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カテゴリ:教授の読書日記
ピーター・スワンソンの『そしてミランダを殺す』という本を読みましたので、心覚えをつけておきましょう。未読の方にはネタバレ注意です。
この小説、ロンドンはヒースロー空港のビジネスクラスのラウンジで、ボストン行きの飛行機を待つテッドとリリーが出会うところから始まります。テッドは何やら知らんけど事業に成功した若き富豪、リリーは二十代後半と思しき赤毛の別嬪さんで地元の大学図書館の資料係。で、意気投合した二人は、ラウンジで、また機内で、身の上話をすることになる。 身の上話というのは、親しい間柄だから共有できるというものではなくて、むしろ、その場限りの関係だからこそできるというところがある。そういうこともあって、また酒の勢いもあって、テッドはリリーに、自分の妻ミランダが、現在建築中の大邸宅の現場監督と浮気をしていることを知り、ミランダを殺したいと思っていることをリリーに明かしてしまうわけ。 と、それに対してリリーは引き止めるどころか、やっちまいなとテッドにけしかけます。っていうか、むしろ私が奥さんを殺すのを手伝ってあげると。二人で協力すれば、たとえばアリバイ証言もできるし、ミランダは殺されてしかるべきことをしたのだから、彼女を殺すのは倫理的に何の問題もない、と。 で、リリーにけしかけられたテッドは、財産目当てで自分と結婚したらしいミランダを殺す計画を、リリーと慎重に練り始める。そしてその過程で、美しいリリーに惹かれてもいく。ミランダを殺すのが主なのか、それとも殺した後、リリーを自分のものに出来るのではないかという思いの方が主なのか、段々わからなくなってくる。 ところが・・・。 計画半ばにして、テッドは、ミランダの浮気相手であるダゲットによって殺されてしまいます。なんと、実はミランダはミランダで、テッドを亡き者にする計画を立てていて、それで自分に気があるらしいダゲットを利用して、テッド殺害計画を成功裏に実行したというわけ。テッドが「ミランダの浮気」と見なした行為は、実はミランダがダゲットを道具に使うための手段だったんですな。 ということで、テッドによるミランダ殺害計画は宙に浮きます。が、この計画、リリーが引き継ぐことになる。実はリリーにはリリーで、ミランダを殺す理由があったんです。 さて、リリーがミランダを殺すべき理由とは何なのか。っていうか、それほど簡単に人を殺そうとするリリーという女は、一体ナニモノなのか??? っていう話。 この小説、各章がテッドやリリーやミランダなど、各登場人物の視点からの語りになっていて、それが次々と重なりあう形で事態の進行や過去のいきさつが露になっていく仕組みになっているのですが、そういう語りの構造も面白いし、リリーという若い女性サイコパスの造形も非常に興味深い。リリーは、ある意味極悪で、こんな人に狙われたらと思うとおっそろしいのですが、しかし、リリーが人を殺すにはちゃんとした理由があって、その理由を知れば共感できなくもない・・・っていうか、むしろ応援したくなる。 もう最後の方になってくると、重ねた殺人の履歴にも拘らず、なんとか彼女には無事、逃げ切って欲しいとまで、つい思ってしまう。そういう作品でございます。 それから、本書に付された解説を読んで分かったのですが、この作品にはパトリシア・ハイスミスの小説からの影響が強いそうで、そういうことを知って読むと、小説の導入部や、小説の終わり方などがなぜそのようになっているのかが良く分かる。その意味で、誰が読んでも面白いし、詳しい人が読んだらさらに面白いといったところがあるわけ。 というわけで、全体として実に面白い作品でした。教授のおすすめ!です。 これこれ! ↓ そしてミランダを殺す (創元推理文庫) [ ピーター・スワンソン ] お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
Last updated
March 3, 2023 03:17:39 PM
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