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2016.05.07
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〈チーム・バチスタ〉あるいは〈田口&白鳥シリーズ〉の海堂尊作品の策士・彦根新吾が主人公となった作品を読んだ。

○ストーリー
北陸の中堅養鶏場〈ナナミ・エッグ〉に,ワクチン製作のために有精卵の納入してもらいたい,という話を持ち込んだのは,裏がありそうな怪しい男・彦根だった。養鶏場の娘・名波まどかと,大学院のゼミ仲間は,周りの反対を乗り越え,このプロジェクトを成功させようとする。一方で,ナニワでは,霞ヶ関の官僚機構に対して反旗を翻した風雲児・村雨知事を中央政界に進出させるべく,彦根たちが活躍していた。西日本独立のための資金集めのために,彦根はモンテカルロ,ジュネーブ,そしてヴェネツィアまで行く。そんな中,ナニワに対して,2度目の〈ワクチン戦争〉が仕掛けられる。彦根の,まどかたちのプロジェクトは間に合うのか?

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複数の海堂尊作品に登場しながら,ずっと得体の知れない人物だった彦根新吾が主人公だ。スマートで皮肉屋,神出鬼没と,癖が強い海堂尊作品のキャラクターの中でも,もっとも嫌味ったらしい人物で,最初は絶対敵方の人間だと思っていた。いまだに底が見えない怖さはあるけど。

さて物語は,別の作品「ナニワ・モンスター」の続編という色合いが強い。「ナニワ」で語られた,ナニワ市への最初の〈ワクチン戦争〉の,第2ラウンドが語られているからだ。

また時間軸が,〈田口&白鳥シリーズ〉の「ケルベロスの肖像」と同一であり,終盤の展開を理解するには,桜宮での〈Aiセンター〉の事件の内容を知っている必要がある。

さらに,モンテカルロでの展開を理解するには,〈ブラック・ペアン3部作〉を読む必要がある。

とにかく大量の予習が必要な小説となっている。

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そうした過去の因縁から切り離されているパートが,名波まどかと友人たちが進める有精卵の製作・納入プロジェクトだ。土地もキャラクターも新しく,のびのびとした感じでストーリーが展開する。

ところどころにこのパートが入っているのは,清涼感があって良かった。厳しいけれど善人,という人ばかりで,ちょっと甘っちょろいという印象もあったけれど。

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大阪府知事の村雨のキャラクターは,現実の橋下徹・元知事の行動や経歴に重ね合わせて修正してある。もっとも村雨は彦根の指示に従わなかったため,新党を結成して中央政界へ打って出たものの既存勢力に絡め取られる運命が示唆されている。

逢坂剛の〈百舌シリーズ〉最新作「墓標なき街」も実際の政治を下敷きにした物語に修正してあったが,こういうリアリズムが流行りなのだろうか?まあ,ちょっとは面白いけれど。

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危険なことをほのめかしておいて,いざって言うときにはその場にいない。無責任な詐欺師のような描かれ方をしてきた彦根新吾だが,この作品ではなかなか活躍する。

また彼と同等の策士・原田雨竜が登場し,〈ナナミ・エッグ〉が大ピンチになる,という展開ではハラハラした。

ここまで頑張ったのだから,ラストシーンも許せるよね。読み応えあった。













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Last updated  2016.05.08 16:15:24
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