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カテゴリ:びしびし本格推理
変わった設定のロジカルミステリーを書く石持浅海が孤島ミステリーを描く。
○ストーリー 三重県の島は10年前に公開された伝説のアニメーション映画の舞台だった。ここを作品のファンの〈聖地〉としてイベントを開催しよう,町おこしをしよう,と圭子たち5人は東京から島を訪れた。だがイベントの開催に賛成している役場職員,地元のファンとは別に,かたくなに開催に反対する人々もおり,企画会議は緊張をはらむ。そしてついに殺人事件が発生する。そこには島の〈身代わり伝説〉も関係しているらしく・・・ ------------ アニメーション作品の舞台となって,物語の背景にリアルに登場し,作品が終了した後もファンがそこを〈聖地〉として訪れ,地元が観光地になる,という現象がいくつも起こっている。この作品は,そうした過程を前提にしている。 個人的にはこうしたアニメでの町おこしって,作品の配給会社や地元の役所が協力して企画を行っているものだと思っているが,この作品ではなぜか,ネットで知り合ったファンたちが,それを役所に持ちかけている。著作権とか無いのかね?この世界? 不自然な世界観は石持浅海作品の常だが,リアル志向を打ち出しているだけに,簡単にリアリティを放棄しているのが気になった。 ------------ 島を訪れる東京組の男性3人,女性2人の計5人だ。男性は,弁が立ち押しが強いリーダー,ボランティアとアニメに打ち込む窓際サラリーマン,口下手で内気な人,の3人。女性は,口下手で内気な人,小柄でコスプレ好きの2人だ。 彼らアニメファンが島を訪れたことで事件が起こり始めるのだが,それにしてもまるでコメディのように誇張されたアニメファンの姿だ。アニメ業界に関わる人々を内部から描いた辻村観月の「ハケンアニメ!」とは大きく異なり,そこはかとないアニメファンへの侮蔑を感じる。 ------------ 東京組5人が島を訪れた夜から,ある嫌がらせが始まり,緊張感が漂う。そして殺人事件が起き・・・と物語は一気に加速する。彼らに同情的な住職,ある程度理解がある実力者,と彼らに味方をする者はいるのだが,さらに島を釣りで訪れていた客が現れ,主人公たちを救い,地元民をなだめ,そして事件を解決する。 この人物は石持作品によく登場する〈性格も良くて,知識もあって,全てお見通しの探偵〉だ。これまでの作品では,ほとんどの場合,探偵役は〈エンジニア〉で〈大学院卒〉となっている。理由としては,冷静で論理的な思考をしていて,広い視野で観察をしているから,ということなのだが,これって石持浅海本人の経歴と合致している,というのがイヤミなところ。 今回の作品では,探偵役は,偶然主人公たちと同じ宿に居合わせたことで,事件解決に協力する。島で事件が起きて,たまたま主人公たちと同じ民宿に,名探偵が泊まっている確率ってどれだけあるんだろうか?たぶん限りなくゼロだ。 ------------ それとは別に,事件のきっかけや動機に,「アニメファンだから」「オタクだから」「○○○○だから」ということが理由になっているのが気になった。これってかなり危険なステロタイプで,よく出版社が許可したと思う。 ハッキリ言って,ダメだ。 青木有吾のデビューにより,石持浅海の存在価値はゆるいでいる。読者に見放されないように,方向性を正しく定める必要があるだろう。 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
Last updated
2015.04.26 19:05:58
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