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カテゴリ:教授の読書日記
廊下の拭き掃除って、朝と夕方でやり方が異なるって知ってました?
ほれ、あの、クラウチングスタートみたいな恰好で廊下の端から端まで縦にダーって拭く、アレが廊下の拭き掃除だと思っているでしょ。ところが実はあれ、朝の拭き方なんですって。 朝の掃除ではまずはたきをかける。だから細かい塵が廊下にも落ちているから、クラウチングスタート方式でいいのだけど、これが夕方の掃除となると、今度は雑巾を持った手を左右に大きく振りながら、後ずさりしながら拭くんですって。これが昭和の家の掃除の常識。・・・と、平岩弓枝が言っていたそうです。 そういうの、もう、分からなくなっているよね・・・。 で、そういう常識がまだ辛うじて生きていた昭和40年代のあれやこれやを書いているのが、鴨下信一の『ユリ・ゲラーがやってきた』という本。あんまりヒマだから読んじゃった。 これこれ! ↓ 【中古】ユリ・ゲラ-がやってきた 40年代の昭和 /文藝春秋/鴨下信一(新書) この本、昭和40年代の日本の文化事情を論じた本なんですけど、昭和30年代くらいまでは、まだ戦後特有の明るさがあったものの、そのエネルギーが尽きた昭和40年代は、経済的な豊かさが確立された反面、文化的には不安と暗さがバーッと広がった時代であると。 その背景としては、大家族が崩壊して核家族へ、そして個人へという風に、組織が崩壊し、バラバラな個人の時代になっていったということがまず一つ。またそれまでは存在した社会規範が崩れ、社会のたがが外れてしまったということもある。そして安心できる大集団がなくなり、バラバラになった個人が、それでも連帯を求めて小集団をつくると、そこにカルトができ、カルトの求心力としてのアイコンが生まれる。昭和40年代は、アイコンが生まれた時代でもあると。 とまあ、これが大雑把な時代背景で、この見立てに従って個々の文化事象を見ていくと、確かにそういうところはある。 実際、不安と暗さの時代だった、という目で40年代を振り返ると、確かにこの時期、陰惨な事件が多いんですよね。連合赤軍とか大久保清とか。またオカルト(ユリ・ゲラーやノストラダムス)とポルノ(日活)の時代でもあったり。歌謡曲なんかでも、暗い歌詞のものが増えるし、「おらは死んじまっただ」みたいに、暗い内容のものを茶化すようなものも出てきたり。 映画は、洋画は話題作が次々に出たけど、邦画は全滅。その中で、気を吐いたのがヤクザ映画だったり。しかし、そのヤクザ映画の様式美も、いわば失われた規範への郷愁のようなものであって、やがて廃れていく。代わって出てくるのが、大集団には受けないATG系の映画だったり。 テレビ業界ではこの時期、ホームドラマが花盛りなんですが、一つの家庭を描くことで、一見、社会問題を排除しているように見えながら、実はホームドラマこそその時々の時事ネタがぶち込まれていた、なんてことも、本書を読んで知りました。嫁姑問題なんてのは、その一例なんだとか。 あとね、ホームドラマというのは、細部を見ると結構、不思議な世界だったりする。40年代はサラリーマンの時代のはずなのに、ホームドラマで描かれる家庭は、個人営業の家庭ばかり、とか。しかも初期には大家族が描かれるけど、そのうちにどこかに欠落のある家族、例えば大黒柱たる父の不在(「ありがとう」とか「細腕繁盛記」とか)が顕著になってくるとか。 あと、ホームドラマというのは、この時期万能で、例えば『8時だよ、全員集合!』なんかも、考えて見ればいかりや長介を父親とし、残りのメンバーを息子たちとみなした家族劇だと。あとこの頃に生まれた「ニュース番組」なんかも、キャスターを父親とする家族劇になっている、なんていう見立てはなかなか面白かった。 とまあ、私は40年代に子供時代を過したはずなのに、色々知らないことが沢山あって、分からない事が出てくる度に、ネット検索したりしながら、面白く読むことが出来た次第。 学者が書いた本ではないので、理路整然と書いてあるわけではないけれど、細かく拾っていくと収穫の多い本ではあります。この時代に興味がある方には、教授のおすすめ!です。 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
Last updated
May 19, 2023 11:29:45 PM
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