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カテゴリ:びしびし本格推理
〈イヤミス〉の女王・真梨幸子のしかけ満載の連作短編集を読んだ。
○ストーリー 米田美里は,アパートの隣人から騒音に対するクレームを受けていた。彼女自身はひじょうに気を使って,最低限の音しか立てないように努力をしていたのに。疲れ果て,逃げるように実家に帰った美里は,実家の風呂に入って鼻唄を歌う。その時!! ------------ 真梨幸子は映画化された「殺人鬼フジコの衝動」で名前を知った。それでも長いこと手に取ることは無かったが,〈王様のブランチ〉で紹介されていた「人生相談」で興味を持つようになった。 新聞の〈人生相談コーナー〉に寄せられたいくつかの投稿の断片的な情報から,ある事件が浮かび上がってくる。・・・そのプロットを聞いて,「お?いつか読んでみよう」と思うようになった。 真梨幸子の作品を,なるべく順番に追ってきて,ようやく当初から興味を持っていたこの作品にたどり着いた。 ------------ こうして読み終えたのだが,確かにこの作品の構成はひじょうに面白い。だが最後まで至っても,短編ごとの時系列,過去に起きた複数の事件についてが不明確だ。このためパズルがピタッとはまる爽快感が得られず,読後感はスッキリしない。 あれ?〈ブランチ〉で紹介された「驚愕の真相が見えてくる」という言葉と微妙に一致していない気がするなあ。いろいろな伏線が張られ,タワーマンション(真梨作品恒例の仕掛け),出版社,文章教室,キャバクラ,謎の家,と複数の場所があり,と広い舞台が準備されているのに,あいまいなラストのおかげで,せっかくの作品が活きていない印象だ。 傑作になったかも知れないのに,ひじょうに残念だ。 ------------ 各編について簡単に感想を述べる。 「居候に悩んでいます」:相談者は少女で,家族が住んでいた家に,突然居ついた居候家族に対する怒りと悩みを述べている。現実世界では,どうやらそれから20年近く後のようで,少女の弟と思われる青年が主人公となっている。キャバクラ嬢に貢ぐために,今では彼一人が住んでいる家の売却を検討しようとするのだが,なんと?・・・〈イヤミス〉っぽい始まり方で,期待感はひじょうに高まる。2つの家族の不自然な同居生活,その裏に隠された闇とは? 「しつこいお客に困っています」:相談者は接客業で,苦手な客の担当をさせられて困っているというもの。現実では編集者・佐野山美穂の苦労が語られる。小ズルい同僚の岡部,大人し過ぎる作家・樋口義一,そしてエステ通い。〈良い人〉のはずの佐野山だが?・・・前の短編と複数の登場人物が重なっているのだが,まだまだよく状況が見えない。佐野山みたいな人っているよね(笑)。 「隣の人がうるさくて、ノイローゼになりそうです」:相談者は隣人から騒音の苦情を受けている。現実世界でも,タワーマンションの受付・コンシェルジュをしている米田美里は,隣人からクレームを受けていた。いろいろな不運が重なり,逃げるように実家に帰った美里だったが,くつろいでいた時!?・・・あまり他の短編とはリンクが無さそうだが,ホラーっぽい仕立てでピリッとしていて楽しめる。 「セクハラに時効はありますか?」――」:相談者は過去に部下の女性にセクハラをしてしまったサラリーマン。現実世界ではある会社で2人の課長が部長への昇進を巡って競争している。セクハラの投稿の主はどちらの課長なのか,会社の中でいろいろな憶測が飛び交う。最後に笑ったのは?・・・これもまた他の短編とはリンクが薄そうだ。同じ町の別の事件ということか? 「大金を拾いました。どうしたらいいでしょうか」:相談者は札束の入った袋を拾ったと戸惑う人物。現実では食品工場でバイトをしている3人の男女が,休憩時間に話し合っている風景が描かれる。バイトの1人・野山寛治は,新聞記者の川口寿々子が講師を務めている,文章書き方教室に通い,出来れば小説家になりたいと思っている。ある時から川口に連絡がつかなくなり・・・他の短編で名前は出ていた川口寿々子の登場だ。これは過去編ってことだろうが,では現金の出所は??? 「西城秀樹が好きでたまりません」:相談者はアイドル時代の西城秀樹のファンで,彼が自分に向けて歌を歌っていると主張する。現実世界では,編集者・佐野山美穂が再登場し,樋口の依頼で過去の〈人生相談〉について調べ始める。・・・〈人生相談〉と過去の事件のリンクが見え始める。それを調べている作家・樋口の目的は? 「口座からお金を勝手に引き出されました」:相談者は夫にへそくりを盗まれている女性。現実では編集者・岡部が相変わらず愚かな行動をしており,キャバクラ嬢に貢ぐ金欲しさに妻の口座に手を付ける。さらに岡部は人気作家・武蔵野寛治に作品を書いてくれるように頭を下げるのだが・・・舞台はタワーマンションに戻り,いろいろとまずい状況の岡部が無様な姿をさらす。最初の短編の家の話も登場し。でもまだよくわからない。 「占いは当たりますか?」:相談者は結婚を控えている女性。親が占い師の言葉を信じて結婚に反対を始めた。現実世界では作家・武蔵野寛治と妻との生活が描かれる。武蔵野の妻のところに,佐野山の同僚・高橋が現れ,過去について質問をする。そして悲劇は・・・えっ?この女性もサイコなのと驚いてしまう。登場人物が全員どこかおかしくない?? 「助けてください」:相談者は亡夫の借金のため逃亡生活を送っている。現実世界では,新聞記者・川口が2つの家族を救うために,同居をさせる。そして20年後,複数の調査結果が明らかになり。・・・怒涛の勢いで物語は進むのだが,あちこち不明な点を残したままなので,普通に読んでいると読者は完全に置いてけぼりになる。いろいろと不親切で損をしているなあ。 惜しい,実に惜しい。 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
Last updated
2015.12.13 18:57:30
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