンな名前のハンガリー人の死を、私として、悼みたいと思います。合掌。 ![]() フロー体験喜びの現象学 (Sekaishiso seminar) [ ミハイ・チクセントミハイ ] お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
Last updated
November 7, 2021 04:11:43 PM
コメント(0) | コメントを書く
[教授の読書日記] カテゴリの最新記事
|
|