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カテゴリ:教授の読書日記
『敗戦後論』などの著作で知られ、2019年に亡くなった評論家・加藤典洋さんの死後出版の自伝、『オレの東大物語』を読みました。
加藤さんは1948年の生まれだから、私より15歳年長ということになりますか。15年の年の差なんて、大したことないような気もしますが、実際にはそうでもない――ということが、この本を読むとよく分かります。 この本、加藤さんが大病をされて、それこそ余命幾ばくもないという頃に、短期間に書きなぐるようにして書かれたそうですが、それはもちろん遺言のつもりで、ということではなく、ただレイトワークとして、残された時間の中で、書きたいことを、肩の力を抜いて、書いておこうという意図の下に書かれたものらしい。 ですから、書きぶりも(標題からも窺われるように)「オレ」という一人称で書き流されているんですね。そんなことから、読んでいると、なんとなくサリンジャーの『ライ麦畑でつかまえて』を読んでいるかのような錯覚に襲われるという。 実際に、この本は加藤さんにとっての『ライ麦』なんでしょうな。 山形の田舎の高校生だった頃から語り始め、それが一発合格で東大に入り、ご母堂様の秘めたる誇りになったこと、で、駒場の教養時代はそれなりに青春を謳歌していたものの、本郷に進学するようになった頃から、それこそホールデン的に周囲と合わせることが出来なくなり、そうこうしている内に学生運動が激しくなってきて、加藤さんもそれに巻き込まれてしまうと。 かといって、信念からその運動に身を捧げるという感じでもなく、常に運動の渦の端っこの方にいて、運動の中心部に対しても、また運動の外側の大人の世界に対しても馴染めず、といった調子になってしまうんですな。で、そんな調子だからこそ、学生運動自体が収束に向かった後も、何となく一人取り残されたように、その問題に自分なりのピリオドを打てないまま、今でいう欝状態になって、それで周囲から一人取り残されてしまうという。 まあ、しかし、その辺りの加藤さんの文章を読んでいると、学生運動とか東大闘争といったものが、当事者の学生それぞれに、いかに大きな刻印を押したかってことですよね…。その辺のことが、15年後に生まれた私たちの世代には分からないところなんですが。 それでも、若いっていうことはすごいことで、加藤さんが語る加藤さんの青春時代の話、そしてそこに出てくる友人・知人・先輩・後輩の話ってのは、面白いんだなあ。でまた、そこに出てくる人たちの中で、後に名を成す人も多くて、やっぱり腐っても東大だなあ、というところもあったりして。 そういう本を、死ぬ直前の加藤さんが書いたってことですよ。思うに、これを書いていた時(一日に二十枚とか三十枚の原稿を書いたそうですが)、加藤さんは病気の苦しさを、一時でも忘れたんじゃないかな。 ということで、この本、教授のおすすめ、と言っておきましょうかね。 これこれ! ↓ ![]() オレの東大物語 1966~1972 [ 加藤 典洋 ] お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
Last updated
July 14, 2023 05:41:53 PM
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