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テーマ:今日の出来事(292837)
カテゴリ:教授の追悼記
歌舞伎の中村吉右衛門さんが亡くなりました。享年77。あまりにも早いご逝去でした。
本当は歌舞伎役者としての吉右衛門さんを語れればいいのでしょうが、残念ながら私の知る吉右衛門さんといえば、やはり鬼平としての吉右衛門ということになってしまう。 思い返せば今から30年近く前、誰も知り合いのいない名古屋の地に赴任した時のこと。大学の仕事のある日はともかく、週末ともなると誰も遊んでくれる人もいないので、一人手持無沙汰のまま、自宅にこもるようなことが続き、いささか暇を持て余しまして。 そんな時、たまたま一人でボケ~っと夕ご飯を食べながら、寂しいのでテレビをつけたら『鬼平』をやっていましてね。まあ、普段なら時代物なんて興味ないんですけど、何しろ暇で寂しかったので、なんとなくそのまま見てしまった。 そしたら、それが面白かったんですわ。中西龍さんの独特のナレーションも面白かったし。 で、ああ、この時代劇は面白いなと思っていたら、最後にエンディング・テーマとしてジプシー・キングスの「インスピレーション」が流れた。 ええっ!? 時代劇のエンディング・テーマにジプシー・キングス?? す・ば・ら・し・い! というわけで、一発で『鬼平』のファンになってしまった次第。 以後、幾星霜が過ぎましたが、つい先日もこのブログで、名古屋あたりでお昼にやっている『鬼平』の再放送を見ていると書きましたが、今もなお鬼平に、そして鬼平を演じる中村吉右衛門に、魅せられている自分を発見したものでございます。 それにしても、吉右衛門演じる「鬼平」こと長谷川平蔵の人物像の面白さ。継母にうとまれ、一時はその母を切り殺そうとまでした少年時代、そして「本所の鉄」と恐れられるほどに荒れた若者時代を経て、火付け盗賊改め方の長官として江戸の悪党どもを震え上がらせると同時に、人よりも罪を憎むというのか、時に心がけの良い悪党には温情もかけ、更生して役に立ちそうな者はその取り柄に従って配下にもする。奥さんには愛情深く、出来の悪い子供には手を焼き、部下を大切にし、しかし時に厳しく指導もする。そんな懐の深い、人情味のある人物でありながら、それでいてどこかに影もあり、自他に対して非情なところもある。 そういう複雑な人物を、中村吉右衛門は見事に演じてみせた。もう、吉右衛門が鬼平か、鬼平が吉右衛門か、そんな区別がつかなくなるほどの名演と言いましょうか。よく「上司にするなら誰」というようなアンケートをすることがありますが、私だったらもう間違いなく、鬼平を、吉右衛門を、自分の上司にしたいと思ったものでありますよ。 まあそんな魅力的な鬼平を演じた中村吉右衛門が没したとあって、私としては、なんだかこう、私淑していたかつての上司を失ったような気になっております。 思えば鬼平の部下たちも多く鬼籍に入っております。佐嶋忠助(高橋悦治)、小房の粂八(蟹江敬三)、相模の彦十(江戸屋猫八)、大滝の五郎蔵(綿引勝彦)などなど。あの世で、親方の到来を待ちわびていたりして。 偉大なる歌舞伎俳優にして、天下の鬼平役者であった中村吉右衛門さんのご冥福を、心よりお祈り申し上げます。合掌。 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
Last updated
December 2, 2021 05:55:07 PM
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